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【八】家……!

 食後、二人は手を繋いで、新しい家へと向かった。それは、店からほど近い丘の上にあった。閑静な人間の住宅街を抜けた先に位置する、海がよく見える丘の上だった。潮風と冬の息吹が混じり合っている中、満天の星空の下を歩む内に、無事に到着した。  鍵文化の無いサピアは、ルクスが扉を開けるのを不思議な気持ちで見守る。  白い壁の家は大きく、そちらにもサピアは呆然としていた。何せ、宿も営むクロツグミよりも巨大だ。中に入ると正面には、巨大な階段があった。真紅の絨毯が敷いてあり、天井には、シャンデリアがある。まるで、おとぎ話に出てくるお城のようだと感じ、サピアは一気に緊張した。 「こんなに広いなんて……お掃除はどうするの?」 「使用人を雇おうかとも思ったんだけどな、暫くはサピアと二人っきりで暮らしたいから、それは止めた。代わりに、ロビンに清掃魔術を展開してもらった」  魔術と聞いてもピンと来ないので、サピアは曖昧に頷いた。そのまま促されて、階段を登る。そしてルクスが一つの部屋の前で立ち止まったので、サピアもまた足を止めた。ルクスが扉を開ける。中を覗き込んだサピアは、このひと部屋だけでも、自分の丸太小屋より広いという事実に狼狽えた。 「ここが、今日からお前の部屋だ」 「広すぎるよ……」 「そうか? 俺達二人の寝室は、もっと広いぞ」  ルクスは楽しげに笑うと、別の部屋へとサピアを誘った。ルクスの言葉の通りで、案内された寝室は非常に広かった。その部屋の三分の二を占めるのは寝台だ。中へと入り、寝台に座ると、あんまりにもふかふかで、サピアは驚いた。人生でこのように豪奢な寝台に座ったのは初めてだったからだ。ルクスが燭台に火をつけていく。  照らし出された室内の壁には、巨大な油絵が飾ってあった。花瓶には、青い花が咲き誇っている。甘い香りがする。大きな窓には、白いカーテンがついている。そこからも海がよく見えた。本日は、満月だ。青白い月が綺麗だ。 「これからは、毎晩一緒に眠ろうな」  歩み寄ってきたルクスが、サピアを正面から抱きしめるようにして、寝台に押し倒した。ふかふかの寝台であるから、頭をぶつけた衝撃も気にならない。サピアは嬉しさと照れくささが綯交ぜになった心境で、微苦笑しながら、小さく頷いた。 「ん」  そんなサピアの唇を掠め取るように奪ったルクスは、片手でサピアの服をはだけていく。されるがままになりながら、サピアは幸せを噛みしめる。  別に豪華な家でなくても良かったのだ。それこそあの丸太小屋でも、サピアは何も構わなかった。ただ一つ、望みがあったとするならば、それは夜毎ルクスの腕の中にいたいという想いだけだ。  サピアを脱がせたルクスは、己の服も脱ぎ捨てた。  そして寝台に膝をつく。サピアの太ももと太ももの間に体を進めると、ルクスが微笑する。それからサピアの右の太ももを持ち上げた。もう一方の手では、サピアの中を暴いていく。朝の行為も手伝い、三度目でもあるからなのか、すんなりとサピアの体は無骨なルクスの指を飲み込んでいく。  十分に慣らしてから、ルクスはサピアに楔を進めた。 「ん、ぅ」  サピアが切ない声をあげる。挿入の衝撃には、まだ慣れない。  ググっと挿ってきたルクスの陰茎が、サピアの感じる場所を的確に貫く。 「あ……ぁァ……っ……は」 「俺は、お前の体の全てが知りたい。どこが好きか、どこが感じるのか、全部」 「僕も」 「ん? 沢山見つけてやるぞ?」 「そうじゃなくて――ルクスに、気持ち良くなって欲しいんだよ」 「可愛い事を言うんだな」 「だ、だから、可愛いって言わな――あああああ!」 「いいや、お前は可愛いよ」  激しくルクスが抽挿を始める。全身が蕩けてしまいそうになり、大きくサピアは喘いだ。どんどんルクスの動きは激しさを増して行き、肌と肌が奏でる音が静かな寝室に響く。