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第1話

 僕の気になるお相手は佐々木レオン。見た目は超イケてて、一見完璧。  端から見るとスパダリなんだけど………残念なのである。    何がって? それはね!   *  *  * 「ああーー。怠いな、学校に行くのは」  今日は四月の第二週。僕は高校一年生だけど、手続きの関係でこの学校に入るのが少し遅れてしまった。ここは私立エクレア学園。  いわゆる金持ちの子が集う学園で、全寮制だ。荷物をそのまま送ったままになっているのでまずは寮に行って荷物の整理などをしたかったのだが、今回は都合がつかなかった。  それで仕方なく寮ではなく、そのまま学園に向かった。応接室でこの学園の制服に着替えたのだ。    そして、担任に連れられ教室へと向かった。  僕の身長は173センチ、やややせ形で、みんなからはスタイルがよいねと言われることも結構あって、雑誌のモデルなんかもしたこともある。  琥珀色の瞳は自分でも気に入っている。この顔とモデル体型でいつもモテモテなのだ。だから、この青いブレザーと青いチェックのネクタイも、きっと格好良く着こなせているはず。  ちなみに僕の髪色は今薄いピンクに染まっている。ここだけの話だが、姉の影響でBL小説にはまって、『異世界で聖女さま始めました!」という作品に出てくる受けのカヌレが好きすぎで、その髪色を真似しているのだ。    この学園は髪色は自由で、普通の学校よりもルールが緩いようで助かった。生徒の自主性をある程度認めているからと、担任がさっき言っていた。 「おーい、まだ来ていなかったクラスメイトを紹介するぞ」  担任の鈴木先生が大きな声を張り上げて、がやがやとしていた教室に向け、一声かけた。すると教室の喧噪は止んで静寂になった。  僕も続いて教室に入る。クラスの人数は二十名。少人数だ。 「じゃあ、小宮くん、挨拶して」  担任が黒板に、僕の名前を書いた。 「小宮圭人(こみやけいと)です。海外に住んでいて手続きの関係でここに来るのが遅れました。この学園のこと、全然分からないので教えて下さい。よろしくお願いします」  ペコッと頭を下げ、にっこり微笑んだ。うん、これで掴みは大丈夫なはず、僕の笑顔で皆の心は捕らえられたはずだ。  今まで僕のこの顔で僕に落ちなかった人はいないもんね。僕より格好良かった人、リアルでいなかったし…………そう思っていた、この時までは。だけど。  挨拶をした後、教室の窓側の一番奥に座る男を見て、僕の心に衝撃が走る。  だってあれは、どう見ても僕が大好きな小説に出てくるクグロフ様に瓜二つ。いや、そのものだったから。  僕よりも背が高そうな体躯で、肩までの少しウエーブした金の髪、大きなアイスブルーの艶めく瞳、そして顔や体つきまでも全てクグロフ様を今生に召還したかのようだ。  見惚れてしまい、やばい……かっこいい……そう思わず口にしそうになったのを必死に我慢する。あいつと話してみたいな、名前なんて言うんだろう。あとで喋ってみるか。  僕があの男の容姿に衝撃を受けたのと同じように、相手も僕のことを見て驚いたような顔をしていた。もしかして、僕に一目惚れしちゃったんだろうか? でも、まあ当然だけどね。僕アイドル並にかっこいいからね。 「小宮の席は窓際の奥の佐々木の前の席だ。おい、佐々木! いろいろ教えてやってくれ」 「はい、わかりました」  どうやら僕が気になった男は佐々木という名字らしい。先生の言った席に着き、荷物を置きつつ、話しかけることにする。  「よろしくね、佐々木くん」  ニコッと愛想良く笑いかけると、佐々木くんはぎこちない笑顔を見せた。うん、やっぱり僕の顔に見惚れてただろ? じゃなきゃこんな不自然な笑い方しないよな。 「よろしく。君と俺は同室なんだ。仲良くしよう。俺のことはレオンって呼んでくれ」 「うん、レオン。じゃあ僕の事はケイって呼んでよ」 「ああ。ケイよろしくな」  そしてその後の授業も終わり、休み時間になった。僕の元には想像通りに沢山のクラスメイトが集まってきたけど、レオンの所にも友達がたくさん集まっていた。  ようやく初登校を果たした僕ではなく、レオンの所にたくさん人が集まるなんて……僕よりも目立つなんてなんかムカつくよね。あー、なんかプライドが傷ついちゃう。  僕は自分が常に、一番チヤホヤされてなきゃ嫌なんだけど! 今まで顔じゃ誰にも負けたことなかったし、モテてきたのに。レオンの秘密を暴いてみんなの前で暴いてやろうか。そんな下種な考えが頭に浮かんでしまう。  いったんそう思ってしまうと、もうレオンのあら探しをその瞬間から初めてしまうのだった。  そして今日は昼で授業が終わる日だった為、早くも放課後になる。レオンは鞄に荷物をまとめると僕が準備を終えるのを待った。 