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続・雨を見に来ないか
ザーザー。
土砂降りの雨の音。
ぴちょんぴちょん。
雨樋を伝った雫が、出しっぱなしのバケツの中に落ちる音。
パシャパシャ。
長靴を履いた小学生が駆けていく音。
くちゅくちゅ。
たくさんの水音をかき消すように、分厚い舌が動く粘っこい音がする。
耳の穴を埋めるように響くそれは、湿った吐息と混じり合いながら、俺の理性をいとも簡単に翻弄した。
踏み潰されたビニール袋が、靴下の下でカサカサと音を立てる。
現実に引き戻された思考が、すでに半分くらい溶けてしまったかもしれないアイスクリームの身を案じたが、整うはずだった思考回路は、違うところから新たな水音が聞こえ始めたせいで、あっという間にショートした。
「おい、生臭坊主……っ」
咎めるために紡いだはずの言葉が、うっかり熱を帯びてしまう。
気をよくしたらしい生臭坊主は、遠慮がちだった手の動きをすぐに大胆なものに変えた。
ちゅくちゅく。
平穏な日常の中で微睡んでいたところを叩き起こされた哀れな息子は、抵抗らしい抵抗もできないまま、淫 らな涎 を垂れ流しはじめる。
「人聞き悪いな。俺が生臭坊主なのはお前のせいなのに」
「はあ!? ……っあ」
全力で反論したいのに、言葉が形にならない。
生臭坊主に開かれ、何年もかけて躾 けられた身体は、触れられただけで俺の頭の中を煩悩だらけにしてしまう。
この先に待つ快楽がどれほどのものなのかを、鮮明に記憶しているからだ。
それでもこのまま身を任せるのはどうしても癪 な気がして、俺は精一杯の強がりを口にする。
「いかにもな言い回しで呼び出しておきながら、結局たまってただけかよ……っ」
「とか言いながら、もうぐっちょぐちょだけど?」
ささくれた指先が俺の先走りすくい上げ、そこに塗り込めたかと思うと、早速つぷりと入り込んできた。
腕を掴んでいた手に思わず力がこもってしまい、生臭坊主が嬉しそうに笑う気配がする。
「どうする? やめる?」
視界の端で、紫陽花が雨に打たれている。
アイスクリームは絶望的でも、きっと、冷蔵庫ではビールがキンキンに冷えているんだろう。
俺がここに来たのは、酒を飲むためだ。
決して、俗世の欲にまみれるためではない。
それなのに、指の挿さったそこが、じんじんと疼きはじめる。
「なあ、どうするーーえ、うわっ!」
俺は、生臭坊主の胸ぐらを引っ掴み、
「ーー」
煩悩まみれの本音を生臭坊主の耳に吹き込んだ。
fin
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