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第2話
本当に、これはまずい。
断罪してくるのは、今僕の腕の中で、目にいっぱいの涙をため始めた、この子だ。
すぐに号泣しだして、僕の服を掴んできたが、僕は腕の痛みが気にならないくらい、動揺で震えていた。剣の恐怖からではない。
僕とジャック様の仲は、お世辞にも良好とはいえない。
会えば喧嘩の日々だった。
それって、ジャック様が将来的に僕の妹を断罪する際、僕の事も躊躇う事なく葬り去れるという、最悪の方向性ではないか……。
……。
これからは、怒らせないようにしよう。あと、やはり王宮には来るべきではない。なるべくジャック様とは距離を取り、心象もよくし、な、なんとか……そう、なんとか、命だけでも助からなければ! 心象? しかし、そんなもの、既に地を這いつくばっているはずだ。今更一体、どうやって……? 僕はとりあえず作り笑いを浮かべた。すると、ジャック様がビクリとして、泣き止んだ。それからジャック様は暫く僕の顔をじっと見ていたのだが、ハッとしたように僕の腕の傷に気づくと、それまでが嘘のように、慌てた様子でこちらに来た侍従達に「医官を!」と指示を出した。
そのあとの事を、僕はよく覚えていない。
僕は気絶したそうだった。だから時系列も曖昧な部分のある記憶だが、とにかくこういう出来事があった。
決して腕の傷のせいではないだろうが、その後僕は熱を出し、数日の間寝込んだ。
次に目を覚ますと、僕はまだ王宮の離れにいた。
「……」
現在僕は、七歳だ。乙女ゲームは、ジャック様が十八歳で王立学院に入学した時から始まる。王立学院は四年制で、二十二歳で卒業だ。同い年の僕であるから、あと丁度十年間くらいは余裕がある。
まず僕のすべき事として、ジャック様と喧嘩をしない――のは無理なので、極力会わない。次に国外に追放された時に備えて外国語の習得をするしかないだろう。まだ六歳の妹がどのように成長するかは分からないが、僕は加担しないようにする。これも大切だろう。
「よし……生き抜くぞ」
目覚めた日、こうして僕は一人決意をした。
「起きたのか、フェルナ。無事でよかった……」
その日は珍しく父が帰ってきた。まじまじと僕を見ると、かなり本格的に心配した顔をした。父は今のところ名宰相と呼ばれているし、注意するべきは妹だろう。なお、母は弟が生まれた時に没している。
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