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 書庫から必要な書類を持ち出し、事務所の片付けも終えた後。 「こんなふうに問い詰めるなんてこと、本来ならするべき行為じゃねぇって分かってる。……分かっちゃいるんだが、悪い。やっぱり俺は、お前と青梅のことが気になる。だから、話しちゃくれねぇか」  山吹は、桃枝を部屋に招いていた。  桃枝は決して、山吹を信じていないわけではない。言うまでもなく、疑ってもいなかった。  だからこそ、桃枝は山吹からの言葉が欲しいのだ。山吹に、桃枝の考えを肯定されたいから。  テーブルを挟んで向かい合った状態で、山吹は頷く。もとより、山吹は桃枝に全てを話すつもりだったからだ。 「少し前にお話した【クラスメイト】のことを、課長は憶えていますか? もしも憶えているのでしたら、きっと察しはついていますよね。……あれは、青梅のことです。青梅は、ボクの一番近くに居てくれたセフレでした」 「あぁ」 「青梅は、ボクが欲しがったものをなんでもくれた相手です。痛くもしてくれましたし、酷くもしてくれました。いつもボクを否定してくれて、いつもボクが望む方法で──父さんと同じように、ボクと接してくれたんです」 「……あぁ」  静かな相槌に、山吹は穏やかな気持ちで言葉を紡げる。 「青梅がなんでボクにそこまでしてくれるのか、正直に言うとよく分かりませんでした。だけどきっと、青梅にとってボクは都合のいい相手で、ボクにとっての青梅は……なんだったのかは、分かりません。だけど、でも」  膝の上に乗せた手を、ギュッと握って。山吹はその場で、俯いた。 「たぶん、このままズルズル一緒に居たらいけない。青梅の将来を、全部壊す。そう思ってボクは、青梅に繋がるものを全部消しました」  その選択に、桃枝は覚えがあるだろう。本当の両想いになる前に告げられた言葉と──桃枝の時と、同じだ。  山吹はいつも、非情なほど相手を想っていた。相手からどれだけ恨まれるかも考えずに、ただただ相手に【山吹がいない幸福な未来】を与えたがったのだ。 「この前──課長のお部屋に向かった日、ボクは駅前に課長をお呼びしてしまいましたよね。あの日のボクを、課長は憶えていますか?」 「水蓮と会った日のことだよな。あぁ、憶えてるぞ」 「そうです、その日です。……ボクはその日、実は青梅と再会してしまったんです。そして、黒法師さんに助けてもらいました」 「そうか。……なるほどな。あの日の状況が、ようやく理解できた」  黒法師を邪険にするくせに、黒法師を『悪くない』と言った理由。不可解な状況について山吹から明かされた真実に、桃枝はようやく腑に落ちた。 「課長と仮の交際を始めた時にはもう、青梅との関係は終わっていました。だから青梅は、ボクの変化が信じられないんです。当然ですよね。理由は……説明しなくても、課長なら分かりますよね」  無言で、桃枝はどこか申し訳なさそうに頷く。  十一月に交際を始め、両想いになる四月まで、ずっと……。桃枝は青梅が向けられていたものと【同じもの】を、山吹から向けられていたのだから。 「ボクの変化を知らない青梅は、学生の頃のボクに対する接し方こそがボクのためだと、信じて疑わないんです。その接し方が青梅の希望するものなのかは分かりませんが、たぶんきっと、青梅はそんな男じゃない。そう思ってボクは、青梅に『もう大丈夫だ』と、伝えました」 「それが、さっき書庫で青梅と揉めていた話か?」 「はい、そうです。先に言った通り、青梅はボクの言葉を──変化を、信じませんでした。そして今も、信じていないと思います。それで、青梅が課長に『元カレだ』なんてウソを吐いたと聴いて、取り乱してしまいました。……そこから先は、課長が見たボクと青梅のやり取りです」  歪んでいると気付くのが、認めるのがもっと、早ければ。嘲笑する青梅と狼狽する青梅を思い返しながら、山吹は唇を噛んだ。

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