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 先生は、俺の目を見て『死んでみる?』と聞いた。イカれた恍惚さに、俺は恐怖で震えながらイッた。  どれだけつまらない日々でも、クソみたいな将来(さき)しか見えてなくても、まだ死ぬのは勘弁だ。まだ17だぜ?  それに、すっげぇ不本意だけど、放っておけない事もできた。こんな頭のおかしい弱虫を、俺はちょっとだけ好意的に思ってる····かもしれない。とりあえず、それを確かめたい。  わかんねぇ事ばっか遺して、自分の気持ちすら分からないままで投げ出したくはない。先生の言葉を信じたわけじゃないけど、俺がスッキリするまで恋人ごっこをしてやってもいい。  それに、あの奏斗とかってクソ野郎をどうにかしてやりたい。  ひとまず、このサイコ教師に正気を取り戻させないと、そろそろマジで死にそうだ。 「んんっ····んー」  けど正気って、どうすりゃいいんだよ。俺の口塞いで、奥抉りながら出しまくってんじゃん。ぐぽぐぽしながら結腸に熱いのを注がれて、腹んナカが火傷してくみたいに痛い。  そもそも、ヤッてる時に先生の正気なトコなんか見たことなかったわ。はぁ····、このまま死ぬのかな。  とか思って、抵抗すんのを諦めたら、あっさり手を離しやがった。(おせ)ぇよ。で、また意味のわかんねぇ事を、うっとりした顔で聞いてくる。 「芯、どこ噛まれたい?」  噛まれたいって発想がねぇよ。どうせ血が出るまで噛むんだから、めちゃくちゃ痛いもん。バカじゃねぇの? 「······腰····右の····」  って、なんで答えてんだ俺。しかも、()()は····。  先生は一旦抜いて雑に俺をひっくり返すと、腰を持ち上げてまた挿れた。一気に奥まで貫かれんのは何度されても慣れない。腹破れそうになんのマジで怖い。 「ねぇ芯、()()の事、教えて?」  腰にある火傷の痕を、指先でぎゅっと握る。もう痛みは無いけど、感覚は鋭敏になってるらしい。そんな所を噛ませる俺も、充分イカれてるよな。  てか、今喋れねぇだろ。ケツ開かれてめっちゃ奥抜かれて、どうやって話すんだよ。  でもこれ、話さないともっと奥抉られるヤツだよな。自分で喋れなくしてるくせに、俺が無視してるとか言いがかりつけんだもん。ホンット狂ってる。 「これ、誰にやられたの?」 「お··やじ····」 「(なに)で?」 「焼いた、んんぅっ··酒の瓶····んあっ··握んなぁ····」 「もう治ってるよね。ここ噛まれるの、好きでしょ」  虐待の痕を噛まれる度、殺されると思ったあの瞬間の記憶が蘇る。けど、だんだんそれが薄れていく。  先生がバカみたいに、そこを『美味しい』『可愛い』『綺麗だよ』つって噛み千切ろうとするからだ。綺麗なわけねぇじゃん。 「好き、じゃ、ねぇ····。ちょっと、だけ··気が紛れる、だけ、だから」 「そう。なら、しっかり僕の歯型()つけてあげるからね」  小さい口をめいっぱい開けて、火傷跡を包むように食う。痛いつってんのに、もぐもぐしてんじゃねぇよ。 「先生(しぇんしぇ)··(いだ)いっ····も、むり゙······」  一旦食うのをやめて、唇についた血を腕で拭う。白いシャツが血塗れじゃんか。  先生だって、元カレの所為で気持ちがくちゃぐちゃのままなんだろうな。俺だって、先生の過去を聞いて複雑な気持ちになってる。  けど、不思議と冷静だし妬いたわけでもない。ただ、あの男に先生を捨てた事を後悔させてやりたい。 「先生(センセ)····俺、先生の恋人になる」  はは、なんで腰振りながら泣いてんだよ。キモいわ。そう言ってやりたかったけど、俺はイッて失神した。  朝、目が覚めると朝食が用意されてた。目玉焼きが乗ったトーストに、小さなサラダと甘めのカフェオレ。トレーに並べられたそれの横に、鍵を重しに置き手紙があった。 「キーホルダーくらいつけろよな。ったく··可愛げねぇの」  俺は、無機質な鍵を持って悪態をついた。手紙には『先に学校に行くから、来れそうだったらおいで』と書いてあった。  しょうがないから、朝飯を食って腰のガーゼを貼り替えたら、昼頃には顔を出してやろうと思う。

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