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※ 執務室・ウィズ・モー その2

 避妊具をはめた己のペニスに手を添えて、ひくつく後孔へ押し当てる。脳が痺れる快感へ飲まれないように、いつだってモーは腹筋へ力を込め、「落ち着け」と心の中で唱えねばならない。  かといって、こちらが難しい顔をしていると、ハリーは憂える。まるでを煩悶を少しでも癒そうとするように、顎を持ち上げては唇を寄せてきた。 「ゃ、モー……」  上顎を擦られたのと同時に、ぐっと窄まりに先端がめり込む。ここは一息に通した方が、逆に相手へ負担をかけない。それに、猫のように鼻にかかった泣き声を引き出し、拗ねたように舌先を軽く噛まれたモーも、今や興奮の渦へ飲まれようとしていた。  暴走してはいけない。隘路を掻き分け、ゆっくり確実に納めていく。 「ん、んぅ……ふ、ぐ……っあ、ぁぅ……は、あっ、ふぅ……」  呼吸が短くなり、やがてがくんと頭は一瞬揺れる。それまでモーに飲み込ませていた喘ぎが、酸素を取り込もうと開いた口から、次々に溢れ出た。 「ひ、も、大きすぎる……もっと、小さくしてくれ」 「無理です……一度抜きますか」 「ばか、冗談だ……やめるな、おく、おくに」  薄く閉じられた瞼の縁で、涙の粒を乗せて震える睫。縋りつく腕から、腰へ絡みつく左脚まで、どこもかしこも硬直している。口にすることで、胎内の存在をより強く意識したのだろう、締め付けは痛いほどだった。  理性なんか放り捨て、本能のまま突き破れば、絶対に気持ちいい。そんなことは百も承知だったが、モーは奥歯が軋む程顎に力を込めた。 「市長、ハリー、力を抜いて」  出来ますか? と尋ねることで精一杯だった。額から垂れ落ちた汗の滴が、仕立ての良いハリーのシャツにぽつんと広がる。余裕なく何度も頷かれたのを、肩口にぶつかる額で感じ取り、モーは両手でハリーの尻を抱えた。大柄な己の手でも余る、たっぷりした肉が悶え弾む。これ以上人を誘惑するな、大人しくしてくれと怒鳴りたくなった。  凶暴な感情は、がり、と背中に立てられた爪で益々膨れ上がった。ぐうっと押し込めば押し込むほど痛みも強まる。こんなものは抵抗だと感じることが出来ない。 「ん、んーー……っ」  そして、行き止まりに当たる。腸詰めの先端のように、きゅっと頑なに閉じている場所──そもそも、今挿れている場所だって腸じゃないか。思考回路を巡る感情が全て性的興奮となっている今、理路整然と物事を考えるのはとても難しい。  肩に力なく頭を預け、はふ、と切れ切れの息を吐き出すハリーは、既に限界のはずだ。証拠に、軽く腰を揺するだけで、ぴくりと身を震わせる。  ゆっくりと動き始めたモーに、最初はハリーも同調していた。 「あ、ぁあ、モー、きもち、もっと……!」  自ら腰をぶつけ、擦り付けるようにして、いいところを教えてくれる。浅めの場所だ。ぐにぐにとした内臓の下に、他とは違う感触の何かが隠されているところ。 「ひ……!!」  ずっと一息に抜いて、引き戻した先端で押し潰してやれば、痙攣は全身に及ぶ。そこばっかり擦られたら馬鹿になる、とかつて叱られたが、ハリー本人の望むことを成し遂げるには、馬鹿になって貰わないと困る。 「ぃ、いい、はぁ、ん、ぅ、ぐ、いたい、モー、いたい」  こういう時の痛いは、良いの裏返しだと、流石にモーも理解するようになってきた。それに体は正直とはまさにこのこと、快楽を与えてやればやるほど、粘膜は柔軟さを増す。搾り取る、という感覚が、舐めしゃぶる、というものに変わりつつあるのを確認し、モーは再び奥へと身を滑り込ませた。こつ、と行き止まりへ当たる感触に、すっぽり包み込む胸の中で、肩が震えたのを感じる。 「ここ」 「ん……」 「ぶちこみます」  まがりなりにも市長相手に放つべきではない、下品な言葉を口にしたと気付いたのはしばらくしてからのこと。ハリー・ハーロウは寛容な男だ。快感で朦朧としながらも「きてくれ」と耳打ちする。  ぐ、と両手で尻肉を割り開けば、括約筋は今更羞恥を覚えたかの如く必死に窄まろうとする。そこから波及する腸の動きに乗じて、モーは腰を突き上げた。  ぐぼ、とその音は、腹の中だけに止まらず、外へ響くほどだった。突き破られたハリーが背筋を反らし、ひゅ、と喉を鳴らす。真後ろへ倒れないようにモーが腕で背中を支えれば、押し止められていた体が落ち、より深くペニスを飲み込む羽目になる。 