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引き摺り下ろす
洒落た店が立ち並ぶ繁華街で静は1件のバーに立ち寄り、カウンターで酒を飲んでいる男に声をかけた。男のピンと伸びた背筋は後ろ姿だけで美しさを感じさせる。
「すいません、お兄さん
隣に座ってもいいですか?」
「え?隣ですか?
大丈夫ですよ」
黒いジャケット姿の男は端正な顔に軽い笑みを浮かべて、グラスを端に避け静の席を空ける。
(笑ってのうのうと生きるな)
静は自分の感情を抑え、バーテンダーにソルティドッグを注文した。
飲み物が出されるまでの間、静はカウンターに頬杖をつき口角を上げ、隣の男に話しかける。
「今日はどなたかと飲みに来たんですか?」
「いえ、今日は1人で飲みに来ました」
「そうなんですね
お兄さんとってもかっこいいんで彼女と待ち合わせかと思いました」
「いえ、そんなことないですよ
でも、ありがとうございます」
男は困ったような表情を浮かべながらも笑みを浮かべた。
(なんだ、彼女もいたらそいつも一緒に地獄に落としてやろうと思ったのに)
静は上っ面の笑みを浮かべつつ奥歯をギリギリと噛み締めた。
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