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69 最終話 俺たちは終わりません
「なぁ、天音」
「うん?」
満天の星に包まれて、まるで宇宙の中にでもいるような感覚。
そんな中、冬磨が静かに話し始めた。
「明日さ、キャンプの帰りで疲れてるとこ悪ぃけど、ちょっと買い物して帰りたいんだ。だめか?」
「大丈夫だよ。リラックスして逆に疲れが取れてるぐらいだし。きっと明日はすごく元気」
「そうか? さんきゅ」
「なに買うの?」
「いろいろ買うぞ。まず食器な」
新しい食器、買うんだ。
「そんで、大っきいベッド」
ベッド……大きいの買うんだ。
「お前がよがっても落ちないベッドな?」
「……へ? お、落ちたことないよっ!」
ふはっと冬磨が笑った。
「んー、あとはパジャマとか?」
パジャマ……買うんだ。
……あれ? これってもしかして、俺の……かな。
食器ってもしかして、おそろいの、とかかな。
……違う、かな。
違うかも。新しく買い替えるだけかも……。
「あと食卓テーブルもほしいな。あれ子供んときからずっと使っててもうボロボロだからさ」
「でも、食卓テーブルって……思い出の物なんじゃ……」
「思い出は他にもいっぱいあるしな。イスがガタガタなんだよ。だからそろそろ新しくしねぇとな」
「……そっか」
本当にすごい色々買うんだな。
「買い物終わったら、ゆっくり引越しの準備な?」
「え……引っ越すの? え、ご両親の家なのに、引越しちゃうのっ?」
思い出の食卓テーブルどころじゃない、思い出の家が……っ。
驚きすぎて思わず起き上がった俺を、冬磨は優しく笑って見上げた。
「まだわかんねえの?」
「……え、なに、が?」
「お前の引越しだよ、お前の」
「…………え? 俺……引っ越しの予定は……」
冬磨の手が伸びてきて、そっと優しく俺の頬にふれた。
「天音が、俺んとこに引っ越すの」
「…………え……?」
「一緒に暮らそう、天音」
空耳かな……。
一緒に暮らそうって……聞こえたけど空耳だよね……。
「天音、俺と一緒に暮らそう? 頼むから、うんって言って?」
また聞こえた……一緒に暮らそうって……。
「と……ま……?」
「先週一週間会えないだけですげぇつらかった。俺、もうお前とは毎日一緒にいたい。仕事が早い日は一緒に帰って、天音の仕事が遅い日は、ご飯作って待ってるよ。連絡くれれば車で迎えに行く。だから、俺と一緒に暮らそ?」
冬磨の瞳がゆれていた。
不安そうに、ゆれていた。
「…………俺、重い、か?」
それは俺の台詞なのに……っ。
「とぉま……っ」
冬磨の胸に顔をうずめると、冬磨が優しく抱きしめて俺を包んでくれた。
一気にあふれ出た涙が、どんどん冬磨のシャツを濡らしていく。
「俺のほうが……もっとずっと重いよ……っ」
「天音」
「俺は……俺は一日中、冬磨と離れたくないもん……っ」
「……うん、俺もだよ。だから、一緒に暮らしたい」
「……ぅっ、……とぉ……ま……っ……」
「天音、一緒に暮らそう?」
「ぅ゙ー……っ、くら……暮らす……っ」
「ははっ、うん、やった……よかった。あー……すげぇホッとした」
あまりに夢のようでまだ信じられない。涙がとめどなく流れ出る。冬磨と一緒に暮らす……全然実感がわかない。
いつまでも泣き止まない俺の背中を、冬磨は優しくさすってくれた。
冬磨と付き合うようになって、一気にいろいろと夢が叶っていく。
自分に都合のいい夢でも見てるみたいで怖くなる。
背中をさする冬磨の手があたたかい。少しづつ涙が落ち着いてきた。
「とぉま……」
「ん?」
「本当に……これ、現実……?」
「それ、言うかなってちょっと思ったけど、ほんとに言ったな?」
と、冬磨が優しい声色で笑う。
「だって……怖い。ゆ……夢じゃない?」
「夢じゃねぇよ。天音は明日から俺ん家で暮らすんだ」
冬磨……いまなんて言ったの……?
明日から……?
