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第61話 うまくいきたい

「雷さんは、振られた時はどうやって立ち直るんですか」 「うーん、俺はとりあえず飲んで寝て、次の日には忘れようとする。それでもダメだったらジムで体動かして汗かいたり、単純に仕事に集中して、自分をより高める」  あの日のベロベロの雷さんと同一人物なのかと疑うくらいに余裕があってしっかりとした意見だ。  体を動かす、か。  ここ最近、大学に行く以外はほとんど家にこもっているから、ランニングでも始めてみようか。 「なんつって偉そうに言ったけど、簡単にすぐには忘れらんないぜ。俺にはずっと好きな奴がいるんだ」 「え?……もしかして、律?」 「違う違う。隣の部屋に住んでる年下の男にずっと恋してんだ。もう2年くらい。ウケるだろ」 「この間、彼氏に振られたというのは?」 「本命が手に入んないのが分かってるから、そいつとは妥協で付き合ってた。まぁまぁ好きだったけど、相手は俺の気持ちなんてお見通しだったんだろうな。『お前、他に好きな奴がいるだろ』って」  雷さんも歯がゆい思いをしているらしい。  こんなに自信に満ち溢れていて、何もかも苦労なく手に入れてしまいそうな人なのに、どうにもならないことってあるんだ。  みんな幸せになればいいのになぁと嘆息する。  神様はイジワルだ。 「本命さんはノンケなんですか」 「うん、だから無理。なのにさ、たまに見かけるとずっと目で追ってんの」 「あぁー、追っちゃいますよね! 似たような背格好の人を見つけたらドキドキしちゃうし!」 「だよねー! あ、あのボーダーのTシャツまた着てるー、お気になのかなーとか思ったり、そもそも姿を見られただけでその日は1日ラッキーとか思ったり、この間スクランブル交差点歩いてたらさー……」  何を盛り上がっているのかと、はたと我に返った僕らは一旦冷静になる。  もう完全に冷めているカップの中身を、僕はごくごく飲み干した。 「ていうか深山くんは、どうして律に振られちゃったの?」  どうしてと問われても困るが、簡潔に言うと僕が男で、他に好きな人がいるからだろう。  それと、僕との関係は5年前も含めて全部間違っていたと改めて認識したから、とか。  まだ友達でいられた方が良かった。  律のぬくもりを知ってしまった自分はもう、単なる友達には戻れない。  だからもう会えない。  だけどそれも、嫌で。

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