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第10話

「これより第……」 生徒会長である夏目会長の宣言で始まった文化祭。他校生や近隣の方が遊びに来ていて大いに盛り上がっていた。 それは凪咲のクラスもそうだった。 女の子達が可愛いコスプレをして客引きしているのもあってか男子達がよく遊びに来ていたし、普通に中はかなり怖くしたから人気だった。 普通の制服に死神のマントを着て、手作りした鎌を持って凪咲はクラスの前で客引きをしていた。 (まぁ、僕は可愛い系狙ってないしねー) 「ねぇねぇ、君、暇?」 私服姿の同年代の男子達に凪咲は一瞬嫌な顔をしたが「ごめんなさい、暇じゃないんです」と言って逃げようとしたが捕まってしまった。 「いいじゃん、俺達と遊ぼうよ」 「…分かりました、2人ご案内でーす」 思いっきり扉を開けるとナンパ野郎の背中を押して教室内に入れてやり、バァンと閉めた。 その後中から男2人の悲鳴が聞こえてきて凪咲はニヤリと笑った。 「如月さん、交代だよー」 「はーい、よろしくね」 「午後にコンテストあるんでしょ?楽しみにしてるね!」 「ん、ありがとー」 凪咲は手を振り、その場から抜け出すと人を避けながらとある場所へ向かった。 着いたのは律の教室でチラリと中を見たが律の姿が無くしょんぼりしてしまったが… 「おや、どうかしましたか?お嬢様」 「ひゃっ!?」 いきなり後ろから声が聞こえ驚きながらも振り返るとそこに居たのは執事姿の律で、嬉しそうにニッコリ笑っていた。 「驚かさないでよ、律!」 「ふふ、明らかに落ち込んでいたから…つい、ね」 「もぉー…罰として写真撮影の相手して」 スマホを取り出すと律は隣に立ってくれて、頬がくっつくくらい顔を近づけて写真を撮った。 「よし、後で送るね」 「ああ、楽しみにしてる。入っていくだろ?」 「もちろん!」 「じゃあ、お帰りなさい、お嬢様。お席までご案内致しますね」 律のエスコートで教室内に入り椅子を引いて貰ったりして席に着くとすぐにメニュー表を渡してくれて、凪咲が選ぶとすぐに裏に行ってしまい凪咲はドキドキしてしまった。 (律、めちゃくちゃ似合いすぎだよ…それにしても…) 凪咲は周りをキョロキョロ見回して、とある事に気付いた。 教室内何処を見ても女の子だらけでしかも律を見ていることに…。 (やっぱり律モテるなー) 「お待たせ致しました、お嬢様」 ニッコリ笑って丁寧に持ってきた律に凪咲はお礼を言うと何故か向かいに座り出して、凪咲はすぐにツッコミを入れた。 「いや、何座ってんの!?仕事中でしょ?」 「凪咲が来たら凪咲の相手をするって言ったから、コンテストの準備あるしね」 律のクラスメイトの方を見ると全員さっと顔を逸らしてしまった為、何をしたんだー…と悩み出した凪咲だった。 のんびり2人は話そうとしたが、数分置きに女子が律に話しかけてお誘いを掛けてくるのを見て、凪咲はムッとなってしまった。 「めちゃくちゃ声かけられるね…」 「明らかに同じ学校の人達だね、凪咲の性別知ってるから勘違いはしないんだろうね」 普通だったら女の子と一緒にいたら声は掛けないだろうが、凪咲は男の子である。 少しだけ、女の子が羨ましいとなった時だった。 「凪咲、一緒に回る?」 「もちろん、回る!」 席を立つとまた女子が声をかけようとしてきたが、律が先に凪咲の肩を抱いて自分の方に寄せるとクラスメイトに向かって言った。 「じゃあお嬢様とデートしてくるね」 「ちょっ!?り、律!?」 まさかの発言に凪咲は驚いたが律はスタスタと教室を後にしてしまった。 教室を出て中庭に出ると佐野先生がチョコクレープを販売していて、目が合うと佐野先生がちょいちょいと手招きしてきた。 