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ぶどう狩り◆モブ視点◆ 1
皆さま、お久しぶりですꕤ︎︎
前回の更新から、もう半年も経つんですね……(> <。)
連載が完結したので、久しぶりにこちらの番外編を書いてみましたꕤ︎︎
もっとサクッと書くつもりが、なぜかとても長くなり……全四話です……(> <。)ナゼ- しかもモブ視点なんですが……汗
どうか皆さまに楽しんでいただけますように……ꕤ︎︎
(読者様リクエスト……社員旅行、果物狩り、ありがとうございました! )
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私の勤める会社には、めちゃくちゃ美形な上司がいる。
今、その上司の隣に、めちゃくちゃ可愛い男の人がふわふわと笑っていた。
今日は会社の行事でぶどう狩りに行く。家族も参加OKのため、子供連れも多い。
美形の上司、小田切主任は、家族であるめちゃくちゃ可愛い男の人、天音くんを連れて参加する。
主任を見上げてふわふわニコニコと笑う天音くん。
なんですか、あの可愛い生き物は……!
そんな天音くんを見つめて砂糖菓子のように甘くなってる主任も……!
二人とも可愛すぎるんですが……?!
「ぶどう狩りかぁ。誰か行く? 私は今年もパスかなぁ」
そんなことを言っていた先輩は、小田切主任の参加を知ると声高に「参加します!」と宣言した。
私はそれでも重い腰が上がらなかったけれど、小田切主任が結婚相手を連れてくると聞いて迷わず参加を決めた。
小田切主任はゲイである。
この会社に入社してまず驚いたのは、こんなに自然にゲイを受け入れてくれる人たちがいるのか! ということと、こんなに皆から愛されるゲイが現実に存在するのか! ということだった。
私は完全なる腐女子だ。漫画も小説もドラマも、暇さえあれば読み漁り、徹夜で鑑賞するほどである。それゆえ、関心があるだけに痛いほど知っている。世の中がこれほどゲイに甘くはないという現実を。
だから、こんなにゲイに優しい世界が本当に存在するんだと知って、雷に打たれたような衝撃を受けた。
この会社に入れたこと、この会社にエントリーしたこと、何よりこの会社を見つけられた奇跡に心から感謝した。
そして先日、小田切主任が養子縁組という事実上の結婚をしたと聞いた瞬間、まるで目の前に花火が打ち上げられたかのような感動を覚えた。
思わず「これで日本の未来は輝いている!」と叫びたくなるほどだった。
私は、小田切主任と天音くんをガン見した。
二人がバスに乗り込む時が勝負だ。絶対に近くの席に座りたい!
周りには、同じようにすでに戦闘態勢に入っている同類、あらため敵が大勢いた。
でも、敵とはいえ、これだけ主任と天音くんを好意的に見てくれるこの会社の人たちが、私は大好きだ。
主任が結婚指輪をつけてきた日の社内のお祝いムードは、本当に心温かくて涙がにじんだ。
「こんなに参加者の多いぶどう狩りなんて初めて見たわ……」
先輩がしみじみとつぶやく。
「そうなんですね……」
入社二年目の私。行事初参加ですみません。
少しすると、バスが二台、ビルの駐車場に到着した。
えっ! 嘘でしょ?! 一台じゃないの?!
こんなに大人数なんだからそりゃそうかーー!!
そう思ったのはたぶん敵も同じ。なんとか同じバスに乗りたいと、皆が主任と天音くんに、ジリジリとにじり寄っていく。
「はーい、じゃあ並んで順番に乗り込んでくださーい」
幹事の言葉にまず動き出したのは、子供連れの家族。主任と天音くんはまだ動かない。必然的に、多くの女性が動かない。
「みんな早く乗ってー! 一号車まだ乗れるよー!」
その声に主任が反応した。
「行くか、天音」
「うんっ」
よし今だ!
