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③
「そうなんですね…まあ、兎よりはマシですけど…。」
俺がウサ耳とか、ホント笑えない。
円サンにだけなら、見せても構わないけど。
土屋辺りにでも見られたら、何を言われることか…
こんな余興にすら、全力で楽しもうとする恋人には、敵わないなと笑みが零れて。
…ふとそこで、最もな疑問が頭を過った。
「…お団子、買えば良かったんじゃ…ないですか?」
お月見ときて一番に連想するのは、寧ろソッチなんじゃ…と。俺がぽつりと漏らした瞬間。
「ああ~しまった~!!耳に気を取られて、肝心なお団子を忘れるなんてっっ…」
悔しげに頭を抱える円サン。
余程ショックだったのか…途端に泣き出しそうなくらい、目尻が下がってしまった。
「別にいいじゃないですか。月を見るだけでも…」
項垂れる円サンの背を撫でながら、声をかけるものの。
「だって、せっかく昴クンとのお月見なのに~…」
俺の事を思って尽くしてくれた円サンは、シュンとなり自らを責め始める。
「くぅ~…どうしてオレってば、こうもドジっ子なんだろう…」
仕舞いには自己嫌悪に陥る円サンに。
俺はしょうがないなぁと、溜め息を吐いた。
「お団子なんか、なくてもいいですよ。」
態と声音を甘くさせ…耳元で囁く。
(俺は、円サンの方が食べたいです…)
「ッ…な、すばる、く……」
息を吹きかければ、ビクンと敏感な反応を示し。
耳元を押さえ赤面する円サン。
更に悪戯心を擽られた俺は、ニヤリと意地悪く笑って。円サンの頬へと、手を伸ばした。
「虎といえば……肉食、ですよね?」
きっと今の俺は、凄く厭らしい顔をしてるんだろう。
何故なら俺を見た円サンの表情が。
一瞬だけど、期待に満ちた色を…宿していたから。
「兎なら…黙って俺に食べられてくれませんか?」
アナタが悪いんですよ?
だってこんな可愛い事ばかり…してくるんだから。
ゆっくり顔を近付け、円サンの返事を待つ。
そうしたら…
「う、うん…昴クンなら、食べてもいーよ…」
円サンは応えてぎゅっと目を閉じる。
その姿に満面の笑みを湛えて。
俺も遠慮なく顔を寄せると─────
「っ………?」
ちゅっ…と愛らしい音をたて、額に優しいキスを落とした。
「ふふ…円サンて、本当に可愛い人なんですね。」
つい緩む口元を押さえ、
目を閉じたままの恋人を、よしよし撫でてあげる。
「ッ…───!!かっ、からかうなんてヒドいじゃんか~!!」
見る間に顔を上気させ、頬を膨らます円サン。
怒った顔も可愛いとか…ホント罪深い人だ。
「いえ、そうじゃないんです。ソレは後で、いくらでも出来るかなって…」
そう…
俺と円サンはひとつ屋根の下、共に暮らしてる。
お楽しみなんてベッドの中で、
いつでも好きなだけ愛し合えるんだ。
けど今は──────
「もう少しだけ、円サンとこの月を見ていたいなっ…て。」
今日見る月は、
もう二度と目にする事は叶わない。
貴方と初めて見た、この目に映す美しい月は。
だから。
ごめんなさいと謝罪する俺に、円サンはにっこりと微笑んで。
「そだね…」
どちらとなく手を繋いで。
夜空に浮かぶ月を見上げ、
互いの存在と共に、記憶のひとつへと刻み込んだ。
愛し合う意味を問われたなら。
迷わずベッドの上で交わす、
淫らな行為のことばかりだと思っていた。
それも充分素敵だろうし、
貴方とならいくらだって愛し合えるけど…
今宵、ひときわ煌めく透明なあの月を。
貴方とふたり、この目に焼き付けてからの方が…
もっとステキなんじゃないかって。
またひとつ、貴方が教えてくれたんだ。
「月って確か、人を惑わす力があるんだって~。」
「…え?」
俺を惑わすのは───────貴方だけ。
おしまい♥️
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