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ひとしきり頭を撫でられた山吹は、相変わらずムッとした顔のまま、桃枝の上に乗っている。
おそらく、ここでの正解は甘いムードを構築することだ。例えば、膝の上に乗っているのだから桃枝に抱き着くなどが挙げられる。
だが、それはできない。頭を撫でられただけで、調子が狂うのだ。桃枝が望むようなムードを、山吹が淡々と作れるわけがない。
「なんだ、照れてるのか」
「そんなわけないじゃないですか。戸惑っているんです」
「ん、そうか。なら、そういうことにしておこう」
「っ。……その、上からな物言い。課長の良くないところですよ」
「あぁ、そうだったな。悪い、うっかりしていた」
すり、と。桃枝の手が、山吹の頬を撫でる。
「さっき、お前は俺を『素敵な人』と言ってくれたな? それが嬉しくて、今の俺はものすごく浮かれてるんだよ」
「あれは、別に。……他意とかは、ないです。そもそも第一に、課長がボクを振らないための演技とか、そういうことは考えないのですか?」
「考えないな。俺はお前に『嘘が嫌い』と既に伝えている。それなのに【俺から振られないために嘘を吐く】のは、どう考えても悪手だろう?」
「……っ」
勝てない。このままでは、桃枝を相手に負けてしまう。山吹は決して負けず嫌いというわけではないが、相手が桃枝ならば話が変わるのだ。
すぐに山吹は顔を上げつつ、桃枝の手から逃れようとした。
「課長。今日はクリスマス、なんですよね?」
「あぁ、そうだな。クリスマスだ」
「生憎と、クリスマスケーキは用意していないです。クリスマスという行事にプレゼントやケーキがセットだなんて、完全に失念していましたので」
「いや、別に構わねぇよ。こうしてお前と過ごせたから俺は──」
悲しきかな、山吹には【普通の恋人が過ごすクリスマス】というものを桃枝に提供できない。悔しいが、その点に関しては桃枝の方が上手だろう。
それでも、ならばこそ。山吹は桃枝にはない得意分野で攻めるしかなかった。
「──ですが、別のものなら差し上げられますよ」
ニコリと、笑みを浮かべて。
「ケーキがなければ、代わりに恋人を食べたらどうでしょうか?」
撫でられた時とは違い、とても余裕そうに。慣れた手つきで、桃枝のネクタイを解いた。
ぐっ、と。桃枝が分かりやすく、狼狽えている。
「俺は別に、そういうつもりでお前の部屋に来たかったわけじゃ……っ」
「課長は本気で下心がなかったんですよね。それは分かっていますよ」
優しい声音で答えた後、山吹は桃枝の首筋に歯を立てた。
「だから、下心があったのはボクの方です。課長のペニスを下の口で味わいたくて、もう我慢できないんです。色々な人と日常的に寝ていたボクが、一ヶ月も放置されていたんですよ? 当然じゃないですか」
「お前……ッ」
「ねぇ、課長。……ダメ、ですか?」
微かに、距離を詰める。強引に、それでいて大胆に距離を詰めてもいいのだが、あえてそうしない。
そっと、まるで堪能させるかのように。山吹は桃枝の下半身に、自身の下半身を押し付けた。
すると、ふと。山吹はある変化に気付いた。
「良かった。なんだかんだ言って、課長も乗り気みたいですね」
「う、ぐっ」
「そんなに悔しそうな顔をしないでくださいよ、課長? ボクとしては、誘い損にならなくて良かったです」
桃枝が、山吹に距離を詰められただけで勃起したのだと気付く。
ならばもう、山吹の勝利は揺るがない。
「おいしく食べてくださいね、課長? ボクも課長のこと、たっぷり味わいますから」
可愛らしく、甘えるように抱き着くことはできなくても。
妖艶に微笑み、強請るように身を寄せることは容易なのだと。その差も分からないまま、山吹は理解したのだった。
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