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第2話 俺ら、付き合ってみっか?(2)

「でもね、先輩。そうじゃなくって、今日のはちょっと……告白されてしまったというか」  犬塚が恥ずかしげに俯く。だろうな、とは思った。 「男からってマジかよ。確かにまあ、わからんでもないけど」 「あー、俺ってそんなふうに見られるんですかね。中学のときにもあったんですけど、そういったのどうも疎くって――それに、今の俺には……」  言葉の続きを待ったのだが、犬塚はそこで口をつぐんでしまった。一瞬、大人びた表情を浮かべたものの、すぐにいつものあどけない笑顔に戻る。 「それよりさっき、初めて俺の名前呼んでくれましたよねっ?」 「は? あ……そーいや、そうか」  言われて初めて気がついた。まったくもって気にしていなかったが、不破は今まで一度も犬塚のことを名前で呼んだことがなかった。こうして改めて言われると、気恥ずかしいものがある。 「えへへ、嬉しいっ」  犬塚が満面の笑みを浮かべる。こんな些細なことで喜べるとは、なんておめでたいヤツだ――そう思う一方、不破の胸にもあたたかな感情が芽生えていた。  今までだって異性との交遊は少なからずあったし、別に鈍感なつもりもない。ここまできたら、否定する気だって失せるというものだ。 「なあ、ちょっと確かめさせてくれねェか」 「え? わっ、先輩……!?」  犬塚の手を引いて、人目のつかない死角へと移動する。そして周囲に誰もいないことを確認するなり、不破は犬塚の体を抱きしめた。 「あっ……あの、先輩?」  腕の中で、戸惑いを露わにする声が聞こえてくる。だが、不破はそのまま犬塚の肩に顔をうずめた。 「……乳臭くてマジでガキみてェ」  それが率直な印象だった。けれど、不思議と嫌じゃなく、むしろ心地よいとさえ思える――本能的に受け入れられると察してしまった。 「なっ、なんですかそれ! いきなり抱きつかれたと思ったらひどいっ!」 「しかも、つま先立ちになってやがんの」 「だって、先輩がおっきいからあ!」  二十センチ、いやもう少し差があるか。そのようなところも含め、何もかもが可愛らしく思えるあたり、いよいよ認めざるを得ないだろう。 (俺は、コイツのことが……)  一度認めてしまえば止めようがなく、不破はさらに強く犬塚を抱き寄せた。すると、騒がしかったのが急に大人しくなる。 「せ、先輩、からかってるなら……」 「からかってねェよ」 「じゃあ、さっきから何なんですか? ガキだの、チビだのって……先輩のいじわる」 「『チビ』とは言ってねェだろ。可愛い、って思っただけだっつーの」  犬塚の顔を間近で見つめる。その頬がみるみる紅潮していくさまを見て、不破の中で何かが弾けたような気がした。 「やっぱお前、可愛いな」 「先ぱ――」  犬塚が上を向いたところで、不破は優しく唇を奪ってやった。ムードも何もあったものではないけれど、彼に触れたいという衝動が抑えられなかったのだ。 (ああ、フツーにキスできちまった)  初めて触れた犬塚の唇は、想像よりもずっと柔らかくてあたたかかった。  ゆっくりと離れれば、目の前には呆然とする犬塚の顔がある。まだ状況が理解できていないらしい。

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