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第18話
行為の後、すぐには動き出せなくて、朝霞がベッドから抜け出すことが出来たのは、しばらくたってからだった。
する前は酒も入っていたし、興味が勝ってしまっていたが、シャワーを借りて冷静になってみると、恥ずかしさが勝ってしまう。
シャワーから出て、着てきた服に袖を通して、リビングへと歩いていく。
先に着替えを終えて座っている遠山の視線が痛い。
「お茶、飲めば?」
テーブルに置かれたお茶の前に腰掛けて、入れてくれたそれに口をつける。
――今後、どうしたら…?
やってしまったものは仕方ない。事実を消すことが出来るわけでもないし、今すぐ忘れろと言って忘れてくれるはずもない。朝霞自身も忘れられそうにない。ただ、この後どうしたらいいのか、わからなかった。
谷山と遠山の二人と別々にデートと言うか食事に行くだけのつもりだったのに、計算外だ。お茶を飲みながら、朝霞が黙ったままでいると、同じように黙っていた遠山が先に口を開いた。
「あのさ、こうなったのも、なんかの縁だよな。あんたが俺の隣に住んでたのも、俺の調教を素直に受けたのも。でさ、せっかくだから、このまま俺のモンにならねえ?」
「はぁ?何言って…」
確かに、遠山と隣同士だったのは偶然だ。けれど、遠山の言う意味が瞬時には理解出来なかった。遠山は何の話をしているんだろう。
「何?社内恋愛禁止的な謎のルールでもあんの?俺はあんたが気に入ってる。で、あんたはやられる側に回りたい。しかもちょっと強引なのが好きだろ?俺はそれを与えることが出来る」
「いや、だからって、そんな…」
朝霞は確かに遠山の顔が好みだ。その上もともと惹かれている。遠山の言う通り、遠山なら朝霞の求める快感を与えてくれるのだろう。それはついさっき体験したのだからわかっている。だとしても、こんなことになること自体が想定外なのだ。
返事に困っていると隣に座っていた遠山は、うーん、と唸り何かを考えているようだ。そして、何かいい案を思いついたようで、朝霞の方に視線を戻した。
「ま、迷ってんなら、返事は後でもいい。そうだな、二週間もしないうちに、あんたから来るだろ。やりたくなったら家に来い。そん時は俺のモンになってもらう」
抱かれてから一週間。
朝霞はとりあえず谷山に、付き合うことは出来ないのだと返事をした。谷山はと言うと、なんとなくわかってたんで、と言ってその後の朝霞との関係はいつも通り仲の良い上司と部下という関係だ。
問題なのは、遠山の方だ。
隣同士とわかってから、声は聞こえてこなくなった。おそらく遠山が声のボリュームを調節したのだろう。朝霞の方も、知ってしまってから自分でするもの聞こえるんじゃないかと気になって、まともに自分で慰めることも出来ないでいた。
だからだろうか。日が経つにつれ、悶々としてしまって身体が疼くみたいだ。
――どうする?…どうしたら…。
迷っている理由は、一つではない。会社の人間、しかもかなり年下。男同士ということはもともとゲイだから気にはならないが、遠山は男でなくてもいける人間だ。
そんな相手に踏み出して、やっぱり女の方が良いと言われたら。見た目も身体も好みだと思ってしまったから、余計に踏み出せないのかもしれない。
それでも、朝霞の心の迷いを打ち砕くみたいに、抱かれたときの感覚を思い出してしまう。ベッドに横になると、壁越しに聞いた声と、朝霞を抱いている時の遠山の姿が浮かんできて、耐えられなくなってきた。
――…もう、無理だ。
ベッドから抜け出した朝霞の行動は早かった。あの日の時点で、本当は受け入れたかったのだろう。けれど、怖いと感じてしまってしり込みしてしまったのだ。
朝霞は駆け出す様に部屋を出て、隣のインターフォンを鳴らした。
『開いてる。入って来い』
インターフォン越しに入室の許可が下り、玄関のドアをあけた。中に入ると、ベッドルームのドアの前に立つ遠山と視線がぶつかる。
「どうして欲しい?」
朝霞に尋ねる遠山が笑う。朝霞は遠山に歩み寄り、視線を逸らすことなく言った。一週間も待てる気がしない。
「お前のモノになるから、好きにすればいい」
「ははっ、最高。良くしてやるよ」
そのまま手を引かれ、ベッドに押し倒される。
――ああ、この声に、俺は狂わされる…。
END
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