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12 : 5 微*
山吹への愛がどんどん加速し、日々の充実度合いが格段にパワーアップ。公私共に満たされ、幸せいっぱいな毎日を過ごして数週間。桃枝は、確かに浮かれていた。
……だが、しかし。そんな楽しい同棲生活にも、桃枝としてはひとつの問題があった。
その【問題】は、いつも朝か夜に起こる。それは休日出勤を控えた早朝の今現在も、例外ではないようで……。
「ん、っ。……ふ、っ」
鼓膜を小さく揺する、ほんのりと甘い声。桃枝はピクリと瞼を震わせて、そっと瞳を開く。
聴覚がキャッチした声以外にも、違和感がある。布越しに、桃枝のペニスになにかが擦り付けられているのだ。
「ふ、あ……っ。課長、かちょぉ……っ」
呼ばれている、気がする。桃枝は違和感の正体に導かれるまま、少しずつ意識を覚醒させていく。
起こしてしまうかもしれない。そんな遠慮があるのか、どことなく遠慮がちな触れ方。
しかし『早くやめなくては』と焦っているのか、どこか性急な動きにも感じられる。桃枝の下半身に擦り付けられるなにかは、動きを止めなかった。
「は、ぁ……っ。……か、ちょ……っ」
やはり、呼ばれている。桃枝はようやく意識を覚醒させて、しっかりと現状を見つめた。
「なんだよ、山吹」
「っ!」
やはり──と、言うまでもないが。違和感全ての正体は、山吹だ。隣で一緒に寝ていたはずの山吹が、桃枝の上に乗っているのだ。
桃枝の下半身に擦り付けられているのは、山吹の下半身。熱くなったペニス同士を、山吹は布越しに擦り付け合っていたのだ。
「あっ、か、課長……っ。起こしてしまい、ましたか?」
「これだけ男の急所を刺激されて、しかもお前に呼ばれてるんだ。さすがに、起きるだろ」
「うっ。ご、ごめんなさい……」
しょんぼりと反省してはいるものの、山吹は身を引こうとしない。
桃枝は落ち込む顔に手を伸ばし、そのまま山吹の頬をすり、と撫でた。
「どうした、山吹。昨日だってシただろ。それとも、足りなかったのか?」
「いえ、とても大満足でした。大満足、だったのですが……」
視線を一度だけ外し、それから山吹はもう一度、寝そべる桃枝を見つめる。
「課長は今日、休日出勤をするんですよね?」
「そうだな。するぞ」
「だから、と言うのも変かもしれませんが、その……」
歯切れの悪い中、山吹は桃枝のペニスにそっと指を這わせた。
「折角のお休みに離れちゃうの、寂しいから。……だから、仕事に行っちゃう前に、ボクを愛してほしいです」
反射的に、桃枝は体を震わせる。愛しい人に下半身をまさぐられたのだ、察してほしい。
「昨日の夜だってシたのに、ヤッパリ足りてねぇんじゃねぇか」
「足りなかったわけじゃ、ないです。昨日もちゃんと気持ち良かったです。だから、今からするのは別腹と言いますか……」
「デザートみたいに言われてもな」
こうなると、山吹は引かない。拒否もできるが、そうなると山吹が悲しむのは目に見えている。
……なにより、桃枝だって気乗りしないわけではない。
「一回だけだからな」
「っ! はいっ!」
パッと笑みを浮かべた山吹が、桃枝に顔を近付ける。桃枝は山吹の頬に手を添えたまま、近付く唇を受け入れた。
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