太ももを持ち上げられて斜めに貫かれると、気持ちの良い場所にダイレクトに先端が当たるため、快楽からサピアは涙した。 「ぁ、ぁあ、ア……ン……っ、あ、ルクス」 「もっと俺の名前を呼んでくれ」 「ルクス、あ」 「もっと俺を求めてくれ」 「ルクス、あ、ああ! 好きだよ」 「っ、ああ。俺もだ、サピア。大好きなんだよ、お前の事が。どうしようもなく」 「好き」 「俺も好きだ」 「あ、ああ……っ、あア――!」  そのまま一際強く突き上げられて、サピアは果てた。サピアの白液が、ルクスの腹部を濡らす。ほぼ同時に放ったルクスは、一度体を引き抜くと、今度はサピアの両方の太ももを持ち上げた。そして再び陰茎を進める。サピアの白い体が朱く染まっている。潤んだサピアの瞳、睫毛の上に乗る透明な雫、それらを見ているだけで、サピアの息遣いを感じるだけで、ルクスは昂ぶる。サピアもまた、ルクスの存在感に翻弄され、すぐに体が熱を帯びた。何度も互の名前を呼び合いながら、二人は交わる。  この夜も、二人は一晩中、体を重ねていた。  そうして月が顔を隠し、朝が訪れた。ルクスの腕の中で目を覚ました時、サピアは無性に幸せだと感じていた。 「昨日のお礼に、今日は俺が朝食を作る。だから、もう少し、寝てろ」  ルクスはそう言ってサピアの頬に口付けると、寝台から降りた。素直に見送り、サピアは柔らかな寝台に沈む。見上げた天井には、幾何学模様が広がっていて、まるでそれそのものも絵画のようだった。  朝食の知らせをルクスが持ってきた時、彼は同時にサピアの着替えも持ってきた。 「本当にぴったりだ……だ、だけど……」  渡された服を纏い、サピアは困惑していた。人生で、これほど上質な服を身につけた事など、一度も無かったからだ。そんなサピアを見て、ルクスが愛おしそうに頬を緩ませる。 「よく似合ってるぞ」 「ルクスは、こういう服が好きなの?」 「お前に似合うと思って買っただけだ。特に服の好みは無い」 「そ、そっか……これ、本当に僕が着て良いの?」  「サピアに着て欲しくて用意したんだぞ?」 「有難う……」  照れくさくなって、俯きながら、サピアは頬を染めた。  その後案内された食堂は、非常に広かった。しかしテーブルは、そう大きくはない。 「近い距離で食べたくてな」 「僕も」  答えながらサピアは、テーブルを見て、目を瞠った。並んでいる料理は、ロビンのお手製の料理と同じくらい豪華に思えた。 「すごい……ルクスは、お料理も得意なんだね」 「お前に食べさせたくて、ロビンから昼に習ってたんだよ」 「僕のために……?」 「ずっと一緒に暮らしたかったんだ。その日を夢見て――俺は、夢のためには努力を怠らない。例えば魔王討伐にあたっては、かなり剣の特訓もしたしな。そして必ず成果を出す。お前の事もこうして射止めた。俺はそんな自分に満足している。そして今の目標は、死が俺達を分かつその日まで、お前を幸せにする事だ。無論、その努力も絶対に怠らない。約束するよ。ピラーにもすぐに、本格的に認めさせてやろうじゃねぇか」  その言葉が嬉しくもあったが、サピアはフォークを手に取りながら、小さく首を振る。 「僕の方こそ、ルクスを幸せにするよ! それが狼獣人としての、番への誇りだから。伯父様は、もう応援してくれていると思うけど、認めさせるとしたら、僕の頑張りで、僕がルクスを幸せにして、認めさせる! 確かに僕は貧乏で、何も用意は出来ないけど……」 「俺はお前が隣にいてくれるだけで幸せだ」 「僕も、ルクスが隣にいてくれるだけで幸せだよ」  こうして、穏やかな朝食が始まった。鮮やかな緑とゆで卵の黄色に彩られたサラダも、玉蜀黍のスープも、柔らかなパンも、新鮮なバターも、何もかもが美味しく美しく――幸せな食卓だった。

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