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15  冬磨の『好き』が聞きたいよ…… ※

 冬磨はあれから『吹雪の子』の話を気にして俺の顔色をうかがっている。  でも、俺はその話のせいで、ますます冬磨への感情を募らせるばかりだった。  あの日の俺を冬磨が覚えてくれていたことが、たまらなく嬉しい。  顔は覚えていなくても、俺の笑った顔を見て思い出してくれたということが、泣きたくなるほど嬉しかった。  冬磨の話を聞いて、一つだけはっきりとわかったことがある。それは、本当の俺では冬磨に選ばれなかったということだ。ビッチ天音だからこそ選ばれた。  でも、冬磨はあの日の俺を思い出してビッチ天音を選んだ。本物の俺がきっかけだった。自分のおかげで、いま俺は冬磨のそばにいられる。  その事実だけで、俺はもう夢のような気分だった。  考えないようにしていても、一日中顔がゆるむほどに。  ビッチ天音として冬磨と一緒にいても、それはどうにも隠しきれなかった。 「なんか最近いいことあった?」    冬磨が俺のバスローブを脱がせながら笑顔で聞いてくる。   「別に……なんもねぇけど」 「ふうん。ま、天音がなんか穏やかだと安心するわ」    俺はいつも無表情がデフォルトだから、ゆるんだ顔を隠せないでいると穏やかってことになるんだな。  本当の俺は、冬磨と一緒だときっと一日中デレデレなんだけど……見たら引くだろうな。 「……ぁ……っ……」  首筋に冬磨の唇がふれ、一気に感情が高ぶった。  ぶるっと身体が震え、冬磨にしがみつく。 「大丈夫。俺は天音を絶対に傷つけないよ」  冬磨はいつも必ず『大丈夫』と言ってくれる。そのたびに俺は、嘘が苦しくて胸が痛い。冬磨の優しさが心にしみて涙腺が刺激された。  冬磨の愛撫が始まると、とたんに俺はビッチ天音の演技ができなくなる。無表情を維持できず表情がゆるむ。だから、少しでも早くうつぶせになりたい。   「……んっ、ぁ……っ……、はぁ……」    必死で目をつぶり、冬磨の愛撫に身をゆだねた。  身体中にキスをして舌を這わす冬磨に、俺はいつも何もできず頭を撫でる。冬磨の猫っ毛なふわふわの髪にふれるだけで、自分が冬磨の特別になった気分になれるのが好きだ。   「お前、俺の髪いじるの好きだよな?」    乳首を舐めながらクスクスと笑うから、また俺の身体がゾクゾクと震える。  そして、嬉しい問いかけが来た、と思わず口元がゆるんだ。 「ん……すき。……ふわふわで……すき……」 「……あー……ほんとやばい。かわい……」  冬磨に「好き」と答えることができる問いが、この上なく嬉しい。  髪が好きと答えながら、冬磨のことが好きだと伝えた気分になれるのが幸せだった。  最近、ベッドの上では口調をあえて素の俺にしている。そのほうが冬磨が余裕をなくす。ビッチ天音とのギャップがクるらしい。  そのままの自分でいいから俺も嬉しいけれど、表情に気持ちがだだ漏れになりそうでちょっと怖い。 「俺も好きだよ、天音の可愛い乳首も……ココも」 「あ……っ……」  後ろに冬磨の指が入ってきた。  冬磨に伝えられた『好き』の言葉と、指で与えられる快楽に俺は酔いしれる。 「んん……っ、……ぁ……っ、と……ま……」  冬磨……もっと好きって言って。  冬磨の『好き』が聞きたいよ……。 「とぉ……ま……っ……」 「天音のそれ、ほんと可愛い……。なんでベッドだとそんな可愛いんだよ……」 「んぁぁ……っ!」  弱いところを強く刺激されて身体が跳ね上がった。 「……ごめん天音。もっと優しくしてやりたいのに、マジで余裕ねぇわ……」  いまでも充分優しいのに。優しすぎて大好きな気持ちが抑えられなくなるほどなのに。  冬磨がゴムに手を伸ばした。  いつもなら俺が四つん這いになってからか、うつぶせになれるよう身体を離してくれるのに、冬磨は足の間から離れてくれない。   「とぉま……?」 「天音。今日は前から。……いいだろ?」 「えっ、い……っ、嫌だ……っつってんだろっ」    パッと目を開いて冬磨を見ると、まるで懇願するような瞳をしている。  どうしよう……前からは絶対だめだ。冬磨に気持ちがバレちゃう。  まだ……まだ終わりたくない。もっとこのまま……ずっとこのまま冬磨のそばにいたい。 「トラウマとは関係ないんだろ? じゃあたまにはいいじゃん。俺の希望も聞いてくれよ」 「い……嫌だ……」 「なんでそんなに前が嫌いなんだよ。理由は?」  そんなの話せるわけない。  これ以上嘘も嫌だ。  でも、冬磨と終わるくらいなら、嘘でもなにか……。   「……前は……全然気持ちよくねぇから……」 「え、そういう理由?」 「……だから嫌だ」    前からが嫌な理由なんて他に思いつかない。  でも、こんな理由じゃ冬磨はきっと諦めない。   「んー。じゃあ、俺とも試してみようぜ? もし前からイケなかったら、もうしつこくしねぇから」    やっぱりだめか……。  目を見せなければ大丈夫だろうか。  怖い。冬磨に切られたらどうしよう……。 「天音、いい?」 「……勝手に……すれば」  冬磨が優しい瞳で俺を見つめて頬を撫でる。 「絶対、気持ちいいって言わせるから」  そんなの、気持ちいいに決まってる。  でも、絶対後ろより気持ちいいと思われないようにしなきゃ。  イかないようには……できるわけないか……。  俺は冬磨が来る前に、ぎゅっと目をつぶって覚悟を決めた。    

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