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19 キスマーク付けてみました

 冬磨と火曜日に会ったあとの気の抜けた木曜日。  仕事から帰宅して着替えて風呂に入ろうと準備をしていたら、リビングからスマホの通知音が聞こえて慌てて確認に戻った。  週の初めはソワソワする。いつ冬磨から誘われるか毎日ドキドキしてる。  でも、会ってしまったあとは、もう来週まで会えないとわかっているから気が抜ける。  今週はもう連絡は来ない。そう思っていても、通知音が鳴れば冬磨かもしれないと思って心臓が高鳴る。……まあ違うだろうけど。  期待半分、諦め半分でアプリを開くと、冬磨の名前が表示されて身体が飛び跳ねた。 『明日は空いてる?』  見間違いかと思って何度も繰り返し読んだ。  だって明日は金曜日。  金曜日に誘われるなんて初めてだっ。  週に二回も初めてだっ。  驚いて動揺してスマホが手から滑り落ちた。 「いっ! たっ!」  足の指に当たって痛みにうずくまる。 「ぅぅ……痛い……嬉しい……痛い……どうしよう……っ」  早く、早く返事送らなきゃっ。  俺は震える指で『空いてる』といつものように素っ気ない返事を送る。  すると『じゃ、明日な』と返ってきて、叫び出したいほどの歓喜で胸がいっぱいになった。 「明日も……会える……っ!」  週に二回も会えるなんて初めてだ。それも金曜日っ。  新参者は卒業なのかな? 古参の仲間入り?  なんて本気で考えた。  あ、そっか。他のセフレが捕まらなくて俺に声がかかったのかも。  そうだそうだ、きっとそうだ。じゃなきゃ俺が金曜日に誘われないよね。  そこでハッとする。喜びすぎて返信を忘れてた。  俺は慌てて『了解』と、また素っ気ない返事をする。  ううう。ハートのスタンプ送りたい。嬉しいよーって伝わる可愛いスタンプ送りたいっ。  俺はスマホを胸の前で握りしめてベッドにダイブして、興奮がおさまるまでゴロゴロと転がり続けた。 「そうだ! キスマーク!」  さっそく付けようっ。  そうすれば、明日からは冬磨の顔を見ながらできるっ。  好きなだけ冬磨を見つめることができるっ。  …………好きなだけは、危険かな。……ほどほどにしよう。           ◇      「天音。なんだこれ」  俺のバスローブを脱がせた冬磨が、さっそく肩に付けたキスマークに気づいて動きを止めた。  指で撫でて確認してる。  せめて鎖骨の上あたりに付けたかったのに、どうしても肩が限界だった。  気づいてもらえなかったらどうしようと思って、肩と二の腕に何個か付けた。  念のために足にも付けた。こっちはひざのあたりにしか届かず、さらに跡がすぐに消えるから困った。ネットで調べると、太ももの内側が付きやすく、そしてストローが最適と出てきた。俺は急いでスーパーに駆け込みストローを購入し、必死で太ももの内側に付けた。形が変だけど……まだなんとか跡が残ってる。 「何って、キスマークだろ」  俺はドキドキしながら、それが何? と言いたげに答えた。 「……気づいてたんだ。お前、いいの? こんなん付けられて」 「別に。どうでもいい」  しばらく撫でて確認していた冬磨が「……挑戦状か」と、かすかにつぶやいた。 「なに? 挑戦状?」 「……なんでもねぇ」  初めて見るような冬磨の表情に、ちょっとひるむ。  冬磨……怒ってる?  いや、怒ってるというより、すごく真顔だ。  俺にキスマークがついてるからって冬磨が怒るわけないよね。 「天音、キスマークの相手ってどんな奴?」 「……は? どんな奴って……なんでそんなこと聞くんだよ。冬磨に……関係ねぇだろ」  どんな奴かなんて聞かれると思ってなかったから、そんな設定なにも考えてない。  でも、セフレが付けたって信じてもらえたっ。よかったっ。  これで、目を見られてもきっと大丈夫。 「……まぁ、関係ないよな」  冬磨はバスローブを脱いで俺に覆いかぶさると、首筋にジュッと吸い付いた。 「は……っぁ……」 「天音。俺も付けていいんだよな?」 「……んっ、……え?」  冬磨が首筋に唇を当てたまま喋るからゾクゾクした。 「どうでもいいなら、俺も付けていいんだろ? キスマーク」  う、嘘……。冬磨がキスマーク付けてくれるの……?  どうしよう……泣きそう……。 「好きにすれば」  そう答えた瞬間、首筋に冬磨の熱い唇が強く押し当てられてチリッと痛みが走った。  冬磨がキスマークを付けてくれた痛み。幸せで泣きそうになる。  まさか冬磨にキスマークをつけてもらえるなんて思いもしなかった。  冬磨はさらにその下にも吸い付いて、俺に幸せな痛みを走らせた。  それだけでも幸せだったのに、冬磨はさらに俺が付けたキスマークの上からも吸い付く。  どうして……?  心が震えるほど幸せで、涙がにじんでくる。  だめだ……こらえなきゃ。  冬磨は俺が肩に付けたキスマークすべてに吸い付いて、やっと顔を上げた。 「……ふん。勝ったな」  と、勝ち誇ったような顔でそんなことを言う。 「……勝ち負けなのかよ」 「勝ち負けだろ、こんなの」  そっか。対抗意識を燃やしてたから真顔だったのか。  俺が付けた偽物なのに……冬磨、可愛い。 「……なに笑ってんだよ」  思わず口元がゆるんだのを冬磨は見過ごさなかった。 「笑ってねぇよ」 「笑ってんじゃん。お前、こんなんで笑うんだ」  意外そうな顔で俺を見て、冬磨が苦笑する。 「クソセフレのおかげで天音の貴重な笑顔が見られるとか……複雑だな」  俺の笑顔を貴重だと思ってくれてるんだ、と驚いた。  ビッチ天音のときはいつも無表情を装っているから、冬磨の前で笑うことなんてめったにない。  本当の俺は、よく笑うんだよ……冬磨。  

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