「なぁ壱成」 「なんだ？」 　片付けも終わり寝る準備を済ませ、二人で寝室に向かってベッドに横になる。 「腕が治ったらさ、一緒にバーに顔出しに行かね？」 「ああ、そうだな。行ったほうがいいよな。俺もお礼がしたい」 「よかった。さんきゅ」 　俺たちがいま一緒にいられるのはシークレットサンタのおかげでもある。 　マスターには人生のパートナーになったことも伝えたいけど……やっぱだめかな。 　そんなことを考えながら腕枕をしようと腕を伸ばすと、壱成は予想どおり「だめだ」と顔をしかめた。 「大丈夫だって。あんだけ激しく動いても背中痛くなかったし。あれが大丈夫なら腕枕だっていいだろ？」 「そ……」 　反論しようとした壱成が口ごもる。 「は……鼻がかゆくなったらどうするんだ」 「は？」 「片腕しか自由じゃないのに、腕枕なんかしたら鼻もかけないぞ？」 「んー、じゃあ、かゆくなったら壱成を起こしてかいてもらうかな？」 「……絶対だぞ？」 　冗談で返したら本気にされた。やべぇ……可愛い。 「うん、わかった。絶対起こす」 「つらくなったら俺は気にせず腕を抜けよ？」 「わかったわかった」 「絶対だぞ？」 「うんうん」 　わかってないだろ、とグチグチ言う壱成を抱き寄せて腕の中に閉じ込めた。 　やっと壱成を抱きしめて朝まで眠れる。夢が叶う。 　 「あーやべぇ……すっげぇ幸せ。俺さ。ずっと夢だったんだ。朝まで腕枕で壱成と寝るの……」 「……俺も、だ」 「え、壱成も？」 「ずっと、お前に抱きしめられたまま朝まで眠ってみたかった。お前の腕の中で……目覚めてみたかったよ」 「……マジで？」 　あーだめだ……。俺の中に、俺の知ってる“榊さん”のイメージが根強く残っていて、そこから外れた壱成の可愛い仕草やセリフで、俺の心臓はすぐに爆発しそうになる。 「京、動悸がすごいぞ？」 　心臓のあたりに手をあてていた壱成は、おかしそうに、嬉しそうに笑った。 「壱成が可愛すぎて……俺死んじゃうかも……」 「……お前が死んだら俺も死ぬぞ」 「そのセリフ禁止っ」 「じゃあお前も禁止だ」 「……うん」 　壱成も俺と同じように朝まで一緒にいたいと思ってくれていた。本当に嬉しくて幸せだ。 「…………あ、そっか。もう嘘はいいって……あのときにはもう、ノブが俺だって気づいてたんだな？」 　仕事が入ったから帰ると言おうとした俺に壱成が言った『もう嘘はいいよ』のセリフ。『俺が眠るまでここにいてほしい』というセリフ。あれはカラコンのせいで泊まれないことを、もう知っていたんだ。 「……正解。あのときにはもう知ってたよ」 「うわぁ。そっか。じゃあ、あの日抱いたときも俺だってわかってて……うわぁ」 　なんか想像すると壱成がすげぇ可愛い。やばい可愛い。語彙力失くす……。 「いつから知ってたんだよ……めっちゃ気になるじゃん……」 「それに関する質問は一日一回な」 「へっ？　なんでっ？」 「そうすれば長く楽しめるだろ？」 　俺の胸に顔をすり寄せて楽しそうに笑う壱成が可愛いくて、もうなんでもいいやという気分になった。 　一日一回か。明日は何を質問しようかな。 　 「おやすみ。壱成」 　そうささやき、ぎゅっと抱きしめて頭にキス落とした。 「…………おやすみのキスは、ないのか？」 　顔を上げて拗ねる壱成に、俺は口元が笑いそうになってぎゅっと力を込めた。 　それを見て、壱成が照れ隠しのように俺を睨む。 「また、わざとか？」 「壱成の『キスしてくれ』が聞きたくて」 　怒った顔をしてるのに、唇をふさぐと途端に甘えるように舌を絡めてくる。俺の頬を撫でる手が優しくて心地いい。 　唇が離れていって、壱成は俺の胸に顔をうずめた。 「京」 「うん？」 「俺が甘えても、本当に引かないか？」 　その質問がすでに可愛くて参る。 「最高に嬉しいからいっぱい甘えてよ」 「……じゃあ、お願いがある」 「うん、なに？」 「……おやすみのキスは、毎日してくれ」 　なにその可愛いお願い。やばい。悶絶しそう……。 「うん、もちろん。毎日するよ」 「それから……おはようと、行ってきますと、ただいまのキスも毎日してくれ」 　どんな顔でそんな可愛いこと言ってんだっ。 「うん。たとえケンカしててもするから」 「絶対だぞ？」 「……も……ほんと可愛い。愛してるよ、壱成」 　ぎゅっと抱きしめて頭にキスをした。 「俺も愛してる……京」 　キスをして、おやすみを言って、だけどお互い眠れない。俺たちは眠るまで何度もキスとおやすみをくり返した。 　初めての腕枕の朝は幸せしかなかった。 　目覚めてすぐに俺の腕の中で眠る壱成を見て、胸が熱くなって涙が滲んだ。 　愛おしくて幸せで、これが毎日続くのかと思うと本当に夢のような気分だった。 　頭にキスをして壱成のサラサラの髪を指で梳くように撫でていたら、壱成の口から「ん……」と声が漏れ、身体がかすかに動いた。 「壱成、起きた？」 　声をかけると、壱成の動きが止まった。 　まだ寝ているのかと思ったら、頬を胸にすり寄せ、手で俺の胸を撫で、足でスリスリと俺の足を撫でる。 　ゆっくりと顔を上げた壱成は、いまにもとろけそうなほどの笑顔で頬に紅をさし俺を見つめた。 　　 「京」 　おはようと言いたかったのに、壱成に見惚れて言葉を失う。 「京、愛してる」 　おはようと言われるのかと思えばまさかの『愛してる』に、たまらなくなって唇をふさいだ。 「ん……っ、きょう……おはよう……」 　唇を合わせながらの『おはよう』に笑ってしまう。完全に順番がおかしい。朝のあいさつよりも『愛してる』を優先した壱成が、なによりも愛おしい。 「おはよ、壱成。俺のほうが愛してるよ」 　ずっと夢見てた腕枕で迎える朝は、俺の想像よりもはるかに幸せな朝だった。