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改めましての決まり事-6-C-
達した余韻に内腿が震える。詰めていた息を吐き出すのに合わせて、内腿を佑の身体へと摺り寄せるように足を絡め直すと、腹の中に埋め込まれたままの肉が質量を増す。
「ん──……ッ……」
びくん、と身体が跳ねる。硬直した佑の身体から力が抜け、緩々と腰を揺らされると、動きに合わせて声が漏れてしまう。
「……洋佑さん……」
吐き出したものを擦り付けるように。激しさはないが、その分一つ一つの動きが感じすぎる程に伝わってきて、洋佑は胸を喘がせた。
「……ふ、ぁ……ん、……」
蕩け切った表情を晒したまま。こめかみから耳へと滑り降りた唇が、柔く肌を食む刺激にすら吐息が零れる。
「──僕、ね……この時の洋佑さんが…本当に好き──」
壊れ物でも扱うように。丁寧すぎる動きで髪を撫でながら、何度も肌へと口付けを落とし吸い上げる。ほんの少しだけ強く吸われると、びくん、と洋佑の身体が跳ねた。
「……ぁっ……」
すり、と内腿が寄せられる。一瞬籠った力が抜けて、滑り落ちた足がだらしなくシーツの上に広がるまでの間、佑はやわやわと肌を食み続ける。
「ん、ぅ……だ、め……、だってば……」
行為の後特有の倦怠感。心地良い疲労と快感の名残にどこか浮ついた口調と表情から戻って来れない。蕩けたままの洋佑を見て、佑は嬉しそうに首筋へと鼻先を埋める。
「……そんな顔されたら、またしたくなっちゃうよ」
小さく音を立てて吸い上げた肌から顔を離した。名残惜しげに体を持ち上げると、まだ荒い呼吸をしたままの洋佑を見下ろす。
「…………ずっと、僕の下で蕩けててほしい、って……思っちゃうくらい」
汗で張り付いた髪の一筋すら愛しそうに触れる指先。前髪を後ろへと撫でつけた後、投げ出されたままの太腿へと手をかける。
「……佑……?」
大きく足を広げられた。開いた足の中心。白濁に塗れた性器も、汚れた肌も。佑の視線にさらされていることに気づくと、羞恥心が戻ってくる。行為の熱とは違う色で肌が薄く染まるのを見て、佑は満足そうに息を吐き出した。
「……た、すく。ちょっ……と、ま…──」
待って、と続けられずに息を飲む。埋め込まれたままの佑の性器が熱を取り戻していることに気づくと、あ、と洋佑の身体が震えた。
ベッドが軋む。ずちゅりと音を立てて中を掻き混ぜられると、下腹の薄い皮膚が埋め込まれたものの形へと歪む。
「ぁ、ぅ……」
広げられた足の中心。萎えていた性器が震えて、新たな先走り混じりの白濁が零れて肌を汚していく。
熱を取り戻しかけた肉の壁が一度強く絡みついてほどけていくその動きに、佑は一度動きを止めた。
「洋佑さん」
「……、な、に……?」
羞恥と困惑混じりに佑を見上げる。視線が合うと、ばつん、と大きく腰を突き上げられた。
深い場所へと突き入れられたそれに、腹が震える。
「ァあっ、……い、きなりは……」
「……びっくりさせちゃった……?……ごめんね」
言いながらも動きを止めない。ベッドが軋む感覚が短くなる。冷めかけた肌に熱が戻るのを感じながら、洋佑は太腿を抱える佑の手に己の手を重ねた。
「……、……──、ぁ…びっくり…は、したけど……謝らなくて、いい、……」
もっと、と願うのは自分も同じだから。
喘ぎ交じりの言葉がどこまで伝わったかは分からない。が、今はそれよりも繋げた熱を互いに貪ることに夢中になりたい。なってほしい。
絡みつかせた肉壁を引きはがすよう、更に奥へと押し込まれる熱に、佑の手を握る指が震えた。
◇◇◇◇◇◇◇
気が付けば外は暗くなっていた。一頻り求め合った後、まどろんでいるうちに時間が過ぎてしまったようだ。ベッドから体を起こしてバスルームへ。
二人でシャワーを浴びる間も、何かにつけて互いに触れたり、口付けたり。そうして心地の良いだらしない時間を過ごしていたら、夕飯の買い出しに行く余力もなくなってしまい、ソファで過ごしているのが今。
朝と同じよう、佑の膝へと身体を預け、髪を撫でてもらう心地良さに洋佑はすっかり甘えている。
「……洋佑さん。身体、大丈夫?」
「んー……大丈夫だよ。……今はちょっとだるいけど。これくらいなら寝れば……」
今までの経験上──と言っても、同性の行為は佑しか対象がいないのだが──これくらいの倦怠感ならば支障はない。
「なら良かった……でも。ちゃんと約束は守らないと……ね」
約束──仕事のある日や前日には無茶はしない。
同棲を始める時に交わしたいくつかの約束を思い出して洋佑は眼を伏せた。
「……うん。……俺も──気を付ける」
肉体的な快感も勿論ある。だが、それ以上に。佑が自分を抱くときの表情や声が──
「つい…もっと、ってなるから」
ふふ、と困った顔で笑った。
「気持ちいい、のもあるけど……佑が、さ。いつもと違う顔や声になるのも……好き、だし。何より──幸せ、そうで。見てて嬉しい、から」
伏せていた眼を上げた。下から見上げる佑の顔が赤くなっている。嬉しさと驚きの入り混じった複雑な表情に洋佑は眼を瞬かせた。
「僕も──洋佑さんがとろとろになっているの……好きだけど……やり過ぎないように気を付ける、ね」
髪を撫でていた手が頬を撫でた。その手に自分の手を重ねて軽く握ってから洋佑は体を起こす。
「……ありがと」
とりあえずなんか食うか。
言いながら立ち上がる。冷蔵庫に何かあるだろう。
「あ、次から掃除のとき。佑の部屋入ってもいいか?」
今までは入るな、と言われていた部屋。これからはどうするのか、と尋ねる声に佑は軽く笑った。
「いいよ。……でも、僕が中にいる時は入らないで欲しい」
ソファから立ち上がった佑。冷蔵庫へと向かう前に、洋佑の耳元でそっと囁く。
でないと、今日みたいにベッドに連れ込んじゃうから。
冗談か本気か。触れるだけのキスで耳朶へ唇を寄せてから、冷蔵庫へと向かう。耳を押さえた格好で見送っていた洋佑は、我に返ると慌てて後を追う。
二人して冷蔵庫を覗き込んで、残っていた材料で何を作るかを決めてキッチンに立つ。他愛もない会話をしながら、調理を進めていく。
こんな時間も好きだ──と思ってしまう辺り、多分、もう何をやっても「佑なら」受け入れられるのではないだろうか。
「あ、洋佑さん、お皿出して」
言われて戸棚へ向かう。皿を並べながら洋佑は言葉に出来ない感情に小さく笑った。
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