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16 ハーゲンティ2
「貴方のお兄様なのかしら? まだ幼いけれど魔力が滴るように豊富だわ。あの人のものに香りが似てる。美味しそうね?」
そんな風に告げて舌で赤い唇をちろりと舐めた姿が子どもの目から見ても妖美で、オリヴィエは反射的に兄をこの女に喰われてしまうのではないかと怖ろしくなった。
震えながらも寝台に飛び乗って、仰向けになって手足を投げ出して眠る無防備な兄の身体を抱きしめて嫌々をした。
「お兄さまのこと、食べないで」
「あらあら、貴方。お兄さまのこと大好きなのね?」
「だ、大好きだよ」
「そうね。じゃないとここへは二人一緒には入れないものね?」
まだ小さな角がぴこんっと出ていたものがねじれ始めたばかりの兄の頭を抱えて、懸命に女から守ろうと後ずさる。
「でもお兄さま苦しそうよ? 私がどうにかしてあげようと思ったんだけど、貴方がしてみる?」
確かに兄は真っ赤な顔をしてふうふうと息をついて苦しそうにしている。丈夫な兄のこんな姿を見たのは初めてで、オリヴィエは恐ろしくなった。
「兄さまに毒を食べさせたの! 治して。レヴィアタンが死んじゃう」
オリヴィエが兄の頬を摩ると、びくんっと動いてまた苦しげな顔をする。
涙をぼろぼろ零して自分より身体の大きな兄を懸命に抱きしめると、女がゆっくりとした足取りで寝台に上がってきた。
「子どもには確かに毒だったのかもしれないわね。なまじ魔力が強いから中毒にもならずに中途半端に効いているんだわ」
いいしな、女が兄のズボンを緩めてその上に手を置き、ゆっくりと兄の顔に覆いかぶさってきて、唇を奪おうとしたのでオリヴィエは驚き、勇気を振り絞って女を突き飛ばした。
「やめて。なにするの。お口は大切な人としかくっつけちゃいけないんだよ」
「苦しそうだから治してって言ったのは貴方でしょう? ほら見なさい。お兄さま媚薬にあてられて苦しんでるでしょ?」
「びやく?」
その言葉は聞き馴染みがなくてオリヴィエが小首をかしげると、女は淫蕩な笑みを浮かべてオリヴィエの腕を掴むと自分の豊かな胸に顔を押し当てた。
「ふふ。飲んでこうされたら気持ちよくなる薬のことよ?」
「気持ちよく? 母様のお胸みたい。あたたかい」
無邪気な様子でオリヴィエが天使のように愛らしい笑みを浮かべたので、女は毒気が抜かれたように穏やかに微笑んだ。
「仕方がないわね。じゃあ貴方が助けてあげなさい。毒を飲んでお兄さまの足の間が腫れてしまっているでしょう? 口づけしてあげたら治るかもしれないわよ?」
「口づけを? 僕が? それって本物の王子様みたい」
「貴方、王子様でしょ? お姫様みたいなお顔してるけど」
ぽおっと赤くなって膝小僧がむき出しの滑らかな脚の間をもじもじとさせたオリヴィエの柔らかな黒髪を女が撫ぜて額に口づけをくれた。
「僕がしてもいいの?」
「そうよ。だって貴方この子が好きなんでしょ? 弟の癖に」
「え……」
それは思ってはいたけれど、口に出してはいけない感情だと薄々気がついていた。女に見透かされてオリヴィエは泣きたくなってむぐむぐっと唇を噛みしめた。
「いけないんだよ。僕たちは、駄目なの。兄弟だから」
「……愛情がなくても奪いたいものだけを奪い合っても生きられるのが悪魔ってものよ。そんな奴らがきめた規則なんて守る必要あるかしら?」
忌々し気に呟き柳眉を吊り上げた女の形相が恐ろしくて、オリヴィエは勢いに呑まれて身を竦ませる。
「う、うん」
「じゃあ、私にお兄様を喰われたくないのなら、貴方が喰らってやりなさい」
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