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第5話
-17年前-
「今年の夏休みも1日から10日まで高等部の先輩方が勉強を教えてくれる交流勉強合宿があります。勿論、スコア加算有りになります。不参加者は帰る前に自分の名前の横に丸をつけてください」
教師が名簿の載った一枚の紙を黒板に貼り付ける。夏休み直前、一学期の最後の授業を終えた学生たちは浮き足立っており、話を聞いているのかすら定かではない。そんな生徒たちも、8月に入ると、また身を引き締めなければいけない時期がやってくる。
交流勉強合宿。
18歳までは、未成年特別評価基準というものがあり大人とは別の学校専用の評価項目が用意されている。スコアが高ければ高いほど就職や大学進学に有利となる。また、スコアやその他の身体的データに基づき委員会適性、部活適性が出るようになっている。
交流勉強合宿は一年の中でもスコアを大きく稼げる機会で、これに参加しない手はない。
「また、役員になっている人は事前交流が本日から始まりますので、この後この名簿を持って高等部の生徒会室に集まるように!それでは、また交流会で会いましょう、号令」
号令を終えると同時に生徒たちは蜘蛛の子を散らすように教室を出て、全寮制であるがための寮生活という軟禁生活から一時の解放をされる。名前の横に丸をつける人は一人もいなかった。誰にも触れられる事なかった紙を持ち、高等部に向かう。
「田迎くん、待って」
振り返ると、自分と同じいつも一人で過ごしている女の子がいた。
「わたし、不参加だから、その…」
「あぁ、ごめん。どうぞ」
「ありがとう」
スコアは加点だけではなく減点もある。一応私立の進学校であるこの学校は、100以上のスコアがないと入学すらできない。また、高等部に上がるためには中学在学時に100を稼ぎ、合計200以上のスコアが無いと試験を受ける資格すら得られない。3年で100、一年で33以上、加点の比較的大きな交流会でも5点しか稼げない。この子は去年も一人だけ参加していなかった気がする。大丈夫なのだろうか。
「こいつ、参加しなくて大丈夫かよ、頭おかしいんじゃねぇのとか、思ってるでしょ」
申し訳ないが、きっと誰でもそう思うだろう。
「いや、、、」
「いいよ、自分でも思ってるから。でも、もう疲れちゃったから。除籍狙いなの、だから気にしないで」
除籍。
中学2年の2学期終了後、スコアが120を下回った者は除籍となる。俺たちは今ちょうど、その2年の1学期を終えた。
「息苦しさから、早く解放されるといいね」
「うん」
進学校で除籍は珍しいものではない。
ただ除籍を受けたものは、今後の進む道が険しいものになることを覚悟しなければならない。
「田迎くんは、生き延びてね」
「頑張るよ」
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