「明日からは……無理だよ……」
「無理か……? 帰りに必要な荷物だけとりあえず運んでさ。足りなかったらまた車出すよ。んで、週末に少しづつ引越し準備してけば……よくね?」
いつも冬磨の家に泊まるときの荷物を思い出す。
そうだ……とりあえず会社にさえ行ければいい。
必要なものなんて服くらいで、あとはほとんど冬磨の家あるものばかりだ……。
「明日からは無理か?」
「……無理じゃ……ないかも」
「だろ? よかった」
どうしよう……。もうずっと冬磨と一緒にいられるの?
嘘みたい……どうしよう。
「と……ま……」
「ん?」
「もう……幸せすぎて……死んじゃいそう……」
「……はぁ……ほんと可愛い。お前がいつも全身で俺を好きって言ってくれるから、俺もほんと幸せ」
「好き……大好き……とぉま……」
「俺も、愛してるよ、天音」
やっと止まった涙がふたたびあふれ出た。
「ぅ゙ー……俺も……愛してるっ……」
「うん、愛してる」
冬磨の手が、俺の頭を優しく撫でる。本当に幸せで死んじゃいそう……。
冬磨と出会ったときは、選んでもらえる可能性なんてほぼゼロだと思ってた。それなのに、今はこんなに幸せ。本当に嘘みたいだ。
もうこれからは、冬磨に会えなくて寂しいと泣くこともないんだ。
毎日冬磨の家に帰って一緒に過ごせるんだ。
嬉しい……大好き……冬磨。愛してる……。
「天音。引越しの準備と、お前ん家にあいさつ行くのと、どっちが先がいいかな?」
「えっ、あ、あいさつ……?」
「うん、あいさつ」
冬磨が当たり前のように肯定する。
あ……そっか。コーヒーを入れてるときも……あいさつのために父さんに会いに行くって言ってたんだ。
でも、いい大人が一緒に住むってだけであいさつ……しないよね?
するの……かな?
いや、そんなの事後報告でいいよね。
「……いらないと思うよ? あいさつなんて」
「いや、ちゃんとあいさつしてぇんだけど」
「でも……父さんが」
キャンプ道具を持ってきたときのあの喜びようだ。きっとあいさつなんか行ったら……。
「お父さんが、なに?」
「えっと……変に勘違いしそう、だから」
「勘違い?」
将来を約束したとか、そういう勘違い。
でも、言葉にしたら冬磨が気にしそうで口にできない……。
「あー……なるほどな。わかった。お前がなんか勘違いしてんだな」
ギクッとして身体が震えた。
俺は……勘違いしないようにブレーキをかけた。でも、そうした時点でもう勘違いしてるようなものだよね……。
「ご……ごめ、ん」
「んー謝るってことがもうおかしいもんな?」
「……どういう……」
「そうだな、これが天音だよな」
と、笑って頭をくしゃっと撫でる。
「あ、いやごめん、俺が言葉足らずだった。マジでごめん」
そう謝りながら、俺の頭にキスを落とした。
冬磨……?
「俺、前にお前のこと養ってやるって言ったじゃん? お前も男だし、しっかり仕事持ってんのに軽率だったけどさ。あれ俺、すげぇ本気なんだけど」
「…………え?」
「だから、もう一生離さないつもりで、一緒に暮らそうって言ったの」
「…………う、嘘……」
「だから、軽い気持ちで同棲しますーってあいさつじゃねぇから勘違いすんな。俺にはもう天音だけですって、そういう意味で、あいさつに行きたい。あ、もちろん仕事辞めろなんて言わねぇからさ」
身体中に感情があふれて止まらなくなる。冬磨の胸に顔をうずめ、抱きしめる腕が震えた。
「もしさ。天音の親が許してくれたら、パートナーシップ制度か養子縁組か、ちゃんとしよ?」
「と、とぉ……っ」
驚きすぎて涙でぐちゃぐちゃの顔をガバッと上げた。
冬磨が優しく微笑んで俺の頬を包み、唇にそっとキスをした。
「な? ちゃんとしよ?」
「で……でも……っ。それはまだ……早い、よ……」
だって俺たち、まだ始まったばかり……。
「……そっか。そんなすぐ一生の相手なんて決めらんねぇか」
「ちが……っ! 違うよっ。俺じゃなくて、冬磨がだよ……っ」
こんなに早く決めちゃって……冬磨は本当に大丈夫なの……?
