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第6話 居酒屋
盆の用事が全部終わって、今日の夕方、母とおじさんたちを見送った。
母はいつまでたっても娘気分の抜けない母のままで、ばあちゃんの面倒を見るよりも、おじさんたちの妹でいることを選んだらしい。
きっとあの人の中では、春海がおばあちゃんのこと見てるからいいやって、なってそれでいいことにしたんだと思う。
明日、ばあちゃんを施設に送って、オレが帰るのは明後日。
しょう兄ちゃんは約束通りに、せい兄ちゃんとの席を作ってくれた。
もう気を遣うのは嫌だ! 俺は気楽に呑みたい! って、言い張っていて、居酒屋になったけど、しょう兄ちゃんは今朝までさんざん呑まされてたのを、オレは知っている。
どんな肝臓しているんだろう。
待ち合わせした国道沿いの居酒屋で、せい兄ちゃんはふふふと笑いながら、焼き鳥を口に運ぶ。
「翔太のところは、相変わらずにぎやかなんだねえ」
「どこも似たようなもんじゃねえの?」
にぎやかな店内。
車で来たのに呑んでいいの? って隣に座るしょう兄ちゃんに聞いたら、このあたりは当たり前のように運転代行っていうのがあるんだそうだ。
初めて知った。
片手でオレの頭をわしわしと撫でて、片手でジョッキを持って、しょう兄ちゃんはご機嫌。
距離、近いっての。
オレじゃなかったら、セクハラだよ?
「そうかな……翔太のとこは、特によく集まるし、人数も多いんじゃない? おれはいとこの子どもなんて、見たこともないよ?」
「ばあちゃんがそうしたがるからな。まあ、あと何年かだろ」
あと何年か。
思わずしょう兄ちゃんの顔を見たら、また、わしわしって頭を撫でられた。
「ま、しょうがないことだ、気にすんな」
「だね。そういうもんだよね。ほら、春海、呑みな」
せい兄ちゃんは相変わらず真面目そうでにこにこしていて、外見はしょう兄ちゃんと仲がいいのが不思議な感じなのが、そのままだった。
なのに、すごくなじんだ感じで二人が一緒の席で酒を呑む。
「そういう集まりは、色々、大変だったろ」
ホントにお疲れさん。
せい兄ちゃんがしょう兄ちゃんにそう言った。
「誠也んとこは? 盆には集まらなかったのか?」
「今年は家族だけだね。それにウチは兄が結婚してるから……集まっても大したことないよ。まあ、『三十路になっても脛かじりいつまで家にいる?』って言われることもあるけど、金銭的には頼ってないし、兄貴が戻ったら出るつもりだし」
「え、兄貴、戻ってくんの?」
「なんか、そういう話。嫁さんが自然豊かなところで子育てしたいらしくてねえ」
「自然豊か……田舎も言いようだな……で、そうなったら、お前はどうすんの」
「ん~? おれ? 仕事自体はどこでもできるから……適当に。東京行ってみてもいいし」
酒が進むにつれて、兄ちゃんたちの声がぼそぼそになる。
聞いていていいのかなってちょっと気になったけど、しょう兄ちゃんがどんどんオレの前に皿を並べるから、せっせと食べる。
ついでに呑みすぎだろって思って、しょう兄ちゃんのグラスを奪っておいた。
せっかく奪ったのに次を注文するから、また、横取りする。
しょう兄ちゃんもせい兄ちゃんも、親戚の集まりではジジババたちに結婚結婚って言われているらしい。
そうか。
せい兄ちゃんも独身なんだ。
しょう兄ちゃんは呑んで誤魔化しまくってた。
うん、ホントはちゃんと知ってる。
バカみたいに呑んでたのは、おじさんたちが構って欲しがっていたのと、しょう兄ちゃんがいろいろと誤魔化したかったから。
話を聞いていたら、せい兄ちゃんは、そういう時は呑まないでやわやわ笑って躱しているみたい。
せい兄ちゃんの笑顔は割と万能だと思う。
せい兄ちゃんの仕事は在宅でできるもので、住まいならどこでもよくて、もうすぐ家を出て東京に行くんだって。
じゃあ、あの離れはどうなるんだろ。
「せい兄ちゃんの図書館は、なくなるんだ?」
「ん? 図書館?」
「ああ、誠也のとこの離れだろ。ノタ、図書館みたいだって、気に入ってたもんな」
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