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躾の時間:エバンス③
「おら、ケツ出しな」
「は、い……」
狩りから帰ったエバンスは大抵昂っている。いつ求められてもいいように準備された後孔を突き出せば前戯も何もなく突き入れられた。
「ゔ♡ ぁ、ひぃッ♡」
ちゃんと喘いで、中も締めて、悦んでいる様を見せないといけない。顔色を伺って思ってもいない言葉を並べ、レインはみだらな娼婦そのものとして振る舞い続けた。
「……っ、使ってくれて、ありがとうございます……」
手だけを返され、体を引きずって後始末と次の準備をする。その間エバンスはぐっすりと快眠だ。腕だけでは寝台によじ登ることができず、レインはいつもクッションを落として朝までそこに転がっていた。力を手に入れる前でもここまで酷い暮らしはしていなかった。
朝になればエバンスにクッションと同じ扱いで寝台に戻され、手も没収される。ふたたび抱かれるのを待ちながらただ窓の外を見る、その繰り返し。
レインは何度目か分からない涙をこぼした。いっそ体液も変化しない体になればよかった。涙が出れば自分が苦しんでいると自覚してしまうではないか。
一日がとても長く感じた。なにせ何もやることがない。満足に身動きも取れないし、エバンスの部屋に来るのは無口な清掃係だけだ。言いつけでもあるのかレインを視界に入れようともしない。
今日も虚ろになって埃っぽい空を見ていると、足音が近づいた。清掃係はこんな音は立てない。視線を入り口に移すと、一人の青年と目が合った。
「こんにちは」
「……」
戦士の服装はしていない。軽い材質のシャツから小麦色の肌が覗く。青年はキョロキョロと辺りを見回すと、部屋に入ってきた。
「きみを攫いにきたんだ」
青年はレインの前に屈むと、爽やかに笑ってそう言った。盗賊の類いだろうか。それにしてはずいぶん堂々としている。
「エバンス様の向かった土地で砂嵐が起きてね。その復旧のために二日ほど帰ってこれなくなったんだ」
「……」
「だからその間くらいきみを好きにしてもいいかなって」
青年が手を伸ばしてレインのぼさついた頭を撫でた。エバンスは無頓着なのでレインの髪を編むこともしない。
「いつも泣いてるのが心苦しくてね。エバンス様も酷い仕打ちをするよ、まだ子どもだろうに……」
酷い仕打ちには同意するが全く子供ではない。喋る気力も湧かず黙って眺めていると、青年はレインの体を抱き寄せた。
「少しはきみを慰められるといいんだけど。さあおいで」
優しい触れ方に思わず身を委ねた。双子が恋しいと思うなんてかなり毒されている。
青年が手頃な布でレインの体を包んだのを見て、自分が恥ずかしい格好をしているのだと思い出した。
青年はレインを抱きかかえ、堂々と歩いて移動した。レインはかなり目立つだろうに、すれ違う人は誰も一瞥すらくれない。
「ぼくは透明人間なんだ」
どうやら魔法の心得があるらしい。この国では肩身が狭そうだ。
連れてこられたのは都の中心部から離れた小さなオアシスだった。静寂に包まれ周囲には誰もいない。
「ここがぼくの住処。ぼくはちょっと特別だから、土地を貰えているんだ」
青年が水辺に膝をつき、レインの布を取り払う。青年はレインを抱き直すと、おもむろに後孔へ手を伸ばした。
「ぁ、……っ」
「ごめんね、少し我慢して」
ず、と張形が抜かれていく。エバンスの怒張を受け入れるためには常に穴を拡げておかないといけないのだ。仕込んだ香油やエバンスの精液を留める栓としても活用されている。
「は……ふ……」
「こんなものを……趣味が悪いな」
同意する。
青年は装飾品も丁寧に外し、着ている意味の薄い下着も脱がせると一度布の上にレインを寝かせた。ばさりとシャツを脱いだ青年はほどよく鍛えられた体をしている。レインも不死身になる前に鍛えておくべきだっただろうか。
