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第12話

 アレクシーには親友と言える幼なじみがいる。側近達の中でも一番親しい。由緒ある公爵家の嫡子、物怖じしない性格、王太子であるアレクシーにも遠慮のない物言いをする友。だからこそアレクシーも腹を割って話せる友フランソワ。  アレクシーは、フランソワに極秘の調査を依頼する。願われたフランソワは驚き最初は断る。それがアレクシーのためと思ったからだ。だが、アレクシーは諦めない。  意思が固いアレクシーの性格を、誰よりも知るフランソワは、結局折れた。この調査は極秘を要する。しかも国の中枢に関することと言える。それには、フランソワは確かに適任ではあった。  フランソワの母は、国王の姉。つまり王女が降下するほどフランソワの家は名家であり、母を通してアレクシーとは従兄弟なのだ。  フランソワは極秘に、しかし公爵家の情報網を使い、そして国王の姉である母からもそれとなく探りアレクシーの期待する情報をものにした。  それはルシアに関する情報。そもそも国王の番の名がルシアということからだった。 「なるほど、ルシアというのか……陛下の番で、先の国王、おじい様のお子」 「そうだね、我らが叔父上になるね。しかしこれ調べるのさすがに大変だったからね、感謝してくれよ」 「あー、今度なんか奢るよ」 「そんなことぐらいでは、割に合わないよ。でもどうするの?」 「うーん……さすがに驚くな……まさか叔父上とは……そんなふうには見えなかった」 「母上や陛下とは歳が離れているし……二十八歳か、歳よりずっと若い印象だったな。オメガは歳より若く見える人が多いっていうからね」 「伯母上もご存知なのか?」 「ああ、腹違いとはいえ弟だからね。そう多くはないけど、この十二年間に何度かは会っているみたいだ。多分王妃様と同じくらいの頻度じゃないかな」  つまりルシアの存在は、極秘ではあったが、国王の身内ともいえる人たちは知っていた。だからこそ、一般には厳重に秘められた。  自分が知らないのは、未だ十八歳。成人し立太子礼を済ませたのは最近のこと。自分がもう少し王太子としての地位を確固たるものにしたら、知らされたと思うが、未だその段階でなかったのだろう。  その日アレクシーは、ルシアに関する調査報告を聞くだけでフランソワと別れた。正直、フランソワのもたらした報告の中身は想像以上のもので、今は一人になりたかった。  ルシアというのか……二十八歳、自分より十歳の年上。いや、年なんかさほどの問題ではない。オメガ故公にはされていないが、自分の祖父である先の国王の王子。密やかに育てられたと言うことは、おじい様もよほど大切に思われたことの証左。  そして、腹違いとはいえ弟を番にして十二年間隠し守ってきたことは、国王のルシアへの愛は深いのだろうと思う。さらには母上そし伯母上も弟として認めている人。自分には叔父にあたる方。  いくら運命といえど、自分の手にとどくのか? 考えれば考えるほど、ルシアを己の番にするには障壁が大きい。いや大きすぎるのだ。  何より、番のいるオメガを番にするには、オメガの今の番に番の解消をしてもらわねばならない。アルファは、複数のオメガを番にできるが、オメガはただ一人のアルファの番にしかなれないからだ。  父上は、解消してくださるだろうか? 私の運命だから譲って欲しいといくら真摯にお願いしても、跳ね返されか、下手をしたら激怒されるのが落ちだろう。  ルシアを番にするには、障壁はあまりにも大きい。現実を見ればそれは、ほぼ不可能。  だがアレクシーは、あの日のルシアの芳香を忘れられない。あれが運命が放つ魂の香なんだと思う。そして、抱きしめた時の感触は今でも腕に残っていた。

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