「あ、ぁ……」  きつく勃起したまま震えるハリーのペニスから、びゅるりと精液が吹き出した。そう言えばすっかり忘れていた、悪いことをした。まだどぶどぶと吹き出す白濁を全て絞り出すよう、モーが扱いてやれば、「なに、やってるんだ」と悲壮な声で訴えられた。 「ばか、いってる、いま、いってるから……!」  括れを中心に窄まりへ引っかけて回す動きをしたり、大きく小さく抜き差ししたり。もはやモーがどのような動きをしても、ハリーは堪えられないようだった。 「も、やめ、やだっ、おかしくなるっ……!」  身を捩り、泣き叫び、それなのに口元は至福の笑みですっかり崩れている。ああ確かに、彼は今、喜んでいるんだなと、モーは汗や涙ですっかり濡れた顔を見下ろし、そう思った。  そう、ハリーが喜んでくれていることが第一だ。確かに今までだって、モーの奉仕を皆享受していた。マリーン、女性達。誰にも十分尽くしてきたし、喜ぶ彼ら彼女らを目にすれば、自分自身も満たされた。  それだけで十分だったのに、ハリーはモーの全てを受け入れてくれる。君だって人間らしく、欲望をぶちまけていいんだと誘いかけてくる。  ハリーは何故、自らを選んだか? そんなこと、ちっとも重要ではない。彼は優秀な人間だから、己の目的を達成するために必要なことをする。  問題は、自らが彼を選んだことで、何をしたいかだった。今や考えるよう期待されていた。 「モー……」  なけなしの力を振り絞り、ハリーは己を貪る男の背へ再び腕を回す。汗ばみと体温を味わうよう、頬をすり寄せながら、ほっと吐かれる息の健気さ。思わずモーも、強く抱きしめ返した。後は前進あるのみ。串刺しにした状態で、ぐいぐいと一番深い場所を抉る。手のひらの中で、じゅわ、と熱い液体が迸る。 「ぁ……ぁあ、あー……」  まずい、と咄嗟に前のめりになり、デスクの上へ腕の中の体を押し倒す。それで益々結合が深まったものだから、ハリーはさながらナイフで深く刺されたかのように、びくん、びくんと大きく体を跳ねさせた。独特の臭気が広がり、シャツが重い熱でぐっしょりと濡れる。  己が射精の快感を味わうのもそこそこに、上着を脱いでデスクにこれ以上の水たまりが広がるのを防ぐ。絨毯にまで流れ落ちなかっただけでも僥倖と捉えるべきだろう。  今回ばかりは、ハリーも自らの失態に対する反応が早かった。強烈なオーガズムに浸り、虚空に意識を彷徨わせていたのは30秒ほど。やがて下半身の違和感に気付くと、慌てて身を跳ね起こす。 「え……うわ、あ……しまった」 「大丈夫です、市長。大したことありません」 「全然、大丈夫じゃないし、大したことだろう」  デスクから降りて自分で始末しようとするから、「あなたが動いたら余計に汚れます」と強めに制止する。  スラックスを引き上げて、とりあえずゴミ箱に汚れた服を放り込んでいるモーへ、ハリーは比喩ではなく合わせる顔がないと言わんばかり。顔を両手で覆っているのは可愛いな、と思われていることなど、きっと知りもしないし、知ったら知ったで怒り出すだろう。 「執務室で漏らした初めての市長なんて汚名は……」 「確かに汚名ですね」 「何笑ってるんだ」  ああもう、と呻いて益々うなだれるものだから、真っ赤になった耳が露わになる。また兆しそうになったから、モーは目下の問題に集中することで何とか気持ちを萎えさせようとした。 「君、服は」 「シャツの替えはあるので大丈夫です」 「スーツのクリーニング代は出すよ……いや、もう捨ててくれ。今度僕が買って返すから……僕は全滅だな。エルに連絡して持ってきて貰うか」 「俺が取りに行きます」  間一髪でスマートフォンを取り上げ、モーはデスクの上で膝を抱える若き市長に詰め寄った。 「いいですか、ハリー。今後もし、困った事態に陥ったら……どんなプライベートな事でも構いません。そのときは、俺に連絡して下さい」 「でも」 「失禁まで見られたんですから、もう俺達の間に恥ずかしい事なんて無いでしょう。休日だろうが、夜中だろうが、俺はあなたの元に駆けつけます」  己がとんでもないことを言っている自覚は勿論あった。これが本当に、己の望みかどうかも分からなかった。  けれど、覚悟は決まった。それを自分の手で見つけられたことが、モーは心底誇らしいと思えた。

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