下着だけになった青年はレインをもう一度抱き、透き通った水へ入った。そのまま深い場所まで進み、ぱしゃりと身を沈めた。
「冷たくないかい?」
青年が柔らかくレインの肌を撫でていく。慈しむように全身を洗われ、レインは心地良さに息を吐いた。
青年は器用にレインを清め、水から上がると近くの家へ入った。広くはないが綺麗にされている。
「ぼくのシャツで悪いけど」
袖も裾も余っているがこれまでの服と比べれば断然嬉しい。ここまでされてようやくレインは喋る気力を取り戻した。
「見つかったら、まずいんじゃないのか」
「……ふふ、素敵な声をしているね」
微笑む青年に瞬きする。話が通じないタイプか。
「エバンス様とは、仲がいいというほどではないけど顔見知りなんだ。きっとなんとかなるよ」
「……誰なんだ」
「ああ、名乗っていなかったね。ぼくはミリア。この国の巫女をしてるんだ」
レインはまたしても目を瞬いた。目の前の青年と自己紹介が一致しない。
「ふふ、ぼくの家は代々巫女の家系でね。でも今代はぼくしか生まれなかった。幸いぼくには魔法の才能があったから、祭事には女として振る舞うんだよ」
ミリアが手をかざすと、胸が膨らんで乳房に変異した。変身魔法を使える者はそうそういない。レインが目のやり場に困って視線を逸らすと、ミリアはくすくすと笑って元の姿に戻った。
「エバンス様は偉大だ。あの強さと求心力でずっと皆を率いてくださってる。でも……強すぎるあまりに、それに焼かれてしまうひともいる」
ミリアが優しくレインの頬を手のひらで包んだ。
「ぼくはそうしたひとの拠り所なんだ。皆を癒し、安心させるのが役目なんだよ」
「……俺も?」
「そう。きみがどんなひとであろうと、ぼくは手を差し伸べるよ」
ミリアの笑みには含みがあった。エバンスとどの程度繋がりがあるのかは分からないが、レインについてなにか知っているかもしれない。
レインはミリアの体温にしばし体を預けた。自分が思うより疲弊していたらしい。ゆっくりと髪を梳いて撫でてくれる気持ちよさに目を閉じる。魔法使いはほとんど好かないがこいつは見逃してやろう。
「眠る?」
「……寝る必要がない」
「そう。なら、気持ちいいことをしようか」
その言葉に目を開けると、ミリアが微笑んだ。
「苦しい思いばかりだろう? ちゃんと気持ちよくなりたくない?」
「……」
レインは内心ぐらついた。決して淫乱になってしまったわけではない。ないが、久しく満たされる絶頂を味わっていないので欲求不満ではある。
レインは考えて、首を横に振った。
「そういうこと自体が嫌い?」
「……好きじゃない。し……今は、エバンスの専用、だから」
レインは不快な気持ちで言った。ミリアがもしエバンスと繋がっているならこのことがバレたあとのエバンスが怖い。繋がっていなくとも、レインと関わったせいでミリアになにか罰がくだるのも目覚めが悪い。
ミリアは憐れむような表情になって頭を撫でた。
「いないところでも従順に振る舞うなんて、さぞ辛い調教を受けたのだろうね……」
「……」
不愉快この上ないが、こうやって媚びへつらっていれば最悪は避けられる。ひと月我慢すればこんな地獄からも解放されるのだ、そのくらいを耐える気力はまだある。
「なら、時間が許す限りぼくが抱きしめていてあげようね」
ミリアがひしとレインに腕を絡めた。彼の抱擁には心が回復していく心地良さがある。なにか巫女ゆえの特性でもあるのだろうか。
「話し相手にもなれるよ。ひとりは暇じゃなかった?」
「それなりに」
「ふふ、ならゆっくりと一日を過ごそうじゃないか。エバンス様が忙しいことを願って」
ミリアがレインごとベッドに横たわった。
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