「俺には冬磨しかいないもん。冬磨だけがほしいもん。ずっと冬磨に好きでいてもらうために、どうしたらいいだろうって……考えるくらい……冬磨だけだもん……」
冬磨が、嬉しくてたまらないというように破顔した。
「うん。俺も同じだよ。もう俺には天音しかいない。天音だけがほしい。だから……ちゃんとしたい。ちゃんと、しよ?」
もう喉の奥が焼けるように熱くてなにも言葉が出せなくて、ボロボロと泣きながら俺は何度も縦に首を振った。
「……ふ……ぅ……っ……」
「ごめん、今日お前のこと泣かせっぱなしだな」
「と……ま……」
「ん?」
「と……ま、とぉ……ま……」
「うん」
冬磨はなにも言わず、ただ俺をぎゅうっと抱きしめてくれた。
ずっとずっと怖かった。
冬磨と恋人になってからは、もっと怖くなった。
冬磨を失いたくなくて、終わる日のことを考えるのがすごく怖かった。
俺たちは……もう本当に終わらないんだ……っ。
「天音」
冬磨がゆっくりと身体を起こして俺をシートに寝かせ、優しい瞳で見下ろした。
「一生、一緒に歩いてほしい。俺と」
一生、一緒に……っ。
幸せの涙が次から次へと流れ出て止まらない。
「……ん、……うん、……うん……っ……」
ちゃんと声に出せているのか自信がないから、必死に首を縦に振った。
「天音を一生、守るから」
「と、ぉ……まっ……」
喉が詰まって声が上手く出せない。冬磨に抱きしめてほしくて手を伸ばすと、優しいキスが降ってきた。
「ん……っ……」
「天音……」
「ふ……ぁっ、……と……ま……」
優しい優しいキス。意識が飛びそうな激しいキスじゃない、ひたすら優しい甘いキス。
涙が落ち着いて、目を合わせて笑い合えるくらいまで、俺たちはずっとキスをした。
そっと唇が離れていって、冬磨がとびきりの笑顔を見せたあと、かすかに眉を下げる。
「いくらプライベート空間っつっても、やりすぎたかな?」
「……大丈夫。テントの裏だし見えないよ……それに暗いもん……」
「そうか? よかった。出禁になったら困るもんな?」
「……出禁は……バーだけで充分……」
「……だな」
冬磨が苦笑したとき、冬磨の肩越しに星が立て続けに流れた。
「わっ、二つ流れた……」
「は?! 二つ?!」
慌てたように冬磨が振り返る。
でも、流れ星はあっという間だから見えるはずもない。
「はぁ? もー嘘だろ? 天音、これで何個見た?」
「えっと、四……五個?」
「くっそー」
冬磨が寝転がると、俺の顔を隠すように胸に抱きしめた。
「冬磨?」
「お前、俺があと三個見るまでこのままな」
「ええ……?」
抗議するように言い返したけれど、本当は嬉しい。
ぐっと胸に押し付けるように俺を抱く冬磨が、愛おしくて幸せだった。
「おっ! よっしゃっ、三個目っ!」
「まだあと二個だね?」
「そんなん、すぐだろっ、見てろってっ」
楽しそうに流れ星を探す冬磨に、子供の頃の自分を思い出す。
都会の明るい光の中では流れ星を見つけるのは難しい。だから、毎年このキャンプ場に来ると、次々と流れる星にワクワクして胸が踊った。
今の冬磨と同じように、昔の俺も父さんと母さんと流れ星を見た数を競い合ったっけ。
次々と流れ星を見つけた冬磨は、はたと我にかえるように俺を抱く腕をゆるめて「ごめん天音……」と謝ってきた。
「どうしたの?」
「せっかく星観に来てんのに、お前に星も見せずにさ……」
本気で申し訳なさそうに謝る冬磨に俺は笑った。
「まだ時間はたっぷりあるし、冬磨が飽きたって言ってもずっと観るよ?」
冬磨が安堵したように息をつく。
「よし、あらためてちゃんと観よ。ゆっくりさ。俺、天音の天の川を観に来たのに、流れ星に夢中になっちゃったよ」
「ふふ、うん。俺もいつもそうだったから大丈夫。いっぱい流れるから楽しいよね」
「……うん、すげぇ楽しいわ」
「よかった。冬磨が楽しいと、俺も楽しくて嬉しい」
そのあとは、二人でゆっくりと天の川を眺めた。
流れ星が見えるたびに「あっ」「おっ」と声を上げながら。
「天音の言うとおりだったわ」
「え?」
「俺、夜景よりも星のほうが断然好きだわ。ずっと見てられる」
「わ、本当? やったっ、すっごい嬉しいっ」
「ほんとさ、ここ、毎年来ような?」
「うん。絶対来ようねっ」
