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「っ、ふ、ぅ゛」 「はあ……っ、かわいいなリシェス君、キス、たくさんしよ? ……っ、ねえ、ほら、こっち向いて」 「ふ、ぅ゛……ッ、ん゛んッ」  ちゅぷ、ぢゅる、と可愛げのない音を立てながら唇を重ねられる。今度は口を結んで拒むことを忘れ、ぬるりとしたアンリの舌が口内に入ってきた。  いやだ、好きでもないやつとキスなんて。  いくらアンリでも、いやだ。だめなのに。  舌と舌、濡れた粘膜同士を絡み合わせるように根本まで這わされるそのアンリの舌は最早別の生き物のようだった。熱い吐息が吹きかかり、朦朧とした意識の中、先程射精したばかりの下半身がじんじんと痺れ始める。もっと、もっと、と俺の意識とは裏腹に強い刺激を求めようと腰を震わせる身体にアンリが気付いたようだ。 「……あは、なにそれ? もう我慢できなくなっちゃったんだ?」 「は、ぁ……っ、アンリ……っ」 「声とろとろ過ぎ、かあいーね、リシェス君」 「ん、む……っ」  ちゅぷ、と顎を掴まれ、また喉の奥まで舌が入ってくる。上顎を滑り、口内を犯していくその感覚に脳髄までも甘く蕩けていくようだった。  ぴくぴくと痙攣する内腿を撫で、そのままゆっくりとアンリの手は下半身へと伸びるのだ。  そして、散々焦らされた余りどろどろに汚れた下着の中へと入ってくるアンリの手になにも考えることはできなかった。  早く直接触れてほしい。そんな思考が頭の中に浮かんでは無意識に腰が揺れ、背後のアンリのそれに押し付けてしまう。 「……っ、リシェス君、君ってやつは……」 「は、ぁ、アンリ、……っ、も、や、」 「よくここまでアンフェール君一筋でやっていけたよね、ド淫乱オメガのくせに」  違う、そんなつもりではない。  そう言いたいのに、焦らされれば焦らされるほど理性はぐずぐずになっていく。  性器に絡みつくアンリの指。細い指が亀頭から竿、そして根本まで辿るように這わされるだけで腰から力が抜け落ちそうになってしまう。 「……っ、は、すっごい濡れてるね。これもヒートのせい?」 「ゃっ、めろ……」 「まだ言ってるんだ、それ。いい加減諦めなよ、ここまで来て今更無理だって君も分かるよね」 「そもそも、君の方が耐えられないんじゃないかな。こんな調子じゃ」くすくすと笑いながら、アンリは下着から俺の性器を取り出すのだ。そのまま根本から頭まで溢れ出す先走りを塗り込むように扱かれ、食いしばった歯の奥から声が、息が漏れる。 「っ、ふ、ぅ……っ」 「いいよ、全部発情のせいってことにしても。……そうすれば浮気じゃないって気が楽になるだろうしね」  アンフェール君がどう思うかは知らないけど、とアンリの声が降り注いでは呪いのように染み込んでいく。  罪悪感もなにもかも快感に強制的に塗り替えられていく。このままでは駄目だと必死に耐えようとするが、その意思すらもアンリの手によって砕かれるのだ。 「ほら、またおっきくなったね。いいよ、リシェス君、僕にしがみついても」 「っ、ぁ、あんり……っ、ぁ、……っひ、く……ッ!」 「あ」とアンリが口にするよりも先に、既に限界に等しかった性器はアンリの手淫に耐えられずに呆気なく吐精する。  恥ずかしさもなかった。それ以上に、射精感もなくただより一層強くなる自分の中の飢餓感に戸惑った。これでは足りない。そう体の奥が焼けるように熱くなり、鼓動の感覚はより短くなる。 「……っ、ぁ、は……」  どろり、と亀頭から垂れる精液を拭ったアンリは、そのまま自分の口元へと手を持っていく。目の前で俺の精液を舐めとるアンリに嫌悪を抱く余裕もなかった。  熱に浮かされた頭の中、動けない俺の顎を捉えたアンリはそのまま精液を口移ししてくるのだ。 「ん、む……っ」  舌の粘膜同士を擦り合わせるように絡め取られ、唾液ごと飲まされる。顔を逸らそうとするが、顎に食い込む指はがっちりと固定したまま離れない。  押し流される唾液が喉の奥に落ち、それを受け入れることしかできずにこくりと飲み込んだとき、アンリは笑った。 「もう抵抗すらしてないじゃん、リシェス君」 「……っ、……」 「諦めちゃった? それとも、君もその気になったのかな」  ちゅぷ、と音を立ててアンリに軽く唇を吸われる。朦朧とした頭の中、俺はなにも言い返せなかった。  この世界はもうお終いなのだということだけは理解した。恐らく、この男に単身で近付いたときから。  そうなれば、このあとどうやって命を絶とうかという思考が込み上げる。