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第62話 湯船の中で ※
「あー幸せ……」
「それ何回目だ?」
壱成と一緒にお風呂につかり、壱成を後ろから抱きしめて幸せを噛みしめると、壱成がおかしそうに笑った。
「だってすげぇ幸せ。壱成と一緒に風呂入って頭が洗えるんだぞ?」
「顔も洗えるしな?」
「もうなんっも嘘つかなくていいってほんと幸せ……」
「ああ、そうだな」
俺に寄りかかる壱成が、顔だけ振り向いて俺の唇にキスをした。
ふれるだけのキス。唇をくすぐるように合わせて二人で微笑んだ。
今日は背中の打撲を見ても壱成は泣かなかった。
ベッドから動くときに俺の背中を見て一瞬表情は曇ったが、俺が手を繋いで歩き出すとすぐに嬉しそうな笑顔になってバスルームに向かった。
今日は俺の身体を楽しそうに洗ってくれたし、俺の息子を意地悪そうにいじる余裕まであった。
「よかった……」
「うん? なんだ?」
「もう俺が元気だってわかったよな? 安心できたよな?」
じゃれ合うようなキスのあと、ぎゅっと抱きしめて俺は問いかけた。
すると、壱成は腕の中でおかしそうに笑い出す。
「え……なんで笑ってんの?」
「安心できたよ。すごくな」
「それは嬉しいけど、なんで笑ってんの?」
「だってお前、あんな無茶な体勢でガンガン突く元気があったのかって思って。思い出したら笑えるだろ?」
「あ、あんときはもう必死でっ! 俺だってあんなんできると思わなかったし」
「……怪我してるからか?」
「じゃなくて。騎乗位で寝たまま抱きしめながらなんて、やったこともねぇし」
わざわざ騎乗位で動いてる相手を抱き寄せてまでやりたいなんて思ったこともなかったし。
「ふうん」
どこか壱成らしくない返事が返ってくる。気になって顔をのぞき込むと壱成は笑顔だった。なぜか嬉しそうに笑ってた。
「なんで嬉しそうなの?」
「だって嬉しいだろ」
「なにが?」
「お前の初めてだったんだろ? あの体位」
「まぁ、な?」
「だから嬉しいんだ。俺しか知らないお前がまだいたんだなって」
なにそれ。え?
そんなことで笑顔になんの?
なにそれ、可愛すぎるんですがっ?
「お前の初めては他にもあるのか?」
「え……っと、それは体位の話?」
「体位の話だ」
「そ……そんなのいっぱいあるよ。わけわかんねぇ体位いっぱいあんじゃん。俺なんて基本しか知んねぇよ」
「ふうん。じゃあ腕が治ったら全部やってみるぞ」
「は? え、本気?」
「なんだよ、だめなのか?」
「い、いやぁ……全部は無理じゃね?」
「そんな難しい体位があるのか?」
「うーん、と。とりあえず……こたつもねぇし、な?」
壱成が俺を振り返って不思議そうな顔をした。
なんで今こたつが出てくるのかと言いたそう。壱成、本当に知らないんだな。
「よくわからないが、こたつが必要なら買う」
「……へ? え、マジで言ってる?」
「お前の初めてが俺のものになるなら、こたつくらい買う」
ええ? だからほんと可愛すぎるんですがっ?
マジで全部やってみるつもり?
どんな体位があるか調べて壱成と……想像したら鼻血が出そうだ。
「京、硬くなってるぞ?」
「……誰のせいだよっ!」
「この体位は初めてか?」
「この体位?」
「このまま入れたら、初めてか?」
「あ、当たり前じゃん。やったことねぇよ」
壱成はふわっと嬉しそうに笑って腰を浮かすと、すぐに俺のものを後ろに入れた。
「はぁ……っ、ん……」
「ちょっ、壱成……っ、ばかっ、ローションっ! ぅ……っ」
「まだ……中は洗ってない、から大丈夫だ。……ん、あっ、京……っ」
そうだ。壱成は俺の身体ばかり丁寧に洗って、壱成の中を洗ってる様子は無かった。今日はさすがにもう無いと思っていたから洗ってると思い込んでいた。壱成のことだから、今日は一回だけだって言うと思ってた。
壱成を抱きしめている俺の手に壱成の手が上から重なりぎゅっとにぎられた。
ゆっくり上下に動く壱成の腰。湯船が波打って音を立てる。
「……あっ、ン……ッ、きょうっ、…………あ……っっ」
途中何度も壱成は腰の動きを止めて荒い息を整えた。
湯船で繋がるのは初めてで、もうそれだけで興奮した。
壱成が俺を振り返りキスをして、お互い夢中で舌を絡め合う。
「もう……イッちゃいそう……だ……。すまん……」
壱成の言葉で気がついた。
いつもと違って壱成が果てると動けなくなって終わってしまう。だから、俺のために必死で何度もこらえていたんだ。
「イッて壱成。俺もイク……からっ。俺もずっと我慢してた」
「よ……かった。……あっ、もう……っ、も……っ、ンッあ…………ッ!」
「う……っ!」
同時に果てて壱成を抱きしめた。
壱成はクタリと俺に身体を預けて、湯船汚しちゃったな、と笑った。
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