22 / 56
純愛Ⅱ-初夜編-《咲輝side》4
―数日後―
「あ、咲輝くーん」
朝、美術室から教室に向う途中で誰かに声をかけられた。
「山田先生。おはようございます」
「やっと一つになれたみたいだね。嬉しい。結局ゴムつけたの?」
「…緋禄から聞いたんですか?」
「そうなんだよね。色々相談されて。口でさせてもらえないって悩んでたよ」
「そんなことまで先生に。すみません…」
廊下でこんな話しをするべきじゃないのに、山田先生が止まらない。
「どうして口でさせてあげないの?緋禄くん汚しちゃいそうで嫌?恥ずかしい?」
「恥ずかしいというか…」
俺は口でされたくないわけじゃない。
むしろ、してもらえたら嬉しい。
けれど、させない理由が俺にはあった。
「口でされたら余計に興奮して制御できなくて、緋禄をめちゃくちゃにしてしまいそうなので…」
緋禄を大切にしたい。
自分の欲望のためじゃなくて。
緋禄の体を優先したい。
「わーお!愛だね、愛。もう本当に君たち尊すぎて俺がキュン死にしちゃう。死んだら哀沢くんに怒られちゃうから死なないけど」
―昼休み―
緋禄と寺伝と3人で学食でランチ中。
俺の携帯に着信が入った。
「父からだ。悪い、先に食べててくれ」
「オッケー」
そう言って俺は席を外した。
『咲輝、元気か?』
「はい。個展おめでとうございます」
『ありがとう。今度祝賀パーティーがあるんだ。咲輝も出席しなさい』
「分かりました」
『ホテルで開催してそのまま泊まれるから、よければ緋禄くんも誘いなさい』
「はい」
父は過去に何回も個展を開催していて、いつの日だったか緋禄を連れていったことがあった。
そこで緋禄を気に入ってから、毎回祝賀パーティーに緋禄を連れてくるように言われる。
恋人ごっこを始めてから緋禄を連れていくのは初めてだな。
しかも最近は緋禄の体調が悪いときと祝賀会が重なっていて、父も緋禄に会えていなかったし。
今回は一緒に行けるといいんだが。
「二人とも、悪かった…大空?」
父からの電話を終えて戻ると、1学年下の大空がいた。
「前山先輩こんにちは!あの、口…」
「おーおーぞーら!!」
寺伝が大空の口を押さえて、制服を引っ張って二人でどこかに去っていった。
なんだ?
「口?」
「なんだろな?俺も分かんない」
寺伝と大空は仲が悪いと聞いていたが、見た感じそうでもなさそうだな。
席に座ると、緋禄が俺を見て問いかける。
「咲輝は、俺のこと大切なの?」
大切に決まってる。
俺はきっと、あの日園庭で寝ている緋禄に惹かれてしまったんだ。
人見知りである普段の俺なら、あの状況で絶対に声なんてかけない。
でも、話したくなった。
どんな声で、どんな表情で俺を見るのか知りたかった。
だから起こしたんだ。
「大切だよ」
もう、あの時から俺は―…
「そっか。俺たちは俺たちのペースで頑張ろうな」
「?」
「由輝さん何だって?」
「あぁ、今度祝賀パーティーがあるから緋禄も連れておいでって」
「え、行く行く!やった。スーツ用意しなきゃ」
この笑顔をずっと隣で見ていたい。
あの時も今も。
出来ればこのゲームの終わりなんて来ないことを、俺は心の中で祈った。
ともだちにシェアしよう!