「ほらよ、奢りだ」 そう言ってチョコクレープを渡してきて2人はお礼を言ってから食べ始めた。 「うまーい!」 「流石、佐野先生…チョコだけにしたのは…」 「もちろん俺が食いたいから」 キリッと凛々しい表情で宣言をしそのままチョコクレープを食べる佐野先生に、凪咲と律はおーっと感心していると1人の美形なイケメンが近寄ってきた。 「諒汰、お前文化祭でもチョコかよ」 「み、岬!お前来る時は連絡しろって言っただろ!?」 慌て出す佐野先生に2人はジーッと見てると美形なイケメンが2人の方を向いて声をかけてきた。 「もしかして、如月さんと七条さんかな?」 「は、はい、そうですけど…」 「いつも諒汰が世話になってるな、初めまして…須藤岬(すどうみさき)です。諒汰の一応…お嫁さんになるのかな?」 照れながら言われた須藤さんの言葉に2人はすぐにピーン!と来るとニヤニヤ笑いながら佐野先生の方を見た。 佐野先生は顔を赤らめながら逸らしていて凪咲と律は左右から肘でつんつんと突っつきだした。 「ラブラブですねー、佐野先生」 「ふふ、僕達の話恋人さんにしてるんですか?」 「うるせぇうるせぇ!!おら、チョコクレープやるから消えろ!!」 またチョコクレープを渡されて凪咲はラッキーと思いながら食べていると「あ!2人とも!!」と慌てた様子で声をかけてきた人がいた。 それは生徒会メンバーだった。 「どうかしましたか?」 「どうもこうもなくて!大変なんだ!!如月さんの衣装が…」 ----- コンテストの準備をしていた体育館に向かうと、そこにはボロボロになった凪咲のウェディングドレスがあった。 「酷い…誰が…」 前日の夜に出来上がって体育館の舞台裏に参加者全員の衣装を飾っていたが、まさかの凪咲のだけがピンポイントに狙われていた。 すぐに凪咲は頭の中に犯人が過ぎった。坂下と山上カップルのファンの奴らだ。 しかし証拠はなく、どうしようか悩んでいると律が肩を叩いて耳打ちをしてきた。 「行ける?」 「…律が手伝ってくれるなら」 「もちろん、ただ順番通りだと間に合わない、会長!申し訳ありませんが僕達の番を後回しにしてくれませんか?」 律が提案をしたが「はぁ?」と不満そうな声が上がって声のした方を見ると坂下と山上が嫌そうな表情をしていて、凪咲はキッと睨んだ。 「私達が最後なんだけど?勝手にトリにしないでくれる?」 「…会長はどうですか?」 「トリの時間までに間に合うなら構わないわよ、このコンテストの主催として順番を変えましょう」 夏目会長の言葉に2人は同時に頭を下げてお礼を言うとすぐに作業に移った。 しかし、納得していない坂下と山上のカップルがあーだこーだと文句を言っていたがいつもおっとりしている夏目会長が睨むと口を開いた。 「仕方ないでしょ?ボロボロにした貴方達のファンに怒りなさいよ、ボロボロにしなきゃ貴方達がトリだったのに…」 そう言われて2人は返せず黙ってしまった。 凪咲と律はドレスを直そうとしたが衣装に使った布だけでは足りず、どうしようか悩んでいると律が何か思い付いた様に耳打ちをしてきた。 「凪咲、こうするのは……」 「っ!確かにそれなら布が少なくて行けるけど…僕……」 チラリと凪咲は自分の脚を見たが、律はニッコリ笑うとしゃがみ込んで凪咲の脚に触れた。 「ちょ!?変態だよ!律!!」 「ああ、ごめんごめん、でも凪咲の脚を見ているからこそ…それも良いと思うんだ」 「………信じるよ、律!」 「うん、僕もやるよ」 コンテストが始まったが2人はウェディングドレスを直して、すぐに自分達のヘアメイクをして何とか自分達の番の前に終わった。 舞台裏で主催をしている生徒会メンバーも他の出場者達も2人に見惚れていた。 