満天の星が煌めいて、天の川が広がる星空の下で、俺たちは幸せいっばいの笑顔で微笑み合った。
◇
「……さすがに疲れたな?」
「……ちょっと、色々買いすぎちゃったね?」
キャンプ場を出て、札幌に戻ってくるまではお互いにまだ元気だった。
冬磨と一緒に住む準備。そう思ってお店を回ると、嬉しくて楽しくて、はしゃぎすぎた……。
冬磨のマンションに帰宅して、荷物を全部家に運び終わる頃にはヘトヘトになっていた。
それでも俺たちは、真っ直ぐ和室に行って仏壇の前に座る。
「少し休んでからでいいんだぞ?」
「ううん。早くごあいさつしたいからっ」
「別に仏壇は逃げてかねぇぞ?」
「今日は特別だからっ」
「……ああ、そっか。そうだな」
意味がわかったのか、冬磨は優しげに笑ってロウソクに火を付ける。
「天音から先に上げるか?」
「え、いいの?」
「早く報告したいんだろ?」
「うんっ」
俺は、お仏壇の正面に座ってお線香を上げ、手を合わせた。
「冬磨のお父さん、お母さん。天音です」
今日からは冬磨と同じように声に出すことにした。想像よりも恥ずかしくなくてホッとした。
「今日はすごくすごく嬉しいご報告があります。……っあ、えっと、僕はすごく嬉しいんですけど、冬磨のお父さんお母さんがどう思うかは分かりませんっ、すみませんっ」
ふはっと冬磨の笑い声。
やっぱり恥ずかしかった。心の中にすればよかった……。
でも、気を取り直して俺は続けた。
「えっと……実は、今日からここで、冬磨と一緒に住むことになりました。大好きな冬磨と、毎日一緒にいられることになりました。本当に……本当に夢みたいで幸せです。あの……でも、僕は料理もあまりできないし、掃除洗濯も苦手なんですけど……」
冬磨が吹き出して「いいよ、俺が全部やるから」とクスクス笑ったけれど、俺はゆっくりと首だけ横に振った。
「でも、たくさん料理を覚えて、掃除も洗濯も頑張ります。冬磨と一緒ならなんでも楽しくて幸せです。何かと至らない点があるかと思いますが、今日からどうぞよろしくお願いします」
手を合わせながら頭を下げた。俺のあいさつ……変じゃなかったかな。大丈夫かな。大丈夫だといいな。
ゆっくりと目を開いて、場所を冬磨にゆずった。
冬磨は優しく俺を見てからお線香を上げた。
「父さん母さん、そういうことだから。この前、最高に幸せだからって俺言ったけど、もうほんと、最上級に幸せだから。俺、もう大丈夫だから」
もう大丈夫……?
その言葉が引っかかったけれど、ふれていいことなのか分からない。
冬磨の顔をうかがっていると「ん?」と優しく目尻を下げて頭を撫でられた。
気になるけれど、俺からは聞いちゃだめな気がする。
これからは冬磨との時間はいっぱいある。いつか大丈夫の意味を冬磨が自分から話してくれる日をゆっくり待とうと思った。
「天音、晩飯どうすっか」
と、立ち上がろうとする冬磨の手を取った。
「……ま、待って冬磨」
「なに、どした?」
「あ、あのね」
「うん?」
「あの……」
冬磨としっかりと向き合って正座をして、目をそらさずに見つめた。
さっきご両親にはちゃんとあいさつできたのに、どうして冬磨だと恥ずかしいんだろう。
「ふ……」
「ふ?」
「ふ、ふつつか者ですが……今日から、どうぞよろしくお願いします」
畳に手をついてゆっくりと頭を下げた。
ちょっと照れて顔が熱いけど、よかった、ちゃんと言えた。
ホッとして顔を上げたその瞬間、突然冬磨に唇をふさがれた。
「……んぅ……っ?」
驚いて目を見開く。
なんでっ。なんでっ。だって……っ。
俺の頭を抱き込むようにして、冬磨が深いキスをする。
「んん……っ、と……ま……っ……」
だってここは……っ。
ぐっと冬磨の胸を手のひらで押すと、身体と一緒に唇も離れていった。
「なんで……っ。こ……っ、ここではだめだって……っ」
そう抗議すると、冬磨がとろけそうなほど甘い顔で俺を見る。
「だってお前、今のは襲うだろ」
「な、なんでっ」
「可愛いすぎて、たまんなかった」
「た、たまん……な……」
たまんなかったって……っ。
「たまんなくてもっ、ここではだめっ!」
「別にいいじゃん。父さんも母さんも微笑ましく見てるって」
「…………っ、と……っ、冬磨のばかっ!!」
もうご両親に顔向けできないよ……っ!