焼けるように熱くなる脳の奥、そのまま下着を脱がされる。剥き出しになった臀部を鷲掴みにするアンリの指はそのまま割れ目の奥、固く閉じた肛門を撫でた。 「――それともまた、世界線を変えようと企んでるのかな」  そして、耳の側で囁かれる言葉にさっと血の気が引いた。  一瞬、アンリがなんのことを言ってるのかわからなかった。けれど、振り返る俺を見て微笑むアンリの顔を見て確証する。聞き間違いではないのだと。 「っ、ぁ、んり……ッ」 「よいしょ……っと、ん、ドクドクいってるね、リシェス君の心臓。……ほら、僕の心音も聞こえる?」  背後から抱き締められるような体勢のまま、耳元で囁かれるアンリの声に背筋がぞくりと震えた。脳の奥が冷えていくような感覚とは対照的に、背中越しに感じるアンリの体温に身体は反応してしまう。  どういうことなのかと考えること自体、脳が拒んでいた。逃げなければと思うのに、「おっと」と胸に這わされるアンリの手に上体を抱き込まれてしまえば思うように動くことすらできなかった。大きく逸らされた胸元、硬くなっていたそこを悪戯にアンリの指先が抓る。 「く、ぅ……っ!」 「なんで知ってるのかって顔してるね、リシェス君」 「……っ、し、らな……」 「今更知らない振りしなくてもいいんだよ。――だって、僕も一緒に見てきたから」 「色んな世界の君のこと、ずっと側でね」ちゅう、と項に押し当てられる唇は熱かった。  どういうことなのか。どこからどこまで。  そもそも、ブラフではないとしたらどうして知っているのか。  ヒートで溶かされた脳で考えたところでまともな答えがでるはずがないとわかってても、アンリの言っていることが本当だとすれば、それは俺が考えうる中で最悪な展開だった。  背後のアンリの腕から抜け出そうとするが、この状況ではアンリにすら敵わない。逆に腰を抱き寄せられ、拍子に剥き出しになった臀部に押し当てられるアンリの性器に息を飲む。あまりにも恐ろしく、背後を振り返ることもできなかった。  尻の肉を掴んだアンリはそのまま大きく割り開いた谷間に自身を押し当ててくる。 「あれ? リシェス君、震えてる? それとも待てなくて限界きちゃった?」 「……っ、は、ぁ……っ」 「もう抵抗する気すらゼロじゃん。……いいね、僕もそれのがいいと思うよ。君の良さは、打たれ弱さと強固な仮面の下の脆さだからね」  左右に割り開かれた肛門の上、わざと引っ掛けるように先走りを塗り込むように滑る性器の熱に最早なにも聞こえなかったし考えられなかった。  脳の奥、意識から作り変えられていくような抗えないほどの熱に呼吸は浅くなる。 「この世界では君はまだ処女なんだっけ? ……じゃあそれ、アンフェール君より先にもらっちゃおうかな」  そう、アンリの声が頭の後ろから聞こえてきたと同時だった。一旦離れたと思った亀頭が再び柔らかくなった肛門へと押し当てられる。  その熱から一切の意識を反らすこともできなかった。はっはっと浅く呼吸を繰り返し、無意識の内に開く股に背後のアンリが笑った気配がした。  そして、 「――本当、可愛いね」 「ひっ、ぎ……ッ!」  アンリの声が聞こえたと同時に、強引に体内へと突き立てられる性器に呼吸が止まりそうになる。内壁の粘膜を焼かれるような痛みと息苦しさすら全て快感に変換されるようだった。 「ぁ゛……っ、ぐ……ッ」 「はッ、やば、このまま引きちぎられそー……っ、けど、このまま死んでもいい、これがリシェス君の中……っ、ああ、最高だよリシェス君……ッ」 「ひ、う゛……ッ!」  何が起きているのかわからなかった。脳が理解することを拒否する。  息苦しさから逃れようと壁にしがみつけば、そのまままエラ張った亀頭はどんどん奥まで沈んでいくのだ。苦しいのに、気持ちいい。  頭の上からは譫言のようなアンリの声が降り注いでくる。拒もうとすればするほど、体内でアンリのものが大きくなるのだ。 「っう、ご、くな……っ、ぁ……ッ!」 「無理だよ、勝手に腰が動いちゃうし……っ、ん、は、便利だねヒートって。勝手に気持ちよくなれるし、今だったらなんでも気持ちいいんだよね?」  言い終わるよりも先に、胸を掴んだ手にそのまま乳輪ごと乳頭を絞るように扱かれる。そのまま先端部を指の腹で潰されれば、刺すような鋭い快感に堪らず悲鳴のような声が漏れた。  咄嗟に口を塞ごうとするが、間に合わなかった。更に興奮したように、アンリは俺の乳首を扱きながら奥を犯していく。 「っは、ぁ……っ、ゃ、ひ……ッ!」 