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第5話 試合の熱気のせいだろ

「シモンさ。日曜なんか用事ある?」 「ないけど。どうした?」 「うちの学校で練習試合あるんだけどさ。暇だったら応援に来てくんねぇかな?」  初めて試合に誘われた。正直嬉しかった。試合があると知っていても、勝手に観に行くのを俺はためらっていた。 「いいよ、暇だし」 「マジで? やった! じゃあ待ってるな!」  喜ぶ雅を見て、いままでの試合も観に行けばよかったと後悔した。  日曜日。ただの練習試合でこんなに観客が来るのかと俺は目を疑った。  なんとか隙間を縫って見える位置に出ると、この大勢の中でもすぐに雅は俺を見つけて破顔した。 「シモン!」  俺に向かって両手を振る雅に、女子の悲鳴に近い黄色い声が響き渡る。あらためて雅の人気を実感した。 「史門じゃん。めずらしいな」 「(つかさ)」  司は中学からの友達で、雅と知り合う前は俺にとって最も親しい存在だった。 「司も応援か?」 「サッカー部全員でな」 「へぇ、なんかいいなそれ」 「てかお前さ。知らぬ間に小嶋の親友ポジションじゃん? すげぇな」 「……すげぇよな?」 「って、他人事かよっ」  あきれたように笑う司に俺も笑って返した。  俺だって未だに信じられないんだから仕方ないだろ。  試合が始まると、雅の顔つきが変わった。  いつもの人懐っこい優しい空気が消え去り、まるで獲物をとらえる(ひょう)のような鋭い目付きと身のこなし。  他の選手の背が高いせいで小柄に見えるが、ジャンプ力でそれをカバーしていた。雅がシュートを決めると一際大きな歓声が上がった。  雅はシュートを決めるたび、必ず俺に振り向いた。俺が親指を立てると、弾けるような笑顔を見せる。  無性に雅を撮りたくなった。空以外のものを撮りたい衝動にかられるのは初めてだった。  軽やかな身のこなしで相手のディフェンスをかわす雅に、何度もスマホのシャッターを切った。  雅から目が離せない。吸い込まれるように雅だけを見ていた。  心臓がずっとドクドクとうるさく鳴っている。  シュートを決め、誰よりも先に俺に笑顔を見せる雅に、胸が張り裂けそうになった。  今はきっと試合の熱気にやられてるんだ。そうに決まってる。  それ以外に何があるっていうんだ。  試合は雅のチームの勝利で終わった。  俺は、まるで自分が戦って勝利したかのような高揚感に包まれていた。 「じゃあな、史門」 「……っ、おお……」  司に声をかけられてハッとした。  気づけばもう選手はいない。観客もパラパラとしか残っていなかった。    

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