俺はお仏壇に向かって「すみませんでしたっ!」と頭を下げて急いで和室を出た。
「おーい、天音ー?」
和室を出てもどこに逃げ込んだらいいのかわからない。
俺は仕方なくソファに腰を沈め、クッションに倒れ込んで顔をうずめた。
「おい、天音。そんな怒んなって」
「うっさいっ! ばかっ! 冬磨のばかっ!」
「ふはっ。うっさいって、なんか懐かしいな? えー? 怒るとビッチ天音が出てくんの?」
「うっさいっ! 知らないっ!」
絶対ぜったいだめだったのにっ。
ご両親の前で……キ、キスなんてっ。絶対だめなのにっ。
明日からどんな顔でお線香上げればいいのっ?!
冬磨のばかっ!
「天音ー。機嫌直せって」
「さわるなっ!」
「ふはっ。……もーほんと、怒ってても可愛いな」
何それ、俺怒ってるのにっ。
「天音ー。悪かったってー」
後ろから、ぎゅうっと冬磨が抱きしめてくる。
「さわるなってばっ!」
「あー可愛い……」
冬磨がぎゅうぎゅう俺を抱きしめる。
どうして……っ。
どうして俺、怒ってるのにドキドキするのっ。
「ごめんって天音。もう和室ではキスしねぇから。な?」
「…………ほんと?」
「うん、ほんと」
「…………絶対?」
「うん、絶対」
ちゅっと首筋にキスをされて「ん……」と声が漏れた。
「ここなら、いいだろ?」
隣は和室。でも、和室からはソファは見えない。
「…………う、ん」
「天音、こっち見て?」
まだ怒ってるから、やだって言いたいのに……。
俺はクッションからゆっくりと顔を離して、冬磨に向き直った。
「天音、ごめんな?」
「……ん」
「まだ怒ってる?」
「……うん」
「キスしていい?」
「…………うん。……ん……っ……」
怒ってるのに……キスしたかった。
「ごめんな」と「可愛い」をくり返しながらついばむキスをする冬磨に、怒る気持ちも消えていく。
もっと深いキスがほしい。冬磨の首に腕をまわすと、優しい舌が俺のすべてを溶かした。
「冬磨……好き」
「俺のほうがもっと好きだよ」
さっきまでは怒っていたのに、もう幸せで胸がいっぱい。
「なぁ、いつ天音の家にあいさつ行けそう?」
「えっと……聞いてみる、ね」
「早く指輪つけたいから……早く行きたい」
「ゆび……わ……?」
もしかして……おそろいの……?
「もうキスマつけらんねぇし……早く結婚指輪つけたい。早くあいさつ行って、早くちゃんとしよ?」
「結婚……」
ちゃんとするって……そっか、結婚……なんだ。結婚……っ。
「とぉま……っ」
思わず冬磨に抱きついた。
指輪をつけるなんて想像もしてなかった。
俺……冬磨と結婚するんだ……っ。
幸せすぎてめまいがした。胸が張り裂けそう……。涙があふれてくる。
でも、結婚指輪ってすぐには手元に来ないんじゃないかな。
一生物だもん文字も入れたい。
あいさつ行ってちゃんとしてからだと、いつ指輪つけられるかな……。
「先に指輪買いに……」
「やっぱ先に指輪……」
冬磨と声がかぶって驚いて、お互い目を見合せて笑った。
本当に、冬磨と結婚するんだ。
これからは、ずっと冬磨のそばにいられる。
一生、冬磨と一緒に歩いていく。
「愛してるよ、天音」
「あ……愛してる……冬磨」
俺たちは幸せを噛みしめながら、深い深いキスをした――――
〈冬磨編へ続く〉
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