「……っ、かわい、ねえ女の子みたいな声出てるの気付いてる? リシェス君……っ」 「く、んん……ッ!」  無理矢理こんな真似されているのに。  声なんて出したくないのに。  意識と肉体が乖離していく。揺さぶられ、腰を打ち付けられる度に脳ごと性器で掻き混ぜられているような錯覚に陥った。 「はー……っ、ぁ゛ッ! ひ、く……ッ!」  アンリの亀頭に前立腺を押し上げられた瞬間、頭の中が焼けるように熱くなる。そして、限界まで熱が溜まっていたそこからは呆気なく精子が溢れ出すのだ。  そして、達したばかりの俺の性器を握り込んだアンリはそのまま竿を擦るようにゆるゆると手を動かし始めた。 「は……っ、たくさん出たね、 もっと出していいよ。どうせ使い道ない子種なんだから今のうちにいっぱい出しとこ」 「ぁ゛ッ、あ、や……ッ! うご、く、な……ぁ……ッ!」  前を扱かれながら、同時に限界まで押し広げられた肛門を更に形を変えるかのように何度も勃起したそれを出し入れさせられる。  貫かれ、揺すられる度に腰が抜けそうになり、その都度アンリに抱き締められ、執拗に唇を重ねられるのだ。 「……っ、は、ん……っ、リシェス君」 「――ッ!」  陰が重なった瞬間、腹の奥で熱が混ざり合う。ドクドクと脈打つ鼓動とともに吐き出されるアンリの熱に、さあっと血の気が引いた。  まずい、早く精子を掻き出さなければ。  そう思うのに、アンリは俺を解放することなくそのまま腹の中にたっぷりと精子を注いだあと、性器の栓をしたまま腰を動かし始めるのだ。 「はー……っ、ん、ふふ、出ちゃった……リシェス君の赤ちゃん部屋にいっぱい僕の精子出しちゃった……これで赤ちゃんできるね」 「う、そ」 「嘘じゃないよ? ほら、ここ、ぐちゅぐちゅ言ってるでしょ?」 「ここ」と、出したばかりにも関わらず既に芯を持った性器、その頭でぐちゃぐちゃと音を立てながら精液で満たされた腹の中をかき混ぜるのだ。その動作だけで「うぐっ」と声が漏れ、更に粘膜に塗り込むようにねっとりと性器で中を摩擦してくるアンリに俺は肘で背後の男を引き剥がそうと試みる。 「ぁ、あ、いやだ……っ、ぬ、いて、」  早く中を洗わなければ、と懇願する俺を見つめていたアンリは猫のように目を細めるのだ。  そして、 「い・や」 「ん゛っ、んん゛ッ!」  ――腰を掴まれ、そのまま奥まで深く隙間のないほど性器を挿入されるのだ。   「は……っ、ずっと、君とこうしたかった……っ、ねえリシェス君、やっと僕のところにきてくれたね」 「っ、ぃ、ちが、ッ、ぉ゛、おれ、ぇ゛……っ!」 「ははっ! ……すごい声、下品に股開いてるところも可愛い……っ、流石、僕の推し……」 「ん、んん……っ!」  キスしていい?と顎を捉えられ、そのままアンリに唇を舐められる。必死に顔を逸らそうとするが、ばちゅん!と腰を叩き付けられれば全身がびくんと海老反りになったまま固まった。そして、チャンスと言わんばかりにアンリは俺の唇にしゃぶりついたのだ。 「ん、む゛、うぅ……ッ!」  薄皮ごと吸い上げるようなねっとりとしたしつこいキスに寒気がした。俺の知ってるアンリではない。なにかがおかしい。  いつから――どこから?  咄嗟に顔を反らし、アンリのキスを拒もうとしたときだった。空いた手が首に伸びてきて、そのまま喉仏の辺りをアンリの手で鷲掴みにされ、血の気が引いた。  柔らかく締め上げられる喉、それと同時により鮮明になる体内に収まったアンリの性器の熱とそこから流れ込んでくる鼓動。恐怖に筋肉蛾硬直し、開いた毛穴から汗が滲む。 「っ、ぁ、んり」 「……っそう、いい子だねリシェス君」 「ん、んん……っ」  今度はアンリの唇から逃れる気にはなれなかった。  いつの日か、首を締められたときの感覚が重なり、死の恐怖と発情で頭の中がどうにかなりそうだった。  恍惚の表情を浮かべたまま、アンリは俺の喉仏を柔らかく、優しく撫でながら更に深くキスをした。当たり前のように這わされる舌を受け入れることしかできなかった。  すっかり死の記憶で萎えた性器は、アンリの抽挿の衝撃に耐えられずにふるりと震える。 「は、リシェス君……っ」 「んん゛……っ!」  二度目のアンリの射精は早かった。  にも関わらず、先程と変わらない量吐き出される熱に溺れそうになりながら、俺は首を締められたまま酸欠の頭で釣られて失神した。  ――最悪だ、死に損ねた。  その後悔と恐怖だけが強く脳裏に焼き付いたまま、俺は意識を手放した。

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