「大丈夫?行けるかしら?」 「坂下さん、山上さんカップル戻ってきます」 「じゃあ行ってらっしゃい」 夏目会長押されて2人は舞台上に出た。 舞台上に出た瞬間、煩かった体育館内はシーンと静まり返った。 いつも右耳を隠す様にしていた律は前髪を上げて右耳を曝け出す様にして白色のタキシード姿。ウェディングドレスをボロボロにされた凪咲はロングだったスカートをミニにして脚を曝け出す形にした。 (本当は僕…脚を曝け出すの苦手なんだよな…) だけど律の言葉を聞いて自信を持った凪咲は今回の様な姿にした。 (それに…やっぱり男の僕がこんな格好なんて…) 静まり返っていた体育館内だったが、一気に「おおーっ!!!」と声が上がり、客席からは「可愛いー!」や「かっこいいー!」などの声が聞こえて2人は顔を見合わせると楽しそうにランウェイを歩きながら来てくれた観客達に手を振ったりした。 「あ、凪咲」 小声で名前を呼ばれて指された方向を見ると佐野先生と恋人の須藤さんと目が合い、2人は嬉しそうにニッコリ笑ってピースをした。 すると佐野先生がいきなり須藤さんをお姫様抱っこしだして、凪咲達は首を傾げたがすぐに律は意味が分かると凪咲をひょいっとお姫様抱っこしだした。 「うわわ!?り、律!?」 「ふふ、これもパフォーマンスだろ?」 お姫様抱っこをした瞬間「きゃぁああーー!!」と黄色い悲鳴が上がり、そのまま舞台裏に戻された。 舞台裏に戻った瞬間、夏目会長が2人に抱き付いてきて2人は驚いた。 「凄く良かったわ!2人に出て貰えて今年も良いコンテストになったわ!」 「いえ、僕も凄く楽しかったです…男だから不安でしたが…」 「如月さん、性別は気にしなくていいわよ。貴方は凄く可愛らしいわ」 夏目会長の言葉に凪咲の目から涙がポロポロと流れてきて、すぐに律に抱き付いて顔を隠すと律は優しく背中に腕を回してきた。 そこに生徒会メンバーの1人が「集計結果出ました!」と声をかけてきて、出場者は全員舞台上に出た。 司会をしていた生徒会メンバーの1人がマイクを持って中央に立ち、結果発表をしだした。 そんな中、凪咲は律の腕にしがみついて結果を聞いていた。 「優勝は……… 如月凪咲さん、七条律さんのペアです!!!」 名前を呼ばれるのと同時にライトが2人に当たり、律に手を引かれながら凪咲は前に出てトロフィーを受け取った。 2人は顔を見合わせて笑ったがここで司会者が少し歯切れが悪そうに話し出して、2人は首を傾げた。 「あ、えっとですね…優勝した2人はその…キスをしていただくという…!」 「………えーーー!!??」 まさかの内容に凪咲は大声で驚いてしまい、律は目をパチクリさせていた。 どうしようか…悩んだが、いきなり律に抱き締められて凪咲は背中をバシバシと叩いた。 「まさか、本気でする気?」 「凪咲が嫌がる事はしないよ、だから…振りだけね」 そう言うと顎を掴まれて顔が近付いたが、唇同士が触れる前にピタリと止まりそのまま顔が離れた。 こうしてミス・ミスターコンテストは大盛況で終わり、凪咲はクラスメイトに囲まれて質問責めされてしまい逃げ回るのであった。 律の方も逃げ回っていて、保健室で匿う形になった。 「お前、あれ、振りか?」 飲み物を差し出しながら問いかけてきた佐野先生に律は受け取ってからボソッと伝えた。 「振りですよ、凪咲が嫌がることは僕はしたくありませんから」 「もし、如月さんが…嫌がらなかったら?」 須藤さんの問いかけにピクっと律は反応をしたが、特に何も答えなかった。 こうして色々あった文化祭は幕を閉じたのであった。

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