いつもの荒々しいキスではない事に加えて、しかも相手が鷹汰ではない慶汰の広告写真にSNSは大騒ぎしておりネットニュースにもなっていた。 SNSでは「あれは〇〇じゃない！？」「最近人気の××だよ！」と相手が誰かの討論をしているのと同時に慶汰の浮気だー！とファン達が騒いでおり、阿鼻叫喚状態だった。 冬夜もSNSを見て熱狂的なファン達の言葉に悪寒がすると何も言わずにSNSを閉じて自分のベッドにゴロンと寝転んだ。 今でも目を閉じると出てくるのはあの時のキスの感触だった。 それを思い出すと冬夜の頬が緩んでしまい、にやけてしまうのであった。 (さすがに迷惑かけられないから、ちゃんとしっかりしなきゃ) と、冬夜は自分の心に言い聞かせたが… 気が緩んでしまうとデレ～っと顔が緩んでしまっていたのであった。 仕事中でも女性社員さんから「何か嬉しいことあった？」と問いかけられてしまう程、緩んでいて冬夜は誤魔化しながら何とか仕事をしていた。 しかしペットショップに足を運んでくれたお客様達が慶汰の今回の話をしているのを聞いても、思い出してデレデレしてしまう冬夜だった。 流石にマズイと感じた冬夜は気を引き締めようとした瞬間に、扉が開く音が聞こえて新しいお客様が来たので接客しようとした。 「いらっしゃいませー」 そう声をかけながら新規のお客様を見ると深く帽子を被って、顔が見えないようになっていた。 まるで初めて慶汰がお店に来た時の様に…。 というか、そのお客様は慶汰に背格好が似ていたのだ。 その時を思い出してじっと見てしまうとお客様も冬夜の方を見て少ししてからズカズカと近寄ってきた。 (え、なになに？なんだ！？) いきなりの事で内心驚いていると、ガシッと片手で顎を掴まれて固定されてしまいそのまま… 深く口付けをされてしまった。 「！？ん、やぁっ…んっ！」 離そうとしたがビクともせず、口内に舌を入れられて無理矢理、荒々しく舌同士を絡ませだして冬夜の目尻に涙が浮かんだ。 周りのスタッフやお客様は顔を真っ赤にしながら見ているだけで誰も助けようというのは感じられなかった。 「んんっ、ぁ…や、っ、ん！んっ…！」 やっと口が離れた時には冬夜の体はビクビクと痙攣しており、その場に崩れ落ちてしまった。 すると無理矢理キスをしてきた相手が口を開いた。 「慶汰のキス、返してもらったぜ」 そう言いながら帽子を外して冬夜を見下すのは彼は慶汰の双子の弟の鷹汰だった。 まさかの人気モデルの登場に店の中は大パニック状態になり、冬夜も唖然としていた。 すると「おい、鷹汰！」と何度も聞いた声が聞こえてきて、声のした方を見ると変装をしていない慶汰とマネージャーが来て、ますますお店の中は大興奮が凄くなっていた。 「わりぃな、冬夜！迷惑かけた！」 「あ、え、いや…」 「慶汰がいけないんだろ！こいつと…キスなんかするから…っ！」 涙目で慶汰を睨む鷹汰の言葉に慶汰は一瞬顔を歪ませたが、すぐに真剣な表情に戻すと鷹汰の腕を掴んで店から出ていった。 するとマネージャーが冬夜に対して「悪い、一緒に来てくれるか？」と笑顔でお願いをしてきて冬夜は一緒に向かうことに。 そして着いたのは、まさかの2人が所属する事務所の社長室だった。 冬夜は慶汰の隣に座って向かいには真剣な表情の社長と涙を流す鷹汰が座っていた。 「いや、天沢くん誠にすまなかった、いきなり鷹汰が店に向かいだして…誰も止められず…」 「い、いえ、大丈夫です」 ゆっくり頭を下げてくる社長に慌てて冬夜は伝えると、鷹汰がボソッと呟いた。 「だいたい慶汰に近づいたのだってファンだからだろ？下心丸見えなんだよ」 鷹汰の言葉が冬夜の胸にグサリと刺さった、すると慶汰がすぐに「冬夜はそんなんじゃねぇよ！」と否定をしてくれてまた胸にグサリと刺さった。 確かに慶汰は冬夜の憧れの人でファンであった、そこに下心はないのか？と聞かれたら100％無いとは言えないだろう。 鷹汰の目は何もかも見透かしている様で冬夜は視線が怖かった。 「慶汰、俺、お前が他に奪われるのは嫌だよ…慶汰は俺の大事なお兄ちゃんでパートナーだろ？」 そう言う鷹汰の目はまるで恋人を見るような愛しそうな目をしていて、慶汰は一瞬逸らしたが次に冬夜と目が合うと慶汰は眉間に皺を寄せて険しい表情をした。 「慶汰がそいつ選ぶというなら、俺…この仕事やめる」 「よ、鷹汰！それは！」 鷹汰の突然の宣言にその部屋にいた冬夜を含む全員が慌てだした。 冗談かと思ったが何度聞いても鷹汰は「本気だ」と言ってきて、真剣な表情から本気だと伝わってきた。 慶汰は冬夜と鷹汰、社長にマネージャーと全員の顔を1度見てからもう1度冬夜を見ると悲しげな表情を浮かべて「ごめん…」とだけ呟いた。 「分かった、俺は冬夜と離れるよ…もう2度と会わない」 そう宣言すると鷹汰はパァっと表情を明るくして慶汰に抱きついて冬夜に勝ち誇った様な笑みを見せつけた。 だが冬夜の心の中ではこれが1番だと思っていた。 慶汰の仕事を奪ってまで仲良くはしたくないと…。そう心に言い聞かせていたのであった。