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第26話

 思い立ったら即行動のアレクシーは、早速姉であるアルマ公爵夫人に会うため公爵家を訪ねると、いつにもまして歓迎される。 「まあ、アレクシー! あなたから訪ねてくれるなんて嬉しいわ!」 「姉上ごきげんよう、ご無沙汰して申し訳ございません。」 「ふふっ良くてよ、お忙しかったのでしょう?」 「ええ何かとありまして……それで早速ですが、今日は姉上に相談事が……」 「まあ、何かしら? あなたが相談事なんて珍しいこと」 「それなんですが、此度オメガを番にしまして……」と、話始めるとルイーズの瞳が俄然輝きだした。  実は、ルイーズはアレクシーとルシアの一件を知っていた。夫からはちらりと聞いただけだが、俄然興味を示したルイーズは、母である王妃や、ステク公爵夫人から詳しく聞き出していた。そして、ステク公爵夫人と同じく、このおとぎ話に心躍らせていたのだ。そう、早く当の本人に会いたいと思っていたのだ。  しかしその本人アレクシーは、中々忙しそうでその機会を持ちかけることができず、やきもきしていた。ルイーズがアレクシーの訪問を歓迎したのは当然のことだった。 「存じてますよ、ルシア様とおっしゃるの? 私もお会いしたいと思っていたのよ」  それならば話が早い。先ずは一度ルシアと会ってもらい、ルシアの人となりを知ってもらう。そしてルシアを気に入ってもらえれば、アレクシーの思惑は上手くいくのではと思った。 「私も姉上にはルシアを紹介したいのです。それでは姉上、一度奥の宮に来ていただけますか?」  とんとん拍子に、ルイーズの奥の宮初訪問が決まった。  ルシアは、ルイーズの奥の宮訪問の知らせに困惑した。以前王妃が初めて訪問した時ほどではないが、アレクシーの姉が訪ねてくるなど緊張するしかない。  アレクシーは、気楽に迎えればよいと言うが、そういうわけにはいかない。何を着る? お茶とお菓子は? それはセリカと執事に任せればよいが、ルシアにとって一番の悩みは会話だ。何を話せばいい? あれこれ悩んでいるうちに当日を迎えた。  ルイーズはアレクシーに伴われてやって来た。それはルシアにとって頼もしいことだった。会話もアレクシーが取り持ってくれるだろうと期待した。ルシアにとってアレクシーは、頼りになる番だった。 「まあ~! 想像以上に美しい方ね! はじめましてごきげんよう。アレクシーの姉のルイーズよ、よろしくね」 「はじめましてごきげんよう。ルシアと申します。本日はおいでいただき嬉しく思います。」  ルイーズの高揚感に、押され気味になりながらも、ルシアは何とか挨拶ができた。 「ほほほっ、そんなに固くならなくて大丈夫、アレクシーの番なんですから、私にとっても弟……あらっ、でも血筋からいったら叔父上と呼ばねばね? それに私の方が年下。でも、とてもそうとは見えないわ!」 「姉上も、ルシアも気楽に接すればいいかと。お互い名前で呼び合えばよろしいのでは?」 「そうね、それがいいわね。ルシア様と呼ばせてもらうわね」  それからは、ルイーズの独擅場だった。ルシアは、相槌を打ちながら時折聞かれたことに応えるのが精一杯だった。さしものアレクシーもこの姉には押され気味の様子。 「まあ! ほんと素晴らしい! 眠り姫が王子様の口付けで目覚めたなんて、素敵すぎるわ!」  ルシアが蘇った話になると、ルイーズの興奮も最高潮に達した感がある。 「ルシア様は、ほんとにお姫様のように美しい方だし、アレクシーあなたは王子様のよう、って本物の王子様だったわね。ほほほっ」  これにはルシアも、アレクシーも苦笑するしかない。その後も三人の会話は、にぎやかに、そして和やかになされた。 「今日はほんとに楽しかったわよ。ルシア様、今度は我が家にも来てくださいね。ステクの伯母様もお会いしたいとおしゃっていたし」 「ありがとうございます。私も今日は本当に楽しゅうございました。」  そう言って、アレクシーを見る。ルイーズの招待を受けてよいのか分からないからだ。アレクシーは頷いて応えた。 「姉上ありがとうございます。是非にもルシアと行かせていただきます」 「あらっ、あなたも一緒に来るの? 一緒に来てもでもいいけど、ルシア様お一人でも来ていただきたいわよ」 「それはもう、当然よろしいですよ。ね、ルシア」 「あ、はっ、はい。」  ルイーズの誘いは、アレクシーには望むところなので同意を求めると、ルシアも戸惑い気味に応えた。  アレクシーがルイーズを送っていくため、二人が去った奥の宮には嵐が過ぎ去ったかのように静かになった。この静謐は常のものだったが、ルシアは一株の寂しさを感じた。それくらいルイーズの訪問は楽しい時間だった。  そして、ルイーズの招待を考えた。社交辞令とも思えなかった。本当に応じてもいいのかな? アレクシーはいいという感じだったが、オメガの自分が出歩いていいのかな? ルイーズ様のお屋敷だからいいいのかな?  ルシアの思いは、期待と戸惑いが交差したものだった。

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