「用意は出来たか? 俺は寮にもう変えるけど、一緒に行くかい?」 「寮の場所知らないから一緒に行ってくれると助かるよ」  こうして二人で寮に向かった。寮は世間一般から見ると、とても豪華な作りのはずだ。寮は基本一人か、二人部屋で、親が寄付金を多く払っている生徒は特別室に入室出来るのだ。僕もレオンもその恩恵に預かり、特別室に入ることが出来た。  この寮の外側は白い宮殿のような見た目で、内部もそれに準じたロマンrティックな作りだ。  寮の玄関もホテルのロビーのようで豪華だった。そして部屋の中はというと、やはり内装も同じようにロマンティックなもので、備え付けの家具はどれも値段が張りそうなものばかり。  そして、共用のリビング兼勉強部屋の左右に、同じ広さの寝室があった。  そして寝室内にも小さなテーブルが備え付けられていたから、そこでも勉強を出来そうだなと思う。それぞれの個室のベッドは一人で使うには大きすぎるダブルベッドだ。別にセミダブルぐらいで充分なのに。過去に狭いとクレームでも入ってこうなったんだろうか?  「一応こんな感じになってるみたいだ。扉を開けて左側の部屋と、リビングの左の机は僕が使わせてもらっているよ。ケイは右を使うといい」 「うん。いろいろ教えてくれてありがとう。ここの机にある本見せてもらってもいいかな? ちょっと気になってしまって」  レオンが使っている机の上部に備え付けてある本棚には沢山の本が並んでいた。こんなに本を並べて、凄く勉強しているんだな。  ん…………。あれは? 教科書や参考書、ハードカバーの小説とは別に、隠すようにして本の後ろにももう一段、カバーがしっかりとかけられた本がずらりと並んでいるのを見た。  多分、本の大きさから推測するに単行本小説ぐらいだよな。どんな本を読んでいるのかな? 「俺、珈琲を淹れてくる。ケイも飲む? ミルクと砂糖入れる派?」 「ありがとう、ミルクと砂糖も入れてくれると嬉しい」  レオンが珈琲を淹れてくれている間、僕は本棚を見ることにした。さっき気になったあの小説の文庫本らしきもの、ライトノベルかな、それとも一般小説かな。ちょっとワクワクしながら本のタイトルを確認し、手が止まった。 「こ、これは。何でこの本を?」  レオンがカバーで隠していたのは、僕が大好きなBL小説『異世界で聖女さま始めました!』だったのだ。  おいおい、嘘だよね。この本を寮にまで持って来てるのは相当ファンだって事でしょ! これは問い詰めるしかないよ。  そうこうしている間に珈琲のいい香りが部屋中を包み、レオンが珈琲を持ってこちらに来た。 「そうぞ、ミルクと砂糖はこれを使って」 「うん、ありがとう」  珈琲にミルクと砂糖を入れてゆっくりと珈琲タイムを楽しんだが、僕の心はさっきの本のことばかりで、なんて切りだそうか……そう考え、ゆっくりと口を開いた。 「あのさ、なんでレオンはBL本持っているの?」  僕からの質問に顔面蒼白になるレオン。 「そ、それは僕のじゃないんだ。誰かの本が混じってただけじゃないかな?」  白々しい言い訳をするがそれは流石に無理でしょ。だってまだ誰もこの部屋に入れたことがないって言っていたしさ。 「それは違うよね、ここは個室だし、誰かの本が混じるなんてありえないし、この書店のカバーの住所この近くじゃない遠方だ」 「うっ……」  レオンは言葉につまり項垂れた。そして頭を下げて手を合わせる。 「頼む。このことは誰にも言わないでほしい。こんなことが知れたら皆になんて言われるか」 「いいよ、黙っていても。でも、それなら交換条件としてレオンには僕の下僕になってもらう。この学校に僕がいる間はさ、僕の言うことなんでも聞いてもらう。それでいいよね?」 「下僕って」 「みんなに知られてもいいの?」  またサーッと血の気を引かして、レオンが怯えた。 「分かった。言う通りにする。だから秘密にしておいてくれ」 「交渉成立だね。じゃあ、今日から改めてヨ・ロ・シ・ク。あははは!」  僕は残りの珈琲を一気飲みして高笑いした。 こんなかっこいいイケメンが実はBL小説を読むのが趣味だなんてね。僕も人本当は同じなんだけど、これは絶対にバレないようにしなきゃなぁ。 「とりあえず今までのノート見せて」 「わかった」  ガサゴソと音を立てて急いでノートを探すレオン。その姿を横目に見て思う。  やっぱり格好いいよね、あのクグロフ様に瓜二つ。まつげも僕よりも長い! 見た目だけは僕のタイプ。それにクグロフ様は僕激押しキャラ。見た目がそっくりな所もなんかムカついた。  誰が好きになってやるもんか。だったら相手をその気にさせるまでだ。レオンから僕に告白させてみせる! 僕は心にそう決めた。

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