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第16話 夏休みの予定

 昼休み。  梅雨に入り、外は雨が降っている。台風が近づいているとかで風が強いけれど、まあたぶん直撃はねえだろうな。  今日も俺はヒロと向かい合って昼飯を食う。  俺は昨日スーパーで買ったパン三つに、ほうじ茶。  ヒロは食堂のオムライスを食っている。   「なー、漣」  オムライスから目を離さず、ヒロが言う。   「なんだよ」   「夏休みどこ行くー?」   「なんでどっか行くの確定?」  そう言ってから、去年は長期休みに何回か一緒に出掛けたっけと思い出す。  近くの山行ったり、プール行ったり、千葉のテーマパークにも泊まりで行ったな。  ヒロはうーん、と唸ったあとぱっと明るい表情になり言った。 「富士の遊園地いかね? 俺、絶叫マシーン乗りたい」 「そういうのは女子といけよ」 「えー? できればそうするけどさぁ……」  と言って、ヒロは言いよどむ。  これは断られたのか? 彼女といい感じって言ったいたけど、そこまでじゃねえのかな。  まあ、どうでもいいけど。   「っていうか俺、あんま絶叫マシーン好きじゃねえんだよ」  言った後、俺はピザパンの袋を開けた。 「あー、そういやあそんなこと言ってたっけ。でも千葉のテーマパーク行った時はわりと大丈夫だったじゃん」 「あそのこはガチじゃねえし。でも富士の遊園地はガチじゃねえか。俺、絶対むり」  あそこにある絶叫マシーン、想像しただけで鳥肌立ってくる。  遊園地っていったらやっぱ絶叫マシーンだよなあ……  観覧車とかは好きなんだけど、絶叫マシーンはまじ苦手なんだよ。 「お前、見た目そういうの平気そうなのにな」  なんて言ってくる。  見た目で判断するんじゃねえよ。まったく。 「んなこと言われても、まじ好きじゃねえの、絶叫系は。行くなら近場がいい」  富士の遊園地なんて行ったら日帰りじゃなくなりそうだもんな。あんまり金、使いたくない。  なんかしたいことがあるわけじゃねえけど。   「近場ねぇ……じゃあさ、車の博物館いかね? んでアスレチックして、飯食って帰ってくんのどう?」 「あー、車ねえ」  某車メーカーが作った車やバイクの博物館があるんだっけ。  そこまで近くはねぇけど、日帰りで行ける距離だよな。 「それなら考える」    そう答えて、俺はピザパンの最期のひと口を口に放り込んだ。  最近身体動かしてねーから、アスレチックとかいいかも。 「じゃあさー、予定合わそうぜ。あ、でもお前今年も夏休みダブルワークすんの?」  俺は夏休みや春休みの長期休みにもうひとつ短期のバイトをやる。  今の量販店のバイトは時間の融通がききやすいけどあんまり働けないから、長期休みに他で働いて金を貯める事にしていた。 「そのつもりだけど」  そろそろ探さねーとな、夏休みバイト。  博物館とか、プールとかの公共施設は割りと募集かけてたりする。  去年の夏はプールの監視員のバイトやったけど、今年はどうするかなぁ…… 「行くなら平日がいいよなー。で、お盆は省いて……」  と、ヒロはスマホを見つめて予定を考えている。  夏休みかあ……  去年はもっと何したいとか楽しみたいとかあった気がするけど、今年はそこまでの気持ちになれない。  俺の頭の中を支配するのはもっとシュウさんと一緒にいたい、ていう欲望。  夏休みになったらもっと会える……?  って、何考えてんだ、俺。  そんなことしたら俺は……もっと染められていくじゃねぇか。  そうなりたいのか? 俺。  んなことしたらバイトする時間なくなるじゃねえかよ。  シュウさんと同じ学部じゃなくてホントよかった。  同じ学部だったら学内で顔を合わせかねねーし、そうしたら俺は冷静でいられる自信がない。  でも俺は……あの人ともっと一緒にいたいと望んでいて、その感情をどう処理したらいいかわからないでいる。  パンを全部喰い終わり、俺はスマホを取り出してメッセージアプリを開く。  そして、シュウさんの名前をタップしてメッセージを入力した。 『夏休みって、何か予定ありますか?』  自分からメッセージを送るのは初めてだ。  妙に緊張しながら俺は、送信ボタンを押した。  すぐに既読がつき、しばらくして返信が来る。 『バイト位かな。大学院行くつもりだから、就活はないし』  あぁ、そうか。三年生だともう就活始まんのか。  インターンとかあるから夏休み忙しいんだろうな。 『夏休みの事はこれから話そうって思っていたけど、君から言い出してくれて嬉しいよ』  なんていうメッセージが来て、顔の体温が一気に上がっていく気がした。  自分から言い出したもののなんて返す?  やべえあんまり考えてなかった。   『友達と遊びに行く話しててそれで、俺、夏休みは他のバイトいれたりするんですけど、どっか行くなら早めに予定決めたいなと思って』  って、俺何言ってんだ?  ……違う、出かけたいんじゃねえ。  もっと一緒にいる時間が欲しいんだ。  あー、なんか恥ずかしい。  すぐに既読が付き、俺はじっと、スマホの画面を見つめた。 「なあ、漣。行くなら九月がいいかなあ。水曜日あたりとかどう?」 「え、あ、え?」  ヒロに突然声をかけられて俺は驚き、スマホから顔をあげる。  彼は俺の方にカレンダーが表示されたスマホの画面を見せながら言った。 「ほら、九月の一週目。ぜってー休めよ」 「わかったよ」  そんな先の予定、書いとかねえとぜってー忘れる。そう思い、俺はスマホのカレンダーを開いて、九月六日水曜日に「ヒロと約束」と予定を入力した。  するとシュウさんからメッセージが返ってくる。 『学生の夏休みは貴重だもんね。水曜日、会った時に話そうか。僕としても君としたいことがいろいろあるしね』  したいことがある。  その言葉に胸が躍る。  俺は、わかりました、と返信してスマホを閉じた。

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