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第5話 辺境砦
辺境伯の治める街は、元々大きな壁のある窪地だったと聞く。
国の果て、魔獣の住処の荒れ地との境目にあるその窪地の中は、荒れ地の中のオアシスみたいに安全で、その壁に穴をあけて窪地の中に街を作り、国はそこに辺境伯を派遣して守りの要とした。
というのが、俺が聞いている街の概要。
街道はあるもののほとんど人が通っていない道を歩いてきて、人がいない街なのかと思っていた分、壁の中の栄えっぷりには驚いた。
王都にも負けていないんじゃないかな。
「とはいえ、栄えているのは壁の内側だけなのですね」
「外は荒れ地に近い分、危険が多いってことだろうな」
壁の穴部部分にもうけられた関所を抜けて、街の中に入ると、リコはふわああと変な声を上げた。
少し大きな街に来ると、未だに新鮮な反応をする。
「さて、どこから手を着けるか……」
まずは宿探しかなと周囲を見た俺を、リコがくいくいとひっぱる。
「グレイ、あっちです」
リコが指さすのは、まっすぐ前。
「まだ遠いですが、あちらから兄さまの気配がします」
まっすぐ。
リコがそう言うので、引かれるままに歩を進める。
半日かけて中央広場に出て、それからまだまっすぐに歩いて街を突き抜けた。
辺境の街は、まっすぐに反対側に出るのにも一日がかりで、大きい窪地だったんだなあと感心した。
夕刻、反対側の関所にたどり着いた。
「リコ、少し落ち着け」
荒れ地での野宿はちょっと遠慮したいなあと、急いたように俺の手を引くリコを引き留めた。
まだこの街のギルドにも顔を出していないし、宿も決めていない。
「え?」
「もう夕刻だ。今から関所を抜けるのは、危険すぎる」
俺の言葉にはっとしたように空を見上げてから、リコは困ったように眉を下げた。
それでも外が気になって仕方ないというように、関所の方を何度も見る。
「もうそこに、兄さまの気配があるのです」
「関所の外にか?」
「はい」
うーん、とお互いに首を傾げてしまう。
俺としてはここで一旦宿を取って、明日から動きたいところなんだが、リコはとにかく兄に会いたいらしい。
「おや、本当にいたよ珍しい。森の子じゃあないか」
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