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第48話

奏一と連絡を断ってから二週間。 奏一はどうしているだろうか。ユイトの事を探しているだろうか。突然音信不通になったのだから、狼狽えているかもしれない。そういったことが気にはなるものの、堪えた。 ユイトは、店で副主任の昇格祭を終え、いつものように仕事をしていた。それでも、自分で起こした行動とは言え、奏一を思い出しては胸を苦しくさせていた。そのたびに、奏一が幸せになるためだと自分に言い聞かせた。 ある日、店が閉店したばかりの午前一時頃、店のドアが開いた。 その時、ユイトは片付けのために厨房にいた。「すみません。もう閉店したんですよ」 ドアが開いたことに気付き声をかけたのは、先輩の優牙だった。 だが、優牙は閉店後のホストクラブを訪れた人物を見て目を丸くした。 「あの……何か?」  優牙が目の前の人物を不振がりながら尋ねた。 「すみません、こんな時間に……その……葛城ユイトさんいらっしゃいますか?」  さも真面目そうな面持ちの人物は聞いてくる。 「カツラギ?ユイト……?あのー、そういう名の者はこちらにいないんで……あ、もしかして本名ですかね…。源氏名わかりますか?」 「確か……レン……とか言ってたかな……いるでしょうか?」  その人物は縋るようにこの店のナンバーワンホストを見つめた。 「あぁ、蓮ですね、少々お待ちください。只今呼んで参りますので」  そう言って頭を下げると、優牙は奥へと消えて行った。 ユイトが厨房でグラスを濯(ゆす)いでいると、優牙が現れた。以前は優牙に殴られてしまったこともあったが、今では関係も良好でユイトも彼のことを慕っているくらいだ。 「おい、蓮。お客さんだぞ。男だけど……」 「え?客?こんな時間にですか?」  ユイトは思い切り不審に思った。一体こんな時間に誰がこんなところに来るというのだろうか。しかも男と言っていたが……まさか、奏一ではないだろうかとそんな期待が過った。 もう会ってはいけないのだと思いつつも、もし来たのが奏一だったら嬉しいなと思ってしまう。 「あぁ。何か真面目そうなヤツだったけど。……続き、俺がやっとくから行けよ」  そう優牙に言われたが、洗剤の付いたスポンジを片手に持っているユイトは戸惑った。 「でも……」 「大丈