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第1話

「子辰! ごらん、水神さまだよ」  年に一度の祭りの夜。父親の肩に乗った少年は、目を輝かせながら"水神"と呼ばれる人物を見つめていた。  水神とは、数百年前からこの村の治水を行なっている土地神のことである。人々からは畏敬と親しみを込めて、"ご先祖さま"とも呼ばれている。老いることのない美しい容貌に、御仏のような風格。封建時代からの伝統的な装いなども相まって、見る者に時空を超越した印象を与えている。  普段は祠に篭りきりの水神だが、灯籠祭りの夜にだけこうして人々の前に姿を現す。 「父さん、水神さまの隣にいるのは?」  水神の傍らにいる少女を指差し、少年が呟いた。 「ああ、あれは水神さまにお仕えしている侍女だよ。村の中で選ばれた者が、ああやってお世話係をすることになっているんだ」 「えーっ!! ぼくも、水神さまにお仕えしたい!!」 「ははは、じゃあまず母さんの言うことを聞かないと。勉強も家のお手伝いも、たくさんするんだ。村で一番お利口になったら、水神さまもお前をお迎えくださるかもな」  父親の言葉を聞いた少年は、益々瞳を輝かせる。その瞳には、灯籠に囲まれた幻想的な水神の姿がくっきりと映っていた。 「なる……。絶対絶対、水神さまにお仕えする………!!」  それから、数年後。  子辰という名の少年は、手足のすらりと伸びた立派な若者に成長していた。見た目にややあどけなさは残るものの、勤勉さや聞き分けの良さは村の者たちから大いに評価され、一人前の働き手として扱われている。  そんな子辰の長年の夢を知っていた村長はこの日、彼を連れて水神の祠へと向かった。現在水神に仕えている者と、子辰を交代をさせるためである。 (ついに、ついにあのお方にお仕えできる……!)  子辰は、村長の半歩後ろを歩きながら期待に胸を膨らませていた。  しかしようやく出会った水神から発せられた言葉は、彼の期待を打ち砕く内容だった。 「〜〜〜お、男っ!!?? いや、男の世話係は、ちょっと…………」  透明を何層にも重ねたような白衣に、山霧と同じ色の長髪。額から生えている硝子細工のような角が、流水を思わせる美しい曲線を描いている。  そんな厳かな見た目とは不釣り合いの慌てふためく声色に、子辰は驚き口を開けた。  村長は少しも動じず、丁重に取り計らう。 「ご先祖さま。この者は貴方さまにお仕えすることを夢見て、村の誰よりも真面目に働いておりました。どうか寛大なお心でお迎えくださいますよう……」 「む……そのように言われてなおも断れば、私の心が狭いみたいではないか」  水神は、村長の隣に立つ若者をじっと見つめた。日焼けした浅黒い肌に、泥のついた服、何度も修繕を重ねた形跡が見られる草鞋……。話の通り、実直に働いてきた若者のようではある。 「男子は取らぬように決めていたのだが、そう懇願されては仕方がない。お前、名は?」 「おれ、あ、わ、わたしは……子辰と申します!!」 「子辰か。爺の頼みならば仕方がない。明日の朝、荷物をまとめてここへ来なさい。お前のやるべき仕事は前任の者が書き残してくれている。よく読むように」  書簡を受け取り一礼をしたあと、子辰は村長と共に村へ戻った。実感が湧かないまま山を降りた子辰であったが、自室でひっそりと書簡を開き、明日からすべきことに目を通しているうちに、どうにも抑えきれない喜びが込み上げてきていることに気がついて、布団を被ってから雄叫びを上げた。  翌朝、子辰が山腹の祠にたどり着いたちょうどその時。水神に向かって深々と頭を下げる若い女性の姿があった。彼女こそが先程まで世話係を務めていた者であり、仕事内容を書簡にしたためた本人である。  水神は"雪児"と呼びかけ別れを惜しみ、下山していく彼女の姿を見送ったあと、ようやく子辰のほうへ目線を向けた。  緊張よりも感動が勝った子辰は、水神へ駆け寄り、彼の両手をぎゅっと握る。 「ご先祖さま!! 今日からよろしくお願いします!!!お、おれ、おれ……感激です!!ずっとこの日を待ち望んでました!!」 「わ、な、何をっ……!!」  水神は慌てて子辰の手を振り払い、咳き込んだ。 「無礼者。許可なく触れるでない」 「あっ、ご、ごめんなさい!」 「それにその…、その呼び方は何だか落ち着かぬ。私はかつて人間たちから"湘"という名を貰ったことがある。以後、私のことはそのように呼びなさい」 「湘、さま……?」 「うむ」  子辰は、遠い親戚に同じ名前の女性がいたことを思い出し、なんだかおかしな気持ちになった。  ───神様なのに、うちの親族と同じ名前だなんて!  急に距離が近くなった気がした子辰はくすくす笑ったが、湘にはその笑顔の意味が分からなかった。  初日こそ夢が叶ったという喜びを噛み締め、機嫌良く過ごせた子辰であったが、翌日からは己の手際の悪さを申し訳なく感じるようになっていた。  