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◇番外編◇第84話 二度寝よりパンケーキ
「千紘。起きて」
「むむ……」
「コーヒー淹れてくださいよ」
「うーん……」
律の心地よい穏やかな低音が耳を熱くするけど。
ダメだ、眠い。眠すぎる。
だって律が悪いんだ。
昨日、これでもかというほど僕の身体を求めてきて。
何回イッたか分からない。ようやく解放されたのは朝方だ。
ぼんやりとした目で壁がけ時計を見ると、朝9時を指していた。
一応、5時間ほどは眠れたようだけど、全然寝足りない。
ニャ~……とチーがベッドの下でかわいく鳴いている。窓からは柔らかい日差しが零れている。
肌に触れるふわふわの毛布。
柔軟剤の香り。
隣には大好きな人。
今日は休日で特に予定もない。
これほど、しあわせな時間ってある?
二度寝できるしあわせ。
あたたかい日差しの中にいると、やっぱりうとうと。
僕はすうぅっと瞼を閉じた。
「アイス買ってきたのに」
パチ、と目を開けた。
うつ伏せていた体の半身を起こして、横向きに寝ている律の顔を見下ろした。
「千紘がコーヒーを淹れてくれるなら、俺はパンケーキを作ってその上にバニラアイスをのせようと思ったんですが……メープルシロップ付きで」
「淹れるっ」
なにその最強コンボ。絶対美味しいに決まってるじゃん。
部屋を出ていこうとすると、手をつかまれてベッドに引き戻されてしまった。
「わわっ」
「何か忘れてませんか?」
「あ……おはよ、律」
「はい。おはようございます、千紘」
頬に手を添えられて、降ってきたキスを受け止める。
昨日もたくさんキスしたのに、僕らは今日もキスをする。
たぶん明日も、あさっても。
歯列をなぞられるとぞくぞくして、肩が強ばる。
このままだと官能のキスになって止まらなくなるので、僕から体をそっと離した。
「……チーが見てるよ」
気のせいだろうか。ガラス玉の瞳をじっと向けてくるチーの顔がなんとなく、呆れているように見えるのは。
しかし邪魔は一度もされたことがないので、チーは僕らのこの関係を認めてくれているのかも。
「朝ごはんを食べたら、また」
くすりと意味深に笑った律は、唖然とする僕の髪を梳いてから、チーと共に部屋を出ていった。
あんなにしたっていうのに、またするの?
まぁ律がしたいというのなら、僕は拒否する気にはならないけど。
「律は、人たらしだな」
朝ごはんのあと。
バニラアイスやメープルシロップよりも甘くてトロトロな時間が僕を待っていた。
おわり🥞𓈒 𓂂𓏸.*・゚
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