私は主任の後ろにつこうと足を踏み出した。
しかし敵が多すぎる! どうしよう、無理かもしれない……!
あきらめかけたその時、先輩が私の腕を引っ張り勢いよく走った。
「えっ?!」
「行くわよっ!」
そう言って先輩は、主任の前の空いているスペースに出た。
そして、二人よりも先にバスに乗り込む。
主任は?! 天音くんは?!
慌てて振り返ると、主任に背を押されるように天音くんがバスに乗ってくる。
先輩!! ナイスです!!
奥から順に詰めて座ったバスの空席は、前列の左右にそれぞれ二席ずつ、合計四席だけだった。私と先輩、主任と天音くんで定員オーバーだ。
「残りのみんなは二号車ね〜」
「えええーーー!!」
外から敵の嘆く声が聞こえてくる。
これはすごい。バスの中には敵が一人もいない。なんて最高なの!
興奮が抑えきれずに震える声で、しかし必死に小声を保って先輩に伝えた。
「先輩! さすがです!」
先輩が親指を立ててウインクをする。
先輩は腐女子ではなかったが、主任が天音くんと付き合い始めたと思われる頃から、少しずつ腐り始めた。
主任と佐竹さんの会話が漏れ聞こえるたびに悶え苦しむようになり、気付けば立派な腐女子になっていた。
ほとんどが家族連れで賑やかな一号車の中で、私と先輩は耳をダンボにして黙っていた。もちろん主任と天音くんの会話を聞くためだ。
「と、冬磨、ダメだよ。職場の人の前ではちゃんとするって約束でしょ?」
何がダメなんですか?!
先輩と二人、横目で二人を盗み見る。
あ、手繋ぎですか?!
主任が手を繋ぎ、天音くんが振り払い、また繋ぐの繰り返し。
だから可愛すぎるんですがっ?!
「いいじゃん、バスの中なんて誰にも見られないって」
「え、だって冬磨、明日は手も繋げないからって昨日の夜いっぱい……っ」
そこでハッとしたように天音くんが口を閉ざす。
昨日の夜?!
いっぱいって、いっぱいって何がですかーーー?!
「んー? 俺そんなこと言ったっけ?」
「言ったよ?」
「んー覚えてねぇな〜」
「ええっ? 早く寝ようって俺言ったのに遅くまで……」
ゴニョゴニョ……と天音くんがつぶやくと、主任は「遅くまで……は覚えてるけどな?」と含み笑いで愛おしそうに目を細めた。
遅くまでゴニョゴニョって……ゴニョゴニョってなんですかーーー?!
「とにかくダメっ」
「大丈夫だって。ここ一番前の席じゃん。見られないって。今日は仕事じゃねぇんだしさ」
「で、でも……」
通路側に座っている天音くんが、突然クルンとこちらに振り向いた。
先輩と二人、息を詰める。
で、ですよね。見るとしたら私たちですよね。
すると先輩がバッグをゴソゴソとしだし、パウチに入ったガムを取り出す。
「あ、が、ガム食べる?」
「わ、わぁ、いただきます〜」
見てませんよっ。聞いてませんよっ。どうぞどうぞ手繋ぎしちゃってくださいっ。と必死にアピール。
「な? 見てないだろ?」
「……う、ん。でも……」
それでも天音くんは手を振り払い、主任がまたすぐに手を繋ぎ直す。
私たちはそれを横目で見ながら『繋いじゃってー!』と念を送り続けた。
その時、天音くんが「ぁ」と小さく声を上げ、パッと笑顔になる。
なになに?! どうしたの?! 可愛いよ?!
天音くんは被っているキャップを取って繋いだ手の上にふわっと被せ、桜色のほっぺで主任を見た。
主任は目尻を下げて天音くんを見つめる。
目で会話してるーーーっ!!
「もう……尊いがすぎる……」
先輩のささやきに、私は心から同意した。
神様、今日という日を本当にありがとうございます!!
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