11章　ルシアの蘇り 　どうしたらいいのか？　アレクシーは、必死に考えていた。父王の息吹きで蘇ってくれるのなら、潔く受け止める、そう思って見守った。それなのにルシアは蘇らない。 　自分のものにならなくても、生きていて欲しい。その願いさえも届かないのか……。 　運命……番……二つの言葉がアレクシーの頭をぐるぐる回る。その時、はたと思い至り、ルシアに近づき抱き起す。 　アレクシーは、冷たくなったルシアの、父王の噛み痕が残る項を噛んだ。この人は己の番だ、そう思いながら……。 　アレクシーが口を離すと、ルシアの項にアレクシーの噛み痕が残っていた。 　ルシアは、アレクシーの番になったのか？　運命の相手と言えど番のいるオメガは、番のアルファが番を解消し、その同意のもとでしか新たな番いは結べないはずだ。 　父王は番の解消を承諾していない。しかも、既にルシアは亡くなっている。ここに居るすべての人が、アレクシーの突然の行動を訝しく思った。 　しかしどうだろう、ルシアの項に噛み痕が残っている。それは国王の物でなく、王太子の物か？　皆がそう思った時、アレクシーは、先程と同じように、ルシアの口に息を吹き込む。何度も、何度も吹き込むのを、皆は固唾をのんで見守った。 　するとどうだろう、アレクシーは、ほんのわずかだが、ルシアに温もりを感じた。 　アレクシーは、希望を感じ一心に息を吹き込む。段々とルシアの温もりが広まっていくのを感じる。その様子は、見守っていた者達にも察せられて、どよめきが起こる。ルシアは蘇ったのか？！ 　何度も息を吹き込むアレクシーは、限界を感じていた。最後の力を振り絞るように、渾身の力を込めてルシアの口に息を吹き込んだその時、「うんっ……」とルシアの口から洩れた……ルシアが蘇った！ 「ルシア！　ルシア！」 　ルシアが、ゆっくりと目を開く。眩しそうに、そして不思議そうに眼を泳がす。 「あーっ、ルシア良かった……」 　アレクシーは、ルシアに抱きつき涙を流す。フェリックスは、力が抜けたように膝をついた。思いは安堵で一杯だった。セリカも、安堵と感動のあまり涙が止まらない。ここに居るすべての者が、ルシアの蘇りに安堵し、感動した。 　このような奇跡が起ころうとは！　この奇跡を目の当たりにした者の思いだった。 　蘇ったルシアは、本能でアレクシーの番になったことを感じた。自分に抱きついて泣くアレクシーの頭に戸惑いながらも手をのせた。 「ルシア、蘇ってよかった！　あなたは、私の番になった」 　しかし、ルシアにはそれ以上の理解が及ばない。死のうとして喉を突いたのに何故？　不安気に喉に手をやるルシアに、アレクシーは、ルシアの疑問を理解した。 「あなたは、喉を突いて一度は死んだのです。だが、私があなたの項を噛み、息を吹き込むと蘇ったのだ。」 　アレクシーの端的な説明。そうか、僕一度は死んだんだ。でも、アレクシー様が、僕を番にして蘇らせた。何故息を吹き込まれて蘇ったのか？　アレクシー様が運命の相手だから？　運命の相手ってそんなにも深いものか？　ルシアは、問いながら同時に戦慄の思いを抱いた。 　そう、運命とはかくも深く重い。そう思い至ったルシアの瞳に涙が溢れる。もう抗うことはできない。ルシアは、アレクシーに抱きついた。 　体を震わせ静かに泣くルシアを、アレクシーは抱きとめた。優しく、あやすようにルシアの背を撫でる。ルシアの温もりに、改めてルシアの蘇りを、生を実感する。アレクシーも運命の重さに慄きつつも感動した。