それもそのはず。仕事内容が記された書簡を開いては水神との生活を妄想し、それに時間を費やしていた。あろうことか嬉しさが邪魔をして、碌に覚えることができなかったのだ。 「違う。だからそれは……禊の際の着物だ。色は同じだが、素材が異なる。寝衣はもう一段階薄いものだと伝えただろう」 「あ、ご、ごめんなさい!! すぐ取ってきます!!」  子辰は別の服を取りに行き再度手渡したが、どうやらそれも違ったようで、湘は無言で首を横に振った。 「もうよい。自分で行く」 「あ……!! ご、ご迷惑おかけしてごめんなさい。必ず覚えますから……どうか、追い出さないでください!! おれ……」  子辰は言葉が見つからなくなり、下を向いて黙った。そんな姿を見て何かを思ったのか、湘は着替えを済ませて戻ったあと、いくらか優しげな口調で語りかけた。 「子辰。こちらへ」 「湘さま……」 「ああもう。そのようにしょげた顔をされてはかなわん。だから男児は苦手なのだ。いいから来なさい。……昔、ひとりの男子を世話係として迎えたことがあってな」 「えっ、そうなのですか」 「うむ」  子辰の頭を撫でながら、湘は話を続ける。 「まあ、なんだ。その者と色々あって……」 「?」 「私は、私の勤めである祈祷を疎かにしてしまったのだ。そのような日々が続いたためか、大雨や洪水が頻繁に起こるようになって……このままではまずいと思い、その者を遠ざけることにした。そして以降も男子は取らぬと決めたのだ」 「どうしてそんな……。その者と、仲が悪かったのですか?」 「いや、悪いというか、うーん……よくはないが、悪いとも言えぬ………」 「???」  湘の歯切れの悪い態度に、子辰はますます首を捻った。徐々に聞き取りづらくなっていく小声に耳を傾けながら、湘の表情にも注視する。不思議な表情だ。照れているような、困っているような。こんなような反応をどこかで見たことがある。一体、どこで……。 「まあ、もう過ぎたことだ。私もあれ以来心を入れ替えたし、同じ過ちは繰り返すまい。この話はこの辺でよいだろう」 「え、ええっ!? そんな……」  半ば強引に追い出された子辰は、仕方なく自分用に設られた寝室へと入っていった。同じ布団で眠れるとは思わなかったが、まさか別の部屋になるとも思わなかった。子辰の村では通常、年頃の男女でもないのに寝る場所を分けるということはあまりしない。それは相手に心を許していないことの表れ───すなわち、他人行儀な行為とされているからだ。子辰はやはり自分が男子であるから、あるいは仕事に不手際があったから歓迎されていないのだと感じ、少し悲しくなった。  冷たい布団に包まり、数刻後。子辰は小さく「あっ」と呟いた。先程見覚えがあると思ったあの表情を、どこで見たのか思い出したのだ。  何年も前、結婚したばかりの叔母に「赤ちゃんのための準備はしたの?」などと言って、質問攻めにしたことがある。当時は幼すぎて、叔母夫婦がどうして困ったように笑うのか理解できなかったが、今なら分かる。公には話せないことを聞かれた時、大人はああいった顔をするのだ。 (湘さまは、どうしてあの顔をなさったのだろう。もしかして、その男子と………)  ───エッチなことをしたのかな。  そんなことを考えているうちに、子辰はいつの間にか眠りについていた。  世話係の仕事は忙しく、毎刻決まったことをする。何よりもまず仕事を覚えなければと感じていた子辰は、その男子の話は一旦忘れることにした。 ------------------------  子辰は初めて"水神"の姿を目にしたその日から、彼の姿にすっかり惚れ込み、どうにかして傍にいたいと願っていた。  しかしいざ近くにいることが叶うと、今度は直接触れたいという欲が芽生えていて、寝起きの湘の髪を梳いている時や、湘の着替えを手伝う時……このままぎゅうと抱きつけたらどんなに良いだろう、と妄想する回数も増えていった。  そんな半ば修行のような日々を二年ほど過ごした、ある日のこと。 「阿辰〜〜〜っ!!!」 「え!? うわっ………!!!」  何やら様子のおかしな湘が、子辰に抱きついた。勢い余って押し倒された子辰は、あまりにも現実離れしたこの事態に呆然とした。  夢にしては温かい。雪のように冷たそうだと思っていた湘の肌は予想に反して熱く、殆ど人間のようだ。いや、人間と変わらないところなど、どこにもないのかもしれない。身体が纏う匂いだってどこか懐かしい、大人の香りだ。喩えるなら、父親が時々飲んでいた酒のような……。 「え? お酒?? …………あっ」  子辰は、今朝がた奉納されたものの中に上等な屠蘇があったことを思い出した。 (しまった! おれが間違って……湘さまにお酒をお出ししてしまったんだ!!)  村人が奉納してくる屠蘇は、盃に注いだあと大地に撒かなければならない。しかしどういうわけか今日の子辰は、湘の昼膳に盃を添えてしまったらしい。 