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「しかしですよ、姫宮様。私達よりも御月堂様とお散歩しに行く時の方が、楽しい気持ちが出ているのですよ」
途端に思い出すのは、はっきりとした表情らしい表情を出したことがない彼のこと。
「前よりも御月堂様と話されているようで、同時に姫宮様自身も緊張が解けたのでしょう。そのポジティブな感情が後に、御月堂様のお子さんにもいい影響が受けますでしょう」
安野の慈愛満ちた目線の先、姫宮の大きくなった腹部を一緒になって見つめ、そっと撫でた。
こないだの検診の時、いつ産まれてもおかしくない週に入ったと言われた。
だから、より一層注意しなさないとも。
ここまで何事もなく、順調に育ってきたお腹の子がやはり愛おしい。
産まれるまでしっかり守るからね、と心の中で言い、もうひと撫でをしたのであった。
その後、自室に戻り、お腹の子に「寒くなってきたね」と話しかけたり、前に御月堂と散歩した時に見かけた本屋で買った、絵本を読み聞かせたり、歌を聞かせたりして、過ごしていた。
何曲目の時だろうか。玄関先で何やら揉めているような声が聞こえたのだ。
その時点で、御月堂が散歩をしに誘いに来たのではないと内心残念に思い、次に、誰が来たのだろうかと思っていた。
どちらにせよ、自分には関係ないのだろうと、止めていた動画を流し、歌い始めた直後、ドアがノックされる。
どくん、と心臓が高鳴った。
歌と動画を止め、腹部に手を添えつつ、ゆっくりと腰を上げ、扉へと歩み出す。
揉めている声を聞いたせいなのか、その扉を開いてはならないと警戒していた。
しかし、少し焦っている声を混ぜた安野の声が聞こえ、単純にどうしたのだろうと思い、恐る恐るドアノブを手に取った。
「お忙しいところ、失礼します」
出来るだけ表情に出さないようにしているのであろう、しかし、隠しきれない戸惑いを浮かべる安野が続けてこう言った。
「御月堂様の奥様、雅様が姫宮様に会いたいと仰られまして」
その時、安野の背後で立つ、鋭い目つきで睨めつける女性と目が合ってしまうのであった。
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