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恋人の愛は少し……いや、かなり重いです。 切欠は些細な事から-1-A- | アオハルの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
恋人の愛は少し……いや、か...
切欠は些細な事から-1-A-
作者:
アオハル
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切欠は些細な事から-1-A-
朝野 洋佑
(
あさの ようすけ
)
が
結城 佑
(
ゆうき たすく
)
と出会ったのは、自分の職場に佑が新入社員として入ってきたからだ。 がちがちに緊張している新入社員達の中で、一人つまらなそうにしている佑が気になったのは、生来のお節介気質のせいか、単に好奇心からか。 周囲の同僚が扱いにくそう、と苦笑を浮かべる中、面白そう、と思ったのが声をかける切欠だった。 「結城だっけ?俺は朝野洋佑……ほら、お前の名前の佑と一字同じなんだ」 昼休み。自分のデスクから立ち上がったばかりの佑へと声をかけた。怪訝そうな顔をした佑は 「今は業務時間外なので。用件なら、休憩時間が終わってからにしてもらえますか」 とさっさと歩き出そうとする。慌てて後を追いかけた。 「いや、だから。良かったら飯でも一緒に──」 不意に足を止めた。ぶつかりかけて横へとよろめくが、佑は気にする様子もない。 「────僕。親しくない人と食事したくないです」 それじゃ。 形ばかりの礼をしてから、歩き出す佑をぽかんと見送る。 「うわー、きっちぃなぁ。飯ぐらい食ってもいいじゃんね」 様子を見ていた同僚が肩を竦める。はは、と困ったように笑うと、洋佑は首を左右に振った。 「いきなり声かけられてびっくりしたのかも知れないし。なんか用事とかあって急いでたのかも知れないし」 しょうがないから一人で食ってくるよ、と同僚に手を振って外へと向かう。 オフィス街ということもあり、食べる店には困らない。安い早い美味いの庶民的な店から、少しお高めのご褒美ランチまで、その日の気分で行く場所を選べるほどだ。 昨日は何を食べたっけ──と歩いていると、一軒の店の窓ガラス越しに佑を見つけた。 ────あー、ここの唐揚げ定食美味いよなぁ。 佑のテーブルの上の定食を見て一人頷く。自分も同じものを食べようかと思ったが、佑にしてみれば、断ってもなお自分を追いかけて来たのかと思うかもしれない。 さっきの態度からして、好意的に迎えてもらえるとも思えないし、今日は別の店にするか、と踵を返した。 ◇◇◇◇◇◇◇ 佑が入社してからはや数ヶ月。自分だけでなく、他のメンバーに対しても「塩対応」で評判になっていたが、仕事に関してはとても優秀だった。 実務経験はないと言っていたが、提出されるデザイン案は殆ど手直しが必要ないし、クライアントからの評判もいい。 仮に修正の依頼をしたとしても、断ったり不満気にすることもなく、問題点を正確に把握して修正をしてくる。 稀に困らせてやろうと揚げ足取りのような修正依頼を投げる者もいたが、修正されたものを見ると黙らざるをえない。 ただ、相変わらず昼のランチも夜の飲み会の誘いも断り続けているから、一部のものからは評判がよろしくない。 自分としては、そんなくだらないことで優秀な新入社員が出ていくようなことになる方が困るので、ちょこちょこフォローを入れているつもりではあるのだが、「あいつの味方をするのか」なんて言われる事もある。 「はぁ~~~…しょーもなーーーー……」 盛大な溜息。自動販売機の前にあるソファで両足を投げ出したところで声が出た。頭を背凭れに預け、両腕もひっかけた姿は、多分誰が見ても「だらしない」恰好だろう。 もう遅い時間で社内に残っている人間も少ない。見られたところで、「お疲れ様です」で誤魔化せばいい。 洋佑が不機嫌な理由は、「佑が気に入らない」というだけで、クレームの多いクライアントの担当にさせよう、なんて話しているのを聞いてしまったからだ。 元々問題の多いクライアントで、いくら大口の顧客とは言え、対応する社員の負担が大きすぎるという理由で取引を断ろう、と自分が何度も上に掛け合っていたクライアントだった。 ようやく切る方向で動き出したというのに、こんなくだらない理由でまた優秀な社員を失うことになるかもしれない。 そのことでここ数日の洋佑の仕事に対する熱意は下がる一方。最低限の作業はこなしているが、新規顧客の開拓や、常連の顧客に対しての新しい提案等はする気が起きなかった。 ────なんて、人のせいにしちゃいかんな。 気に入らない、なんて理由で真面目に作業をしないのは、自分が嫌っている連中と同じになってしまう。 明日からは頑張ろう、と気合を入れ直したところで、自販機の音。 びっくりして姿勢を戻すと、紙コップが出てくるのを待っている佑の姿があった。 「ってお前か……びっくりさせるな」 漂う香り。こいつ、コーヒー飲むんだな、なんて背中を見ていると、コーヒーの入った紙コップが差し出された。 「疲れているみたいだったので。