「すっすすすみません、湘さま!!今お水を汲んできま……」 「なんだ? 私に触れられるのが嫌なのか?」 「え!!?? い、いえ。そんなことは」  予想外の問いかけに、子辰はぴたりと動きを止める。  ───嫌ではない。むしろ、こんな機会はまたとないかもしれない。今なら存分に湘の身体に触れられるし、お咎めもない。ずっとこうしたかった。ずっとこれを我慢してきたのだ。少しくらいは……。 (い、いや。でも万が一、体調を崩されるようなことがあったら大変だ。このままは、だめだ)  首を大きく横に振る。そんな葛藤を知る由もない湘は、彼の頬をつんつんと突き続ける。 「んん? 嫌なのか嫌ではないのか、はっきりと申せ」 「い、いや……ではないです。むしろ、ずっとこうしていたいです……」 「なら……暫くこうしていよう! ふふふっ、お前の身体は小さいなぁ。ほら、包み込めてしまえるぞ」  ぎゅうと抱きしめられた子辰は、あれこれと考えるのをやめた。こうして蕩けるような幸福に抱かれていると、何もかもが重要ではない気がしてくる。  ───これだけ酔っているのだから、きっと何を言っても許されるだろう。  奇妙なほど上機嫌な湘に、子辰はそれとなく本音を打ち明けた。 「湘さま。おれ、湘さまが好きです。毎日こうしてたい……」  しかし返ってきた反応は、意外にも現実味を帯びたものだった。 「私だってそうしたいさ。あぁ、私に治水の役目さえなえれば……朝から晩までお前と戯れていられるのに。はぁ……」  "水神さま"、"ご先祖さま"と民に慕われてる彼の口から、初めて聞いた愚痴である。子辰は驚いたあと、彼の本音を理解しようと試みた。  『他の者に任せられないのですか?』『本当はやりたくないことを人間のためにしてくださっているのですか?』『湘さまも、おれのことを、好いてくださっているのですか?』……。様々な問いかけをしたが、湘の口からはっきりとした言葉が返ってくることはなかった。何度かあった譫言のような返事も、いつの間にか寝息へと変わっている。  子辰は湘に押しつぶされたまま、この夢心地を出来るだけ長く堪能しようと、深く深く息を吸い、吐いた。  そのまま夜が更け朝になり、 「わあぁぁぁ~~~~~っ!!!!」  湘の絶叫に起こされた子辰は、愛する彼が正気に戻っていることを知り、安堵する。 「な、なぜお前が私の寝床にいる!!?」  子辰は正直に自分の仕事に不備があったことを伝え、謝った。それを聞いた湘は叱るでもなく呆れるでもなく、心底安堵した表情を浮かべた。 「…………。そ、そうか。それだけか。私もお前も、一晩寝ただけか? 他には……何も起きていないのだな?」 「え? はい………」  子辰は突如、湘からいつか聞いた話を思い出し、そして確信した。この反応から察するに───かつていたという世話係の男子と、やはり「何か」があったのだろう。  切なくなった子辰は、湘の身体にそっと抱きついた。 「!? こ、こらっ! 離れなさい」 「湘さま……。湘さまは昨日、少しだけ話してくださいました。本当は私と、ずっとこのようにしていたいと」 「な、なっ!!? 私が……言ったのか!?」  実際にそれを言い出したのは子辰であったが、湘が覚えていないのをいいことに子辰はこくんと頷いた。湘の白い頬が、みるみる赤く染まる。 「わ…、私は酒に弱いようで、思ってもいないことを言ってしまうらしい。そのような話は聞かなかったことにしなさい」 「い、嫌です!!」 「何?」 「湘さまは本当は、毎日のお勤めが大変なのではないですか?心の内では……他のことをしたいと思っているのではないですか!?」 「っあ、こら、子辰っ……!!」 「誰にも言いませんから!おれにだけには本当のお気持ちを……打ち明けてください!」  真剣な眼差しを受けて観念したのか、湘は言葉を濁すことをやめた。  それから「勤めが先だ、詳しいことは夜に話す」とだけ言って子辰をなだめると、何事もなかったかのように普段通りの一日を始めた。子辰も出来るだけ普通に振る舞おうと努めたが、一体どんな話があるのだろうと気になり始めるとどうにもならず、日中、何度か注意不足を叱られる羽目になった。 ------------------------  日が昇り始め、小鳥がひっきりなしに庭へとやって来る。涼やかで可愛らしい声の鳥がいたかと思えば、耳障りな大声を出すものもいる。子辰は布団の中で湘のぬくもりを感じながら、何種類の鳥がやって来たかを数えていた。が、途中で飽きてしまい、遠慮がちに湘に尋ねた。 「湘さま、あの、いつまで、このようにしていれば………?」  昨晩からずっと子辰を抱きしめたままの湘は、随分と前から起きているにも関わらず、寝起きのような声で応える。 「私のしたいことをすればいいと……、お前が言ったのではないか」 「それは、まあ、そうですが……」  子辰は、昨夜打ち明けられた湘の本心なる言葉を反芻した。  