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母親

そんな幸せな日々を送って半年ほどたったある日、母親が数ヶ月ぶりに静の元へと訪れた。 「何?」 「ちょっとあなたに話があって来たの」 毛皮のコートを羽織った母親は静の体をすり抜け部屋の中へ上がり込んだ。 「勝手に入るなよ!」 「私が家賃を払ってるのにあなたに口出しする権利があるの?お金を吸い取るだけの存在くせして口答えしないでよ」 静は言い返す言葉がなく、口篭ってしまう。 母親は軽蔑するように部屋の中を見渡しため息をついた。 「きったない部屋 よくこんな豚小屋のような部屋に住めるわね」 静は拳をギュッと握りしめた。 宗介と2人で過ごしたこの部屋を別の誰かに貶されるのが嫌で嫌で仕方ない。 「……っ早く要件言えよ!!」 「何いきなり大きな声出して びっくりするじゃない」 母親は、はあと深くため息をつくと話を始める。 「私、海外で個人事業主として活動することになったの」 「それがどうしたの…」 「冷たい子 親が海外に行って寂しいとか思わないわけ??」 「別に思わない…俺が小さな頃から家を空けてたんだから今更だろ」 「本当にひどいわね これからあなたが育っていてもいい企業につけるわけでもないだろうし、価値のない人生を送るだろうからいい話を持ってきてあげたの あなたを私の会社で働かせてあげる。高校も辞めていいわよ。海外についてきなさい。」 「なんで、いきなり… 俺は自分の行きたい道を行く」  「そんな自分勝手が許されると思ってるの?」 「あんたの方が自分勝手だ…」 「何言ってるの??私が助けてあげるって言ってるのよ?? この恥晒し!!」 母は持っていた鞄を静の顔に向かって投げつける。 「いたっ!」 鞄の金具があたった静はその場にしゃがみ込み痛みで顔を抑えると、手のひらに赤い何かが付着する。それは血だった。母親はそれに対して心配することもなく話を続ける。 「大体、あんたのせいで私がどれだけ恥かいてきたと思ってんのよ!!この出来損ない!!誰に似たのよ!!憎たらしい!!」 母親は静に向かって怒鳴り散らし、床に転がった鞄を拾い上げそれを何度も蹲る静の背中に叩きつける。 「やめてっ、やめてよ!母さんっ…」 静の声を聞かず母親は何度も鞄を叩きつける。 床は静の鼻血がポタポタと垂れて血溜まりを作っていた。 頭上からは母親の啜り泣く声が聞こえる。扉から出ていく音が聞こえる。 「来月にはこの家解約するから、それまでに準備しときなさい。」 「何言ってんだよ!!俺は海外なんかに行かないから!!」 学校は好きではないけど、とにかく宗介と離れることが嫌だった。 静は家を飛び出し、学校に向かって駆け出した。 今ならまだいるはずだ。宗介に会いたい。その一心で走り続ける。 道ゆく人が鼻血を垂らしながら走る静を奇妙な目で見た。そんなことは今は気にならない。一刻も早く会いたい。

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