良かったらどうぞ」 「え?…あ、あぁ……有難う」 紙コップを受け取る。漂う匂いを嗅いでいると、いら立っていた気持ちが少し穏やかになった気がする。 「悪いな。気を遣わせて」 受け取ったコーヒーを一口飲んだ。ふーっと息を吐き出すと、佑が自分の隣へと腰を下ろしてくる。 珍しいこともあるもんだ、と横目で追いかけた。 「……朝野さんが苛立っているのは僕が原因なんでしょう。なら……コーヒーくらいは」 視線を合わせてくることはないが、申し訳なさそうな表情と声音。 表情らしい表情も、感情らしい感情も出さない印象だったが、こんな顔もするのか、なんて思わずまじまじと佑の横顔を見てしまう。 「……お前のせいじゃないよ」 もしかしたら、今の愚痴を聞かれていたのかもしれない。しまったなぁ、と困ったように眉を寄せる。 「皆が話しているのを聞いたので。僕が気に入らないって」 「ただのやっかみだよ、気にしなくていい」 思わず言葉尻に被せてしまった。やや強い口調になってしまったことを詫びてから、言葉を続ける。 「本当にお前は気にしなくていい。お前のデザインは、クライアントからも評判がいいんだ。だから──」 「もういいんです。辞めるので」 今度は佑が被せて来た。しかも結構重めなことを。 「……」 引き留めようかどうしようか迷って言葉が途切れる。辞めて欲しくはない。が、このままくだらない嫌がらせをされるくらいなら、辞めてしまった方が彼のためになるのかもしれない。 逡巡しているうちに、佑がこちらへと体の正面を向けてくる。 「あの……朝野さん」 「ん?」 深々と頭を下げられて、驚きでコーヒーの入った紙コップを握りつぶしそうになった。慌てて中身をぶちまけないよう佑から遠ざける。 「初めて会った時から、ずっと気遣ってくださって有難うございました」 思い返すと間の抜けた自己紹介をしてしまったかもしれない。 少し頬が熱くなるが、佑は構わず続ける。 「僕、人と話すのが苦手で。今まで、ランチとか飲み会とか行っても盛り下げることしか出来なかったから……もう誰とも一緒に行かないって思って。ひどい断り方をしたら、もう誘われないかなって」 それであんな断り方をしたのか、と今更ながら納得をして続きを待つ。 「でも──朝野さん、お店の前まで来たのに中に入らないでいてくれたから」 「…………ばれてたのか……」 気づかれていたとは思っていなかった。逆に気まずくなってしまって視線を逸らす。 「戻ったとき言おうかなって思ったけど……酷いこと言っちゃったし」 なのに、今まで自分に対して色々と気遣ってくれていて本当に感謝している。 改まった態度でそう切り出されると妙に照れくさい。気にするなとへらりと笑った。 「一応俺はお前の先輩なんだし。あ、それに同じ漢字のよしみもあるしな。気にしなくていいよ」 すっかり冷えてしまったコーヒーを一息に煽ると、紙コップを丸めた。 「ただそうだな。断るんだったら、今言ったことを正直に言う方がいいかも知れない。俺はあんまり気にしない方だけど、気にする奴は気にするからさ」 覚えておきます、なんて神妙な顔で頷いてくる。退職する、というのは残念だが、その前に本当は悪い奴ではないのだと分かっただけでも良かったかもしれない。 「俺はお前のデザインとか好きだったから残念ではあるけど……このままくだらないことで消耗することもないしな」 丸めた紙コップをゴミ箱に向かって投げた。が、乾いた音を立てて床へと転がっていく。む、と眉を寄せ、椅子から立ち上がると、拾いあげて改めてゴミ箱へと捨てる。 「それじゃ、元気で」 あっさりしすぎかもしれないが、会話が苦手だと言っている相手に長々と世間話も辛いだろう。思い出話をするほどの仲でもない。 軽く手を振って背を向けたところを後ろから抱きしめられて動きが止まる。 「へ?!」 予想外のことに間の抜けた声を出してしまった。回された腕の力が強くなる。 「僕……会社辞めても、朝野さんとは仲良くしたいです」 耳元で囁かれて肩が跳ねる。 「電話……が駄目ならメール…教えて下さい」 「っ、……そ、れは別にいいけど…とりあえず、離れてくれるか?」 距離感の詰め方が極端過ぎて混乱してしまう。いや、人と話すのが苦手だと言っていたから、なけなしの勇気を振り絞っての行動なのかも知れないが、それにしても大胆だ。 取り合えず一度距離をとった。プライベートのメールを教えてやると、嬉しそうな笑みを浮かべて何度も礼を言ってくる。 ついさっきまで嫌われているのだとばかり思っていた相手が実は慕ってくれていた、なんてフィクションではよく見る展開。 いざ自分がその立場に立ってみると、ただ混乱するばかりで何とも言えぬ感覚。 「……それじゃ。有難うございました」 深々と頭を下げてから行ってしまった。いまだ混乱の収まらないまま、天井を見上げて深呼吸。 「…………とりあえず、帰るか」 あったかい風呂に入って寝よう。 そう思って歩き出した。
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アオハル
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