『お前を抱いて、一日中布団の中にいたい』───。  もしやついに焦がれてやまない湘と、一線を超える時が来たのかと───はちきれんばかりの期待を抱いたが、どうやらそうではないらしい。本当に言葉のままの意味だったようで、湘は子辰を抱きしめたまま布団の中でごろごろとし続けている。  湘が満足ならそれでいいかと一度は思った子辰であったが、彼と違ってろくろく眠れないまま朝を迎えてしまった事もあってか、 「ううっ、これでは生殺しに近い……」 「ん? 何か言ったか?」 「いえ………」  複雑な表情をせざるを得なかった。  彫刻のように整った顔、朝日が透ける睫毛、布団よりも心地よい体温。緩んだ肌着から見える無防備な胸元、絡まり合っている脚、自分の背中を時折撫でる……扇状的な指先。  全てが手の届く場所にあるということは、同時にこの上なく辛いことでもあると、子辰は身をもって知ることとなった。 ------------------------  湘は子辰に本音を打ち明けたものの、決して日課を疎かにはしなかった。過去の失敗を繰り返さないためだと言う。子辰は問題があったという、かつての世話係の存在を再度思い出した。 「もしかして……昔いた男子とはずっと、このようなことをしていたのですか……?」 「ん……ああ。あの頃の私は未熟でな……どうにも自力で起きられず、その男子を抱えて寝るようにしたのだ。すぐ隣でそやつが起きれば、私も起きられるだろうと。しかしそやつも朝に弱い性分であったため、二人とも朝から晩まで布団から出られない日が続いてしまった。おまけにそやつの体温といったら、あまりに心地よく、あまりに離れ難く……」  それは駄目すぎる───と喉元まで出かかっていた言葉を、子辰はぐっと飲み込んだ。  その日から、祈祷と食事の時刻だけ布団から出るという、二人の生活が始まった。  村人から奉納されたものを仕分けたり、食事の準備や後片付け、洗濯といったことは相変わらず子辰の仕事であったが、その間の湘はといえば、ひたすら布団の中でぬくぬくとしている。  人間のために数百年間も祈り続けているのだ。少しばかり締まりのない一面があってもいい。むしろその姿を、子辰は微笑ましいとすら感じていた。  しかし……。 「子辰。早くこちらへ!」 「…………」  添い寝"だけ"を求められるのも些か辛い。ぎゅうと抱きしめられて嬉しい反面、人の気も知らないで!と、不貞腐れたくもなる。  急かす声の主の懐に入った子辰は、幾らか幼くなったような声色で訴えかける。 「湘さま。おれも、その〜〜……ご褒美が欲しいです……」 「褒美? 何が欲しいのだ? 休暇か?」 「おれ、おれが欲しいのは、………」  子辰はおもむろに湘の身体を傾け、その上に乗り掛かると───突然息を止め、そのまま湘の唇を奪った。 「んぶ!?? ん……っ、??」  会話の途中の不可解な行動に、湘は目を丸くし、固まった。行動を取った本人も暫く身を固くしていたが、やがて本能のままに、ゆっくりと貪り始めた。 (すごいっ! すご……っ❤︎❤︎ 今、おれっ、受け入れられてるっっ❤︎❤︎ 湘さまに❤︎❤︎ キスしちゃってるっ……❤︎❤︎)  好きな人に触れているという幸福に入り混じる、僅かな背徳感。ここには二人だけしか存在しないのだから、どれだけ興奮に身を任せても責められることはない。子辰は全てを曝け出すかのように、湘の肉体にのめり込んでいった。  一方の湘は、ただただ受け入れ続けていた。自分に跨っている腰がヘコヘコと動いているのに気がつくも、何やらむず痒そうだと呑気に案じるのみであった。  しかし、口付けを終わらせた子辰が勢いよく服を脱ぎ───赤くそそり立った股間のものを露出させると、流石の彼も驚いて、 「なっ、お前まさか!! わ、私と生殖行動をする気かっ……!??」  と、困惑を露わにした。  子辰は「えっ」と呟いたあと、素っ裸のまま思考を巡らせる。 (どうなんだろう?確かにセックスがしたいんだけど、男同士だし、そもそも湘さまは人間ではないし……。子供ができるなんてことは、ない気がする) 「えっと、多分、生殖行動にはならないと思います」 「??? し、しかし。お前が出しているソレは……交尾に使うものだろう?」 「それは、えーと……時と場合によってはそうなることもありますが……あっ、でもほら、排泄にも使ったりしますでしょう?ここは使い道がいくつかあるのですよ!」 「む。そうなのか……?」 「おれの村には、気持ちよく……じゃなかった、その、特定の人と仲良くなりたい時に使う習わしがあるんです!!」  あまりの力説ぶりに「そうなのか」しか言えなくなった湘は、目の前に曝け出された陰茎をまじまじと観察した。ぴんと上を向いたそこは、自分のそれとは大分様子が異なる。虫に刺されてもこうはならないだろうというくらいに腫れ上がっているし、子辰も汗ばんで息を荒げて……なんだか様子がおかしい。