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第104話
翌朝、寝不足の朝霧はげっそりとした表情で食卓に座った。
「帝、あんまり眠れなかった? 」
朝霧と正反対に晴れやかな笑みを浮かべた夏川が食卓に皿を置く。
目の前には彩りの鮮やかなサラダやツヤツヤと黄色い半熟のスクランブルエッグが並んでいる。
いつもなら腹の虫が自然と騒ぐ光景なのに、朝霧は胃が重く、食欲がなかった。
向かいに座った夏川がフォークを手に取る。
「いただきます」
美味そうに自分が作った朝食をどんどん口に詰め込んでいく夏川を、朝霧はぼんやりと見つめた。
500人。
ふと昨晩の会話を思い出し、朝霧の胃がきりりと痛んだ。
目の前の食事にも手を付けず、顔を顰めている朝霧を見つめ、夏川が首を傾げる。
「帝、どうかしたの? 食事冷めちゃうよ」
朝霧は慌てて無理やり口角を上げると、フォークを手に取った。
「いや、どうしようもしないよ。わあ、美味しそうだな」
はしゃいだ声をつくると、朝霧は食事を始めた。
いつも通り。いつも通り。
朝霧はそう念じながら、サラダを口に運んだが、砂を噛んでいるようで、まともに味も分からなかった。
夏川とは視線を合わせられないし、受け答えも鈍く、朝霧は全くいつも通りに振舞うことができなかった。
夏川がふいに食事の手を止めて、そんな朝霧をまっすぐに見つめる。
「あの、帝、もしかして……昨日の話」
緊迫した雰囲気を切り裂くように電子音が鳴り響いた。
夏川は着ていたスウェットから、スマホを取り出すと、眉間の皺を深めた。
「ごめん。仕事の電話だ」
夏川はそのまま寝室で10分ほど通話し、朝霧のところに戻って来た時は大きなため息をついた。
「ごめん、帝。トラブルが起きて、どうしても俺が店舗に行かなきゃならなくなった」
いつもならがっかりする場面だが、夏川と一緒に過ごすのを気まずいと感じていた朝霧は笑顔で頷いた。
「ああ。分かった。仕事なら仕方ないよ」
そんな朝霧を夏川が複雑な表情で見つめる。
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