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死者の声

 俺は小鳥遊 怜、21歳の大学生。最近ちょっとヤバめの仕事に手を出している。  俺にはとんでもない能力がある。俺自身の為にはクソの役にも立たないが、他人の為にはなる代物だ。  俺は死者になれる。遺影があれば、あの世から魂がやってきて憑依する。一番すげーのは、容姿ごと本人になるんだ。憑依している間は俺の意識が薄れるが、戻ろうと思えばいつでも戻れる便利なものだ。  これで一発儲けようと思ったのが運の尽きだった。上手く儲け始めた頃、とんでもないのが来てしまったんだ。  大抵の客は、故人が生前身につけていた物を持参する。それを身に纏えば遺影に触れて降霊スタートだ。  特に読経もなく、突然俺の姿が遺影のままに変わるのだから、客は面白いくらいに驚く。これが地味に楽しみになっている。  今日やってきた客は、17歳のヤンキー高校生。親や祖父母にでも会いたいのかと思ったら、死んだ先輩に会いたいときた。なかなかのレアケースだ。  俺も慈善事業ではないので、それなりに高額で儲けさせてもらっている。俺だって危険がないわけではないのだから当然だ。だからこそ、大金をはたいてまで先輩に会いたいというのはレアなのだ。  まぁ、降霊してみてすぐにわかったが、こいつはただの先輩ではなかった。彼氏だったのだ。余程愛情が深いようだ。  ちなみに、降霊すると死者の感情が亡くなった時のままインストールされる。これが便利なようで、非常に厄介なのだ。意識が薄れている俺の感情が、霊の感情とリンクしてしまう。  だから、この後輩への感情が俺の中に溢れてわかったのだ。短い人生で最も愛したかけがえのない恋人なのだと。 『なんでお前、え? 俺死んだはずじゃ····』 「晃輝先輩!」 『千秋、もしかして、お前が俺を呼んだのか?』 「はい、どうしても先輩に会いたくて」 『あの日、言っただろ。俺の事は忘れろって』 「そんなの無理ですよ。どんだけ先輩の事好きか知らないんですか?」 『ふはっ、知ってるよ。だから言ったんだよ。もう一度言うぞ。俺の事は忘れて、幸せになれ。それが俺の幸せだ』 「先輩······。俺がそっちに行くまで、待っててくださいね」 『待ってるよ。だからお前はゆっくり来い』 「先輩、先輩!? 嫌だ! 待って、行かないで!」 「····すみません、もう先輩さん帰っちゃいましたんで」 「······すんません」  俺はそっと後輩君を引き離した。 「大切な人だったんですね」 「······はい。先輩は俺の全てでした。なのに、事故であっさり逝っちまって。隣歩いてた俺を庇って····俺の所為で····」 「違いますよ。先輩さんの気持ちならわかりますよ。『お前が無事でよかった。カッコよくはできなかったけど、俺は自分の大事なモン守れたんだから、それでいい』って」 「先輩はっ、先輩はかっこいいですよ! 先輩は····」 「うん、そうだね」  なんだかしんみりとしてしまったが、後輩君が可愛い事はよくわかった。これは先輩さんの残想なのか、俺に芽生えたものなのか。どちらでもいい。俺はこの後輩君を守っていきたい。 ✳✳✳ 「あの、怜さん。今日もお願いします!」 「あ、あぁ。ほら、早く出して」 「はい!」  千秋は晃輝さんの遺影を差し出した。今日も俺は晃輝さんになる。そして千秋の心を守り支えている。  最近、自分が自分に戻れているのか、晃輝さんのままなのか、感情が引き摺られてわからなくなってきた。今、千秋の純粋な瞳に映っているのは誰なのだろうか。

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