熱にでも侵されているのだろうか。  湘はそっと手を伸ばし、先端を掌で包み込む。 「! 熱い………」 「ッあふっ!!、❤︎❤︎ 湘さまッ、湘さまが触って………あ゛ぁ………っ❤︎❤︎❤︎」 「痛むのか?」 「もっと❤︎❤︎もっど❤︎❤︎触っでぐださいッッ❤︎❤︎ 手、いっぱい動かして………❤︎」 「う、動かす………。こうか?」  湘は指先を動かし始めたが、撫でるようなその手付きは射精を促す刺激には程遠かった。やがてもどかしさに耐えきれなくなった子辰は、のけ反って一声叫んだ後、仰向けになったままの湘の顔前に肉棒を持って行き───自ら扱き始めた。 ───しこしこしこしこしこしこしこっ❤︎❤︎❤︎ 「子辰、んっ………」 「お゛お゛お゛お゛ッッッ❤︎❤︎❤︎ これ、あ゛〜〜〜〜!!! っふ、っう、❤︎お゛❤︎ お゛❤︎ お゛❤︎」  熱く湿った塊が、湘の顔面にずっしりと乗る。湘は子辰の掌の動作を見ようとしたが、あまりに至近距離で行われているため両目で捉えるのに苦労した。  湘がそうして片目を瞑ったり開いたりを繰り返している間に、 「っあ、イク❤︎❤︎ 出るッ❤︎出るう゛ッッ❤︎❤︎❤︎〜〜〜〜ッッ、オ゛゛❤︎❤︎❤︎っっっっんぉお゛お゛お゛お゛オ゛オ゛〜〜〜〜ッッッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」  子辰は絶頂を迎えていた。  湘に向かっての、初めての射精。頭の中が白色に覆われ───徐々に、ゆっくりと波が引いていく。  子辰が真下を向くと、白濁に塗れた湘の顔があった。十回近くは放ったのかもしれない。自分で出しておきながら見惚れてしまうほどに粘っこい塊が、湘の顔のあちこちを覆っている。額の上の敷布団にまでべったりと乗っていることから、濃さと量だけではなく、飛距離も充分誇らしいものであったことが分かる。 「あ、す、すごっ❤︎❤︎ こんな濃いの初めて出たッ………!! 湘さまっ、飲んでぇっ……❤︎❤︎」 「ん………んぁッ」  子辰は甘えた声色で湘の唇をこじ開けると、口まわりにこびりついていた精液を指で掬い、中に放り込んだ。未だかつて感じたことのない支配欲が子辰の全身を駆け巡り、痺れさせる。  ───もっとしたい。もっと滅茶苦茶なことがしたい。我慢できない!  子辰がちょうどそう思った瞬間、湘が呟く。 「もう、済んだのか………?」 「ひぇ!! ま、まさか!!!!」  子辰は慌てて今からが本番なのだと説明する。  湘は自分の服が手際良く脱がされていることについて「きっとこれも何かのためだろう」と考え、追究しなかった。子辰に好きなことをさせてやりたい気持ちもあったし、何より湘自身、初めて体験することに興味があった。毎日決まったことだけを何十年、何百年と続けてきた───そんな彼が、未知の行為にそそられるのも無理はない。  一糸纏わぬ湘の姿は艶かしいというよりは神秘的に近く、子辰は少しだけ怯んだ。しかし服の合間から覗く男性のそれに触れた瞬間、情欲が勝り、僅かばかりの自制心もどこかへ吹き飛んでいく。 「!! っあ、子辰……んんっ………」  湘の一物は、子辰の手にしっとりと馴染んだ。子辰はそれを自慰よりも数段丁寧に、慎重に扱く。 「………湘さま、気持ちいいですか? このようなことは……もしや初めてですか?」 「あ、う、うっ……は、初めてに決まっているだろうっ………」 「あっ、逃げようとしちゃ駄目です! いいから任せてください。今……気持ちよくして差し上げます」 「違……っ、ん、あっ❤︎ これっ、妙な感覚がっ………」  腰を捩らせ逃れようとする湘の姿を、子辰は形容し難い妙な気持ちで見守っていた。相手をよがらせたことで、彼の中の支配欲が微かに満たされていたのだが、それを自覚できるほど子辰は成熟していない。 (湘さま、可愛い……。こんな声も出せるんだ。本番まで行ったら……どんな反応されるんだろ。もっとエッチで可愛い声を出してくれるのかな)  愛おしい、ドキドキする。もっとしたい。そんな言葉でしか表せない、初めての経験だった。  湘への愛撫を続けるうちに下半身が再びもどかしくなった子辰は、それとなく湘の後ろの穴へ手を伸ばし───その辺りがひどく濡れていることに困惑する。  手淫を中断し、湘の両腿を開くと。 「えっ??………これは、いや、そんなはずは」  子辰は自問自答を繰り広げながら、滑りを帯びた割れ目を凝視した。充血して膨らんだ肉襞に、恐る恐る人差し指を這わせたあと───思い切って内部へ挿入しようとする。が、すぐに押し戻されてしまう。こんな器官は、自分にはついていない。 「?????……えっと……あの。湘さまって、男性、ですよね……?」 「………ん? ああ………」 「ほ、本当に??」 「……?? そうだと思うが……言われてみれば、深く考えたことはなかったな」 「ええっ????」 「人間からそのように言われるから、私はそうだとばかり」  ───まさか本人も知らないだなんて!  しかし思い返せば、長身だから男性と決めつけてしまっていた節はある。顔つきはどちらともとれるし、しなやかな指先を女性のようだと幾度も思ったことがある。自分を叱る時の眼差しは父親のようでもあるし、両胸は一見平らだが……揉めないこともない。  子辰は"彼"の下腹部、男性器の下にある部分を再度観察する。実のところ、女性器の形を子辰もよく知らない。こんな感じのものだった気もするし、そうじゃなかった気もする。 「ううん……いまいち自信がない……でもすっごい濡れてるし、挿入れていいような、でも挿入りそうにないような……」 「子辰……? 何をぶつぶつ言っている?」 「ああっ、でも、もう待ちきれない! 挿れていいとこじゃなかったらすみません!!」  半ばやけを起こし、潤いきった秘部に己を充てがう。湘の胎内へ沈ませるように、子辰は体重をかけながら徐々に腰を落としていった。 ───ぬぷ、ぬぷっ……………じゅぷんっ!!!!!!!!❤︎❤︎❤︎❤︎ 「ぅぎゅっっっ❤︎❤︎❤︎ 締ま゛……っ、ア゛❤︎❤︎❤︎」 「!! っう………………っ」  生まれて初めての体験に、二人は目を見開いた。初めて入る、初めて入られる───見知らぬ衝撃。  湘の呻き声と共にきゅうっと収縮するそこは、子辰の射精欲求を見事に掻き立て、雄の本能を刺激した。女陰かどうか分からずとも、男を悦ばせることに長けた器官であることは間違いなかった。 (あ、これっ、やばい、❤︎ 絶対、戻れないやつだっ……❤︎❤︎)  凄まじい快楽に打ち震える。  ───こんな機会、またとないかもしれない。今のうちに、早く早く、自分のものにしてしまわないと。  野望に駆られた一人の男が、朦朧としながら腰を振り始める。 ───ぱちゅっ!❤︎ぱちゅっ!❤︎ ぱちゅっ!❤︎ぱちゅっ!❤︎ ぱちゅっ!❤︎ぱちゅっ!❤︎ 「ぅあ゛ぁ………〜〜っ!!!!すご、すごいいぃぃっっ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」 「あっ!あ、う゛ッ❤︎ ま、待っ……子辰っ、あ………」 「フ──ッッ❤︎❤︎ フゥゥ───ッッッ❤︎❤︎❤︎お゛っ❤︎お゛ふっ❤︎❤︎」  子辰は一瞬で、噴き上がる肉欲の虜になった。  一方で湘は、深々と刺さってくる肉棒の異物感を歯を食いしばりながら耐えていた。子辰の動きは速く荒くなっていく一方なのに、不思議と抜き差しをされるごとに己の皮膚は汗ばんで、違和感も薄れていく。 ───ぐぽっ❤︎ ぐぽっ❤︎ ぐぽっ❤︎ ぐぽっ❤︎ ぐぽっ❤︎ ぐぽっ❤︎ ぐぽっ❤︎ ぐぽっ❤︎  結合部の水音が情欲を煽り、湘の違和感を悦びに塗り替える。彼の中で長いこと眠っていた部分を呼び覚ますかのように。  そうして湘が控えめに喘ぐようになった頃、子辰はすっかり恍惚の最中にいた。  霧に包まれた山の中に、若い雄の歓声が響く。 「あ゛〜〜〜〜!!!!❤︎❤︎❤︎腰とまん、止まんないよぉ!!!❤︎❤︎❤︎ 湘さまっ❤︎❤︎ 好きッッッ❤︎❤︎❤︎ 湘さまのマンコっ❤︎❤︎❤︎ 最゛高゛すぎっ!!!❤︎❤︎゛」 「ぅ゛あ!❤︎❤︎あッ!❤︎❤︎あッ❤︎❤︎〜〜ううぅっ❤︎❤︎❤︎ 子、辰ッ、あっ!! これ、何かっ……❤︎❤︎ 何ッ………」 「あ───イグイグイグ、駄目、もう出ちゃう、出る、イ゛グッ❤︎❤︎ 出…………ッッッッッんお゛!!!!!!!!」 ───ぶっ❤︎ぶぼばっ❤︎ぶびゅううううううっ!!!❤︎びゅうっ、びゅるるっ!!びゅる!!❤︎びゅっ❤︎ブビュッ❤︎ビュ───ッッッ!!!❤︎❤︎❤︎  胎内に放たれたそれは粘り気があった一発目とは異なり、活発な子種が無数にせめぎ合うものだった。  このままでいれば、子種が膣壁を駆け上がり受精してしまうのは時間の問題だ。しかし湘も子辰もそれを知らない。二人は病みつきになりそうな余韻の中を、ただひたすらに漂っていた。 (………なんか、これっ……❤︎ やばいかも……❤︎ 好きな人に、神様に……こんなことしていいのか分からないけどっ……これ、毎日やりたい……おれの精子で、湘さまを、滅茶苦茶に………) 「…………子、子辰………」 「は、はいっ!?」 「いま、い、今の…………」 「はい………」 「う、うまく言えないが……その……何か、もう少しで何か来そうな感じが、して」 「え? イきそう?」 「う、うむ………??」  子辰はぽかんと口を開けて固まったが、湘から求められている喜びを噛み締めると、すぐさま雄棒を奮い立たせた。 ------------------------ ───パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ パンッ!❤︎ 「あ゛!!❤︎❤︎あぅっ!!❤︎〜〜〜っあ、あ❤︎あんっ❤︎はぁああっ………!!❤︎❤︎」  湘は大きな体躯を弓形に反らせながら、ガクガクと腰を浮かせ、甘い声を上げていた。目前でゆらめく絶頂に、間もなく手が届く。猛々しい刺激によって自分が排卵させられていることなど少しも理解しないまま、彼は生物としての本能を開花させ、与えられる快楽に揺さぶられていた。 「ゔッッ❤︎❤︎ 締まりやばっ……❤︎❤︎ 湘さま、おれのチンポ❤︎❤︎……気持ちいいですか!?❤︎」 「気持ち、はぁっ❤︎あああっ……❤︎気持ちいいっ❤︎❤︎ 子辰っ❤︎ も、駄目……っ」 「お゛───ッッ❤︎❤︎ お゛れもっ、イグっ❤︎イ゛ぐぅっ❤︎❤︎」 「っあ───…………っ………!!!❤︎」  二人が同時に痙攣し、思考をとろけさせたその時。  睾丸から湧き上がったばかりの生命力に満ちた精子たちが、ぶぼっと音を立て、子宮に直接放たれた。湘の生みたての卵子はとりわけ甘えたがりの数十匹によってあっという間に取り囲まれ、過剰なまでに蹂躙され─── ───ぶぢゅううううぅぅっっっ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎ 「?????❤︎❤︎❤︎❤︎」  無理矢理卵膜を突き破った一匹によって、完全に制圧された。  湘は視界の隅でぱちぱちと弾ける星を感じながら、意識を堕とし……微睡の中で正体不明の悦びに浸った。 ------------------------ 「お疲れ様です、湘さま! 昼膳を召し上がりますか?」 「ん……ああ……い、いや。それより先に、いつもの……❤︎」 「ふふふっ❤︎ そう仰ると思いました!」  午の刻の祈祷を終えた湘は、食事も取らずに寝床へと向かう。ここのところ毎日そうしている。布帯を緩める動作を見て嬉しくなった子辰は仔犬のようにじゃれつきながら、脱がすのを手伝う。しかし待ちきれなくなったのか全てを剥ぎ終える前に、滾りきった欲望を湘の胎内へと捩じ込んだ。 ───ずぷんっっっ!❤︎❤︎ 「んあっ!!❤︎、こらっ……❤︎ あっ❤︎ ちゃんと脱いでからでないと、服が汚れるだろう……っ❤︎❤︎」 「でも、どうせ洗うのおれだし……それに」  腰をぐっと引き寄せ、結合部を密着させる。深いところを突然こじ開けられた湘は、敷き布をぎゅっと握り締めながら快感に耐える。 ───ごりゅ❤︎ごりゅ❤︎ ごりゅ❤︎ごりゅ❤︎ ごりゅ❤︎ごりゅ!❤︎ごりゅ!❤︎ごりゅ!❤︎ 「あ、あ!! ああああ〜〜〜〜ッッッ❤︎❤︎❤︎」 「服が汚れないようにっ❤︎❤︎ 全部奥の方に出すようにしますからッッ❤︎❤︎❤︎」 「あ❤︎!!ま、待っ、っあ!!あああ……!!❤︎❤︎」  子辰は宣言通り、亀頭を最奥へとねじ込む。子宮を出たり入ったりと、ぐぽぐぽ擦ってくる執拗な攻めを受け続けた雌は、やがて陥落し一際高い嬌声を上げた。 「ひいっ!❤︎っあ❤︎ 、あ─────ッ!!!❤︎」  ヘコヘコと腰を動かし、しがみついてくる雄。こうなってしまっては、どうにもならないことを湘は知っている。この衝動を受け入れるしかないのだと悟れば、背徳を孕んだ陶酔感が、膣壁の感覚が……益々研ぎ澄まされていく。  湘の膣内は無意識にぎゅううっ、と搾り取る動きになり、子辰も腑抜けた悲鳴を上げる。 「〜〜〜〜ぉほ゛ぉぉおッ❤︎ 搾り取られりゅううう❤︎❤︎おっおっ❤︎❤︎精子上がってきたっ❤︎きた❤︎ オ゛❤︎❤︎今日も濃いの出る………ッッッ❤︎❤︎❤︎湘さまッ❤︎中出ししますっ❤︎❤︎」 「あぅ、あ、アッ❤︎❤︎ ッ、辰、」 「ほぉ゛っ!!❤︎❤︎❤︎ イグ!!!❤︎ 〜〜〜〜イッ❤︎❤︎❤︎」 ───ぶびゅっ❤︎ビュッ❤︎びゅるるるっっ❤︎ぶぼっ❤︎ぶびゅっ❤︎❤︎ぶびゅっ❤︎❤︎❤︎びゅうぅーっ❤︎❤︎ぶぼっ❤︎❤︎❤︎ (湘さまっ…………孕めっ❤︎孕めっ❤︎孕めっ❤︎おれの精子で孕め孕め孕めぇぇぇぇっ…………❤︎❤︎❤︎❤︎)  絶頂を迎えてから呼吸が整うまでの間、子辰は種付けの成功を祈り続けた。初めは交わうだけで良かった子辰だが、何度かするうちに「湘は自分のものである」という既成事実が欲しくなり、今ではこっそり受精を願うようになっていた。  既に二人の遺伝子は混ざり合い、着床まで済んでいる───などという事実を知りもしない彼は、今日も愚直に夥しい数の精子を送り続けた。 ───ぬぼっっ❤︎❤︎❤︎ 「…………❤︎❤︎……………」  一物を勢いよく引き抜いても湘の反応は鈍かった。若さみなぎる猛攻を受け、意識は殆ど保てていない。  そんな状態にした張本人は、先程まで挿入れていた穴をじっと観察していた。呼吸に合わせ上下している秘部を暫くの間見つめても、自分が放った孕ませ汁はなかなか出てこない。布団を汚さないと約束したのだから、それでもいいか───と思った瞬間。秘肉の合間からどろっ、と真白い塊が零れ落ちた。えも言われぬ充実感がぞくぞくと湧き立つ。子辰はこれを見るのが大好きだった。粘り気を確かめながら指先で弄ぶことに暫しの間夢中になったが、次々に溢れ出てきていることに気が付くと、慌ててその行為を中断した。 「わわ、塞がないとっ………❤︎❤︎」  胎内へ押し戻すように、雄棒で蓋をする。子辰は先程の子種汁の感触を思い出し、あれだけ濃いものを毎日出してるのにどうして湘は孕まないのだろうと不思議に思う。 (湘さまが人間だったら絶対妊娠してただろうなぁ。これだけやってるのに出来ないだなんて、やっぱり種族が違うから……なのかなぁ)  一月も経てば腹が膨らむのだと思っていた子辰は、自分と湘の間には何も生まれないのかと落胆する。実際にはその欲望は叶っているのだが、子辰が確信できるのはもうすこし先の話で、湘が知るのはさらに先の事となる。 ------------------------  十日後に灯籠祭りを控えた、ある日のこと。 「な、なぁ……子辰、この行為っ………」 「はいっ?」  昼餉と祈祷を終えた二人は、相も変わらず布団の上で交わっていた。四つん這いになっている湘の胎は弧を描くように膨らんでおり、それは日に日に大きくなっている。  子辰は一月ほど前から、その胎にそれとなく気を遣っており、湘が眠りについたあとにそっと撫でたり耳を近づけることもあった。 「今朝がた、あッ❤︎❤︎ その、庭の猫たちを見ていて……うっ❤︎ あ❤︎ お、思ったのだが……」 「はい……あっ!イク!❤︎イグイグイグッッッ──────❤︎❤︎❤︎❤︎」 「お゛…………っ❤︎❤︎」 ───ビューッ❤︎ドクッ❤︎ドクッ❤︎ドピュッ❤︎びゅっ❤︎びゅ───っ!!❤︎  繁殖力を充分に備えた、立派な液体が噴出する。湘は伴侶を受け入れる悦びを存分に噛み締めてから、続きの言葉を発した。 「これ、こ…………っ❤︎❤︎ これはっ、やはり、交尾っ………生殖行為なのではっ………?❤︎❤︎❤︎」  湘の胎内にひとしきり子種を注ぎ終えた子辰は、その問いかけにどう答えたものかと暫し悩んだ。  湘が身籠っていることは明らかだ。「生殖行為ではありません」と答えることはできない。だからといって今更子作りを拒まれても、育ちつつある生命をなかったことには出来ないし、できればこのまま産んでほしい。 「もし、そうだとしたら……湘さまは?辞めたいですか?湘さまがどうしてもやめたいのなら……」 「あっ!❤︎ あ……❤︎❤︎」  再び硬くなり始めたものを控えめに擦り付けながら問いかける。彼は湘に許されたい時、あえて幼い声を出す。  湘はその魔性にすっかり抗えなくなっていたものだから、 「や、やめなくてもいいが……っ❤︎❤︎」  こうして受け入れてばかりいた。 「も、もし、私とお前の間に、子が出来たら……」 「出来たら……??」 「村の者たちにっ……っあ❤︎ あぅッ❤︎❤︎ そこっ、っあ、そこっ……気持ちぃ……ッ❤︎❤︎」 ───パンッ!❤︎パンッ!❤︎パンッ!❤︎パンッ!❤︎パンッ!❤︎パンッ!❤︎ 「彼らに何と、説明っ……❤︎ あ❤︎❤︎ したものかと………❤︎」 「説明も何も……。水神さまに子供ができるんだから、村の皆はきっと大喜びですよ!」 「そ、そうか………??」 「おれだって、とっても嬉しいです!!」 「そうか……ま、まぁ、お前が喜ぶのなら───う゛ぅッ!?❤︎」  膨張しきった肉棒が、湘の良いところを甘く執拗に攻め始める。それに応じるように膣壁も震え出し、湘の全身からは玉のような汗が滲む。 「〜〜〜〜あ、❤︎あっ❤︎、あ❤︎あっ、あ、それ、ア❤︎いく、いくっ……子辰っ❤︎」 「フッ❤︎ふうっ❤︎湘さま、子作りしましょっ❤︎ねっ❤︎いいでしょう?❤︎」 「あっ!いっ、いい❤︎いいからっ❤︎❤︎出せ……っ❤︎❤︎あ、アッ❤︎あぁっ❤︎」  許諾の声をしっかりと聞いたあと、子辰は求められるがまま馴染みの場所に注ぎ込んだ。いつもの快楽の中に、初めての達成感が混じり込む。 「ふ〜〜〜〜っ………良かったぁ〜〜!!!」 「……………❤︎……❤︎❤︎………………」 「湘さま、じゃあ今度のお祭りで……このお腹を村の皆にお披露目しましょうよっ❤︎ このお腹を見れば、湘さまがおれの精子で孕んでくれたことは誰の目にも明らかです❤︎きっと皆、盛大に祝ってくれるはずです!ねっ❤︎」 「あ…………あぁ……………??❤︎❤︎」  湘は、子供がいつ腹に宿ったのか聞こうとして、聞きそびれることになった。  やがて生まれた子供は、湘と同じ治水の能力を持っていた。湘は自分一人でこなしていた仕事を引き継げることを大いに喜んで、その後も積極的に子辰の子を産んだ。  十二人の子供たちが立派に治水を行うようになってからは、湘は引退し、穏やかな日々を過ごすようになっていた。  己の役目から解放されたかつての水神は、伴侶と共に歳を重ね、しばしば布団の中で一日を過ごしたという。

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