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12 友達として仲良くなりたい

「え……」  ファーストフード店に入った幸人は、戸惑う輝彦に笑みを見せた。  「……ここ。俺のお気に入りの席」  窓際の人の往来が見える場所に、幸人はトレーを置きながら座る。対面に座る輝彦は、まだ戸惑った顔をしていた。 「意外。もっと静かな場所が好きなのかと思った」 「……それは輝彦の先入観だろ?」  棘がないように幸人は言ったけれど、輝彦はバツが悪そうに苦笑する。ひとを見た目で判断されたくないはずの輝彦でさえ、こういうことはあるのだ。 「……本当だ。ごめん」 「いや、気にしてないよ」  そう言いながら、幸人は頬杖をついて窓の外を見た。輝彦も同じ方向を見たのを視界の端で確認して、幸人は話す。 「こうやって、人間観察するのが趣味なんだ」  へえ、と輝彦がこちらを向く気配がした。見られている居心地の悪さを覚えながら、幸人は続ける。 「ここからひとの行き来を見て、今日もみんな幸せそうだな、って想像するのが好きで」  輝彦の笑う声がした。 「幸人らしいな。……本当に、名前の通りだ」  そういうところ、好きだな、と言われ、幸人は顔が熱くなるのを自覚した。こういう、歯が浮くようなことは平気で言う癖に、輝彦はあくまでも友達というスタンスでいることが、落ち着かない。 「照れてる?」 「そりゃあ。あんまり恥ずかしいこと言うなよ……」  熱くなった顔を誤魔化すように、注文したホットキャラメルラテを啜ると、輝彦の糸がやってきて顔中を撫でられた。愛でられている。めちゃくちゃ愛でられている。  けれどチラリと見た輝彦は、あくまでも爽やかな笑みだ。相当面の皮が厚いのかな、なんて思ってしまった。悪いけれど。 「そう言えば、幸人の誕生日、聞けずじまいだった」 「俺?」 「そ。俺は誕生日に男友達と遊ぶってプレゼントもらったからな。幸人にお返ししたい」  はあ、と幸人は気のない返事をしてしまう。誕生日に男友達と遊ぶのがプレゼントとは、変わった考え方だな、と普通のひとなら思うかもしれない。けれど、いかんせん幸人は本当の意味を知っているので、ますます顔が熱くなる。要は、輝彦は誕生日に幸人と過ごせて嬉しかった、という訳だ。 「ってか、誕生日に男と遊んで喜ぶなよ……」 「だって、今までそんな特別な日、周りが好きにさせてくれなかったし」  聞きようによってはすごい自慢だ。けれど「すごく楽しかった」と嬉しそうに輝彦は語るから、幸人は楽しかったならいいか、と黙るしかない。 「それで? 幸人の誕生日はいつ? もう過ぎちゃった?」  それほどまでに幸人の誕生日を祝いたいのか、と思うのと同時に、会う口実を作っているだけじゃないか、と幸人は疑う。実は割と近い日に、幸人の誕生日があるのだ。正直に言うか迷った。 「……言うけど、別にお返しとかはいいからな?」 「うん」  ニコニコと笑っている輝彦に、幸人は本当かな、と疑いの目を向ける。すると輝彦の糸が手首にぐるぐる巻きついて、そのうえまた顔を撫で回された。執着心と溺愛ぶりがすごい。 「……三月一日」  小さな声でボソボソと言うと、輝彦の顔がぱあっと明るくなる。同時に糸も大暴れで、幸人の小指の糸に絡もうとした。反射的に手を引くと、輝彦の糸は左手首にも巻きついてくる。 「どうした?」 「いやっ、虫がいてびっくりしただけ」  誕生日を聞いただけでこの喜びよう。けれど本人は爽やかな顔。どれだけ外面がいいんだ、とおかしくなる。そして幸人の悪い癖が、このタイミングで出てしまった。 「ふふっ、輝彦、俺の誕生日聞いただけで、そんなに喜ぶなよ」 「えっ」  耐えきれず笑ってしまうと、輝彦は驚いたような顔をし、それから気まずそうに肩をすくめる。 「……俺、顔に出てた?」 「えっ、……ああうん、出てた」  しまった、と幸人は内心慌てた。輝彦がどう思っているかなんて、糸でしか判別していないのに、ペロッと口にしてしまった自分を反省する。咄嗟に嘘をついて誤魔化したけれど、輝彦が内心を隠したがっていることは明らかだったのに。 (俺が輝彦の本心を知りたがってる? いや、本人が言いたくないならそれでいいんだ)  聞かなくても、輝彦の糸は幸人をどう思っているか教えてくれる。こちらは本人よりずっと素直でオーバーリアクションだ。だから、自分は糸が見えるならそれでいいと思っている。  幸人は輝彦を見ると、彼は気まずそうに笑っていた。それでも、笑っているならいいか、と幸人も笑う。  すると、輝彦の糸の先がまた幸人の顔のそばに来た。また頬を撫でられるのかなと思っていたら、糸の先は幸人の唇をちょん、とつつく。 「……っ」  思わず顔を逸らして糸から逃げた。外の雑踏を眺めるふりをして、キャラメルラテを啜る。 (……感触はないはずだ、落ち着け)  まさか糸がここまでするとは思わなかった。もしかして、輝彦は自分にキスをしたいとでも思っているのだろうか。いや、あくまでこれは仮説だ。でもこれが、本当に輝彦の気持ちを表しているのなら、幸人は丁重にお断りするしかない。 (い、いや……まだ告白すらされてないんだから……)  先走って、今みたいに変なことを言わないようにしないと、と幸人は思考を停止した。

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