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魔法が解ける前に

船は嵐に会い転覆。 俺とAは小島に漂着した。 幸運にもそこには空き家があった。 男二人。絶海の孤島。俺が望んだ通り、すぐに親友以上の関係になった。 白砂のビーチ。Aは俺を胸に抱きつぶやく。 「まるでハネムーンだな……」 「は、ハネムーン!?」 「何、顔を真っ赤にして照れてんだ。こんなに激しく愛し合ってて今更だな。チュッ」 「うげっ、キス魔め!」 「嬉しいくせに」 「んなわけあるかよ!」 「すげぇ、固くなってんじゃん……ここ」 「やめろって。バカ、パンツの中に手を突っ込んでくるな!」 夕暮れ時には、丘に登って水平線を眺める。 「綺麗な海だな……」 「お前も綺麗だよ」 「はぁ……A、お前って、本当にチャラ男だな。そうやっていつも女を口説いているのか?」 「ちげぇよ! 俺、マジでお前の顔、綺麗で可愛いって思ってる」 「な……何だよ、それ……」 「ぷっ、顔真っ赤!」 「うるせぇ!!」 Aは俺を後ろから抱き締めて頬に優しくキスをする。 そして愛撫はエスカレートし、やがて繋がり、快楽の絶頂へ。 こんな日々がずっと続けばいいのに……。 そう思っていた矢先、とある事件が起きた。 それは日課の釣りの最中。 「バカ! 尻、触ってくるな! 逃げられただろ!」 「魚? いいよ、それよりイチャイチャしようぜ」 「マジでやめろって……って、おい、あれ見ろよ……何だろ?」 「ん? ボトル? 中に何か入ってるみたいだ」 拾い上げた瓶。Aは中を覗き込む。 「海図か? もしかしたら俺達、助かるかもしれない」 助かる……まさか。 胸がざわめく。終わってしまう……幸せな時間が。 『助かっても恋人のままさ。心配するなって』 Aの口癖。 でも俺には分かる。今は魔法に掛かってるだけ。きっと魔法は解けてしまうんだ。 ああ、どうか。神様……。 「この島の権利書? これを拾った奴に譲るって……」 良かった……まだ大丈夫……。何故か涙が出る。 「まぁ、いいや。ここは俺達の愛の巣って事だ。堂々と愛し合おうぜ! あれ? お前涙……」 「フン!! お、俺は、別に愛し合わなくてもいいけどな」 「はいはい。でも、どうせこっちは固くなってんだろ? ほら、やっぱり」 「ば、バカ! 勝手に触るな!」 「あはは、むっつりスケベ」 「うるさい、うるさい、うるさい!!」 心に決めた。 魔法が解ける前に俺にとことん惚れさせる。 だから、俺一番の甘いキスをかましてやるんだ。覚悟しろよな、A。 俺は涙を拭き、微笑むAに抱き付いた。

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