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第14話 ゆらゆら揺れる

 やべぇ……ヤっちまった……  俺は脳内で頭を抱えた。  俺、男ととうとう……  あー、どうしよう、俺、ノーマルだと思ってたのに。  しかも、その相手に俺、しがみついている。  さっきまではそんな恥ずかしさなんてなかったのに、射精したあとだからか妙に冷静になってきた。  恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい……!  あー、俺これからどうしよう。  て、どうしようって何。  俺は大きく息を吐きそして、シュウさんの肩を掴んで引き剥がし、下を俯き言った。 「も、もう大丈夫です。すみません」  恥ずかしすぎてまともに顔がみられねぇ…… 「じゃあ、水、持ってくるね」  と言い、シュウさんは俺の頭に手をぽん、と置いたあとベッドから立ち上がった。  物音で服を着ているのがわかる。  そしてしばらくしてシュウさんが戻ってきて、俺に水のペットボトルを差し出してきた。 「あ……ありがとう、ございます」  顔を見ず礼を言い、俺はペットボトルを受け取り、フタを開けて口をつけた。  シュウさんを求める気持ちと、もう戻れないという恐怖が俺の中で拮抗し合う。  でもセックスしたし……今さら悩むのもおかしいよな…… 「漣君、大丈夫?」 「う、え、え?」  背中に手を置かれ、顔を覗き込まれて俺は変な声を上げてしまう。  すぐ目の前に、眼鏡をしてないシュウさんの綺麗な顔がある。  や、やめてくれ。  眼鏡してないのは反則なんだよ!  俺は視線を反らして、しどろもどろに言った。 「だ、だ、だ、大丈夫ですたぶん」  あー、鼓動がやばい。俺の心臓どうかなりそう。  もしかしてこれがときめく、とかってやつ?  ガラじゃねぇよ、そんなの……! 「大丈夫そうには見えないけど」  そんな笑いながら言う声が響く。  確かに大丈夫じゃねぇよ。でも大丈夫って言わねぇとなんか嫌なんだよ。  何なんだろうな、この、グラグラする気持ち。 「漣君、物欲しそうな顔したかと思うとすごく悩んでる顔したりするよね」  う……それは図星だろう。  ていうか物欲しそうな顔とか言われると恥ずかしい。  何も言えずにいると、後ろからぎゅうっと抱きしめられた。  やべえ……シュウさんは服着てるけど、俺はまだ全裸だ。  裸で人に抱きしめられるとかどんだけだよ?  俺の日常変わりすぎだ。   「何を悩んでるの」 「え、あ、え……あの……」  震える声で言い、俺は黙ってしまう。 「まあ戸惑うよね。ずっとノーマルだと思って生きてきたんでしょ? それがSubとして目覚めちゃって、自覚もないうちに僕に見つかっちゃったわけだから」 「で、で、で、でも……じゃないと俺、あの訳のわかんねぇ渇きに苦しみ続けることになってたし……あの……」  でもその渇きの埋め方が、オナニーやらセックスやらっていうのが受け入れきれない。  だから俺は 「だから病院に行くのを勧めてるんだけど、行ってないんでしょ?」  その問いに、俺は小さく頷く。  だって、Subだという結論がでたら俺は……それを受け入れきれる自信がないから。  今まで、誰かに構ってほしいだとか寂しいだとかそんなこと思ったことなかったのに。  シュウさんに出会ってから、会えない時間にその想いがどんどん大きくなっていく。 「もっと何をして欲しいとか、こうしたいとか口にして大丈夫だって思えるといいんだけど。僕は君を拒絶しないから」 「そ、そんなんじゃないんです、ただ俺が……」  Subだということを認められないから。  という言葉を飲み込む。  ……Domであるシュウさんと関係持ってんのに受け入れられないのも失礼な話だよな……  でも俺は、ノーマルな自分とSubな自分の間で揺れ動いてる。 「今日、泊まっていく? それとも帰る?」  思ってもみなかった言葉に、俺は思わず振り返った。  すると、シュウさんはクスクスと笑い、 「今、すごく嬉しそうな顔してる」  なんて言った。  その言葉に、顔だけじゃなく身体の体温まで上がっていく気がする。 「え、あ……う、嬉しい……? いや、嬉しいけど……でも俺、着替えとかないし、明日、大学あるし……」  そうだ。  泊まるには色々と足りないものがある。  まあ、朝イチ帰ればいいんだけどさ。でも俺、ここに泊まったら……理性も何もかもふっ飛ばされるんじゃねぇかな。   怖いような……もっと一緒にいたいような。  なんなんだこの感情……わっけわかんねぇ…… 「着替えかぁ……君のほうが大きいから、僕のじゃ合わないからねぇ。今度来るときは着替え、用意して来てね」 「え、あ、で、でも、明日の朝イチ帰ればいいし着替えは別に服きねぇなら関係ねぇし……」  そこまで一気に言ってから、俺は顔が熱くなるのを感じた。  俺今なんて言った?  服きねぇ、て何? 「それもそうだけど……漣君、面白いこというね。自分から服着ないとか言い出すなんて思わなかった」  笑いながら言われ、俺はもうどうしたらいいか分からなくなって下を俯いた。  わかんねぇ……俺、どうかしてる。  Sub……だから? だからこんなこと思うのかよ? 「とりあえず、夕飯食べようか。裸のまま過ごさせるのはさすがに早いと思うから、服は着てね」  ごちゃごちゃ悩む俺にそうシュウさんは声をかけ、すっと離れていった。  

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