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第21話 息が出来ない

 今日もオーナーに引けを取らないムチムチ加減のおじさんが光輝いて見える……!! 「さ、パパが来たからもう大丈夫だよ~」 「おじさん、今日はどうしたの?」  うん、パパじゃないから呼ばないよ?  きゅう、って悲しそうな顔しても呼ばないからね? 「久々にナティが来てるって言うからはるばる会いに来たんだ」  そういえばおじさんもオーナーとパーティ組んでたって言ったっけ?って事は兄王子とおじさんも一緒に組んだ事があるって事かな?  オーナーのパーティロイヤル&ノーブル過ぎない……? 「チラッと話は聞こえたけど、おじさんの大事な甥っ子を王城に連れていくって?」  兄王子が何故か納得した顔で僕を見てきたから何となくこの人は僕のお母さんの顔を見た事があるんだろうな、って思った。   「兄上が納得しなくてな」  仕方なさそうなため息は兄王子がこの王城行きにあまり賛成してない事が窺える。だからと言って将来王になる王太子には逆らえないんだろう。  パルヴァンの王太子がどんな人柄なのかはわからない。あのバカ殿下みたいなバカじゃない事を祈りたいけど、お飾りの婚約者だった僕が他国の情報なんて持ってるわけもないから。  だから怖くてオーナーの服を握ったままおじさんの返事を待ったんだけど。 「なら仕方ない。おじさんも一緒に行こう」  その答えに思わず思いっきりおじさんを振り返ってしまった。  王城行き自体を止めて欲しいのに!  今度は僕がきゅう、って悲しそうな顔をしたからかおじさんにそんな顔しないでー!ってオーナーごと抱き締められる。オーナーがおじさんのおでこ押して引き剥がしてくれたけど。  っていうか!僕の推しに勝手に抱きつかないでくださーい!!何かモヤッとするから! 「そもそも行かないとまず納得しないし、逆に魔王だから来ないんだ、なんて難癖つけられても嫌だろう?」  僕が暫定魔王だから行きたくないんだよ!  確かにマリオットは他にも資質を持った人間いるかも、って言ってたけどそれだってただの推測だ。元になるストーリーから外れてるとは言え、本来のラスボス(魔王)は僕。鑑定の魔導具がどこまで真実を映すかわからない以上、今の僕を鑑定される事には恐怖しかないのに。  だって魔王じゃなくても魔力量で目をつけられたら? 「オーナー……」  最後の希望を込めてオーナーを見上げたけど、わかってる。さっきも思った通りオーナーも僕も平民だから王族の命令に逆らうなんて絶対無理。 「今日今すぐ、ってわけじゃないんだろう?」 「そりゃね。こっちにも準備があるから」  準備って何の?  僕を捕まえる為の?  そんな事考えてたら段々頭痛くなって来て、視界がグラグラと揺れ始めた。  息が出来なくて、ひゅ、って喘いだ声に気付いたオーナーの焦った顔がぼやけた視界の向こうに見える。直ぐ抱き締めてくれるオーナーの腕は暖かいのに、まだひゅ、ひゅ、って変な音が喉の奥から漏れてて苦しい。  何でこんなに苦しいの。  息が出来ない。  あれ、僕毒盛られた?いや、そんなわけない。だってオーナーのご飯しか食べてないし、食べてから時間も経ってる。  じゃあ一体なんで?  混乱してますます息が出来なくなっていく。 「ウル!」 「小さい子、落ち着いて!」  苦しい、苦しい。  胸元の服をぎゅっと握りしめて息を吸おうとするんだけど全然空気が入って来ない。 「飲め!」  マリオットが差し出した抑制剤を口に入れるけど苦しくて喘いでる間に涎と一緒に外に押し出されてしまって飲み込めない。  オーナーが舌打ちしたのが聞こえて心臓がぎゅう、って痛くなった。  だめ、迷惑かけたら嫌われちゃう。  笑わないと。    そう思って笑おうとした口に柔らかなオーナーの唇が押し付けられた。 「んん……!?」  一度離れて、息を吸え、って聞こえて、直ぐにまた塞がれる。今度は息を吐け、って言われて吐いて、吸えって言われて吸ってキスの後で吐いて。  何度も同じようにされる内に少しずつ肺に空気が入ってきて、さらに何度目かのキスと一緒に冷たい水が流れ込んで来てこくりと飲んだ。 「そうだ、『良い子だ(Goodboy)』。ゆっくり息を吸え」  は、は、ってまだ荒い息を止めるみたいに何度もオーナーのキスが降ってくる。 「オー、ナー……」  大きく息を吐き出したらさっきまであんなに苦しかった呼吸が楽になった。  でも見上げたオーナーは王子を見てて。何だかちょっと寂しくなって大好きな大胸筋に擦り寄ったらそのまま抱き締めてくれるのが嬉しい。   「だから言っただろ。ウルはまだ安定してないんだ」 「ごめんね、小さい子。怖がらせちゃったんだね」  王子が手を伸ばしかけてびくり、と竦む僕を見てその手を引っ込める。  っていうか同じSub同士なのにどうしてこんなに過剰に反応しちゃうんだろう。  あのおじさん達がこっそり『コマンド』を使った時とかこの間のラーグにキスされた時みたいな嫌なモヤモヤがあって、ぐ、っとせり上がってくる吐き気を手で押さえて耐えた。 「とりあえず今日は全員帰ってくれ。特にDomは一刻も早く」 「おじさんも~?」  可愛らしく唇に人差し指を当てて首を傾げたおじさんに思わず笑ってしまったけど、顔を顰めたオーナーが僕に無理をさせるな、って怒って本当にみんな帰してしまった。  でも出て行くおじさんと何かアイコンタクト取った気がしたのは気のせいかな?  最後にマリオットの気がかりそうな視線を残してばたん、ってドアが閉まった瞬間僕はトイレに駆け込んでゲロゲロと吐く羽目になった。  せっかくオーナーが朝ごはん作ってくれたのに全部出ちゃった……。 「オーナー、ごめんね。全部吐いちゃった」 「いいから、ほら。こっちに来い」  ベッドに座るオーナーが自分の膝をポンポンと叩く。  え、それって……オーナーのムキムキなお膝に乗れって事ですかー!!今までも何度かやってもらってるけど、本当にご褒美過ぎる!  推しが優し過ぎて辛い……!!  でも乗らないなんて選択肢は全くないので乗らせていただきます!ありがとうございます!  いそいそと逞しいお膝に横向きで乗って、同じく逞しい背中に腕を回したらあとは大胸筋に思う存分スリスリするだけだ。 「王城は行かないとダメかな」  しょぼ、っとして呟いたら僕の頭にオーナーのキスが降って来た。 「……ダメだろうな。でも安心しろ。バルドは意外に役立つから」 「辺境伯だから?」  やっぱりパルヴァンでも王族と辺境伯って微妙な間柄なのかな? 「バルドだからだな」 「……んん?」  辺境伯だから、じゃなくておじさんだから?  首を傾げる僕の背中をオーナーの大きな手がゆっくりと撫でてくれる。  Subドロップを起こしたり起こしそうになったりする時はいつもこうやって僕を落ち着かせてくれるオーナーの手は魔法の手みたいだ。  たまに柔らかな唇が頬とかおでことかに落ちて来て恥ずかしいんだけど安心する。  安心してふわふわとした感覚が睡魔に変わるのに時間はかかんなくて、僕はいつの間にか暖かい腕に抱かれたまま眠りに落ちていた。    

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