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第18話 大学のカフェで
試験の日程と、遊ぶ予定を考えつつ、もうひとつのバイトの予定を入れつつ……忙しいな、俺。
日によってはバイトふたつ行くことになるんだよなあ。
それはそれできっついけど、休みの間に金貯めねえとだしなあ。
普段からダブルワークしてるバイト知ってるけどまじすげえよな。俺には無理だ。まあそう思ったから長期休みにしかダブルワークしねえけど。
プールバイトの面接は、日にちが決まっているらしく二十五日の日曜日に一気に行うらしい。
それで一週間くらいで決定の連絡が来るそうだ。
スマホのカレンダーを見ると、徐々に予定が埋まっていく。
去年はどうだったっけ。ヒロと出掛けたくらいでバイト漬けだったよな。
今のバイト先の人たちと出かける話もなかったし。
六月二十一日水曜日。
今日は、シュウさんに会う日だ。
しかも大学の構内で会うのは初めてだ。
その日の講義が終わり、俺はヒロと別れて約束のカフェに向かう。
理工学部のある棟とはかなり離れてるから、早足で歩いても十分近くかかるんだよな……
だから俺、そのカフェには入学式以来近づいたことがない。
だって遠いから。
そのカフェ自体は駅前とかでっかいショッピングモールに行けばあるから、尚更近寄らねえんだよな。
ていうかまじで遠い。
庭にでるとむわっとした空気が肌に纏わりついてくる。
すっかり夏だなぁ……まだ六月だけど。
梅雨入りしたらしく、明日から天気が崩れるらしい。
暑いのも嫌だけど、雨も嫌だよなあ……
そう思いながら俺は足早にカフェに向かった。
近所の人も利用できるだけあり、カフェには多くの人影があった。
外のテラス席には学生の他、老齢の女性が腰かけて本を読んでいる。
「漣君」
優しく響く声に呼ばれ、俺は声がした方を見た。
黒のシャツに白いパーカーを羽織ったシュウさんが微笑み俺に手を振ってくる。
あぁ、本当に同じ大学なんだな。
俺は早足で彼に向かって行き、
「お待たせしました」
と声をかけた。
「ごめんね、理工学部からここ、遠かったでしょ?」
「え、あ、まあ……」
言いながら俺は苦笑する。
確かに遠かった。
同じ大学の構内だってのに十分かかるってどういうことだよ。
「とりあえず、何か飲んでいこうか? せっかくだし」
「はい」
間髪入れず俺が返事をすると、シュウさんは口元に手を当てて笑った。
「な、なんか変ですか?」
「ううん、何でもないよ。大学で会うのは新鮮だなって思っただけ」
そんな話をしながら俺たちは店の中に入った。
店内はまばらに人の姿があり、カウンターの前には数組の客が並んでいる。
店内で飲む客よりも持ち帰りの客の方が多いようで、注文の商品を受け取った客はすぐに外に出て行く。
すぐに俺たちの番になりシュウさんはアイスカフェラテを、俺はアイス抹茶ラテを注文し、商品を受け取って店内の席に腰かけた。
「夏休み、友達とどこか行くの?」
席に着くなりシュウさんがそう切りだしてきた。
「あ、はい。九月の頭に遊びに行こうって。あと、プールでバイトする予定だし、職場の人と遊ぶ約束とかしてて」
指下りながら俺は、今わかっている夏の予定について伝えた。
シュウさんは表情を変えず、
「ずいぶんと忙しそうだね」
と言う。
まあ確かに忙しいと思う。
「ダブルワークは長期休みにはいつもやってるんですよね」
「そっか。友達にも休みの間だけバイト増やす子いるなあ。稼げるもんね」
そうなんだ。短期バイトは時給が高めだから稼げるんだよな。
授業料や生活費の足しにできるし、遊ぶ金にもなる。
「で、あの……だから夏休みって何かするのかなって思って」
「それについてはこれから話し合おうって思ってたんだよね。バイトの休み考えたら、もう決めておかないとなんだね。そこまで考えてなかったよ」
まあ、シフトの期間て、職場によって違うもんな。
俺はプールバイトの都合もあるから早めに予定決めねえと、休み取れなくなってしまう。
「僕もバイトがあるけど……ねえ漣君。僕はもっと君と一緒にいる時間を増やしたいんだけど、どうかな」
そう告げたシュウさんの目が、妖しく光った気がした。
その目に俺は思わずどきり、としてしまう。
やべえ、ここ外だぞ。なにときめいてるんだよ俺は。
まともにシュウさんの顔、見てらんねえ、って思うのに、俺は彼から目を離せないでいた。
飲んでる抹茶オレ、甘いんだろうけど味がよく分かんねえよ。
「来月になったら試験があるし、レポートもあるでしょ。僕も忙しくなるから日曜日に会うのが難しくなると思うんだよね。だから漣君」
蠱惑的な声が、魅惑的な言葉が俺を誘う。
「夏休み、うちにこない?」
その申し出に俺は、思わず飲んでいた抹茶オレを吹き出しかけた。
「え、あ、え?」
抹茶オレを飲み込んだ後、俺は目を見開いてシュウさんを見つめる。
やっぱり彼は真顔のままだ。
真面目な顔なのがなんか怖いんだけど?
怒ってる? いいや、そんな感じはしねえし……なんなんだろ、この違和感。
「うちって……どういう」
意味を理解しきれず、戸惑った声で俺が言うと、シュウさんはずい、と俺に顔を近づけてきて、声を潜めて行った。
「夏休みの間、うちに住むんだよ」
その言葉に、俺の心臓は跳ね上がる。
シュウさんの家に住む。
夏休みの間だけ。
ってことは毎日あんなこととかするのか……?
オナニーした事とか、縛られたことだとかが一気に脳内を駆け巡り身体中の体温を一気にあげていく。
そんなことしたら俺……どうなるんだ?
行きたい気持ちと、行ったらもう戻れなくなると言う恐怖が俺の中で拮抗する。
なんて答えたらいいかわからず押し黙っていると、シュウさんはにこっと笑い、
「そうしたらもっと、君にいろんなことを教えてあげられるから」
と告げ、離れて行ってしまう。
いろんなことって……
何度も見たDomとSubの動画の内容を思い出し、俺は下を俯き抹茶オレの入ったカップを握りしめた。
「だから漣君、夏休みの予定はそこまで気にしなくていいよ。まあ、ホテルには連れて行きたいかも」
「な、な、な、何言ってるんですか」
店内にはそれなりに人がいるってのに。
やべえ、顔があっつい。
「あはは、本気なんだけどなあ」
とか言って、シュウさんは笑っている。
ホテルって……そういうホテル? なあ、どういうホテルだよ? 聞きたいけどこんなところで突っ込めねえよ……!
俺は下を俯き、ストローに口をつけて一気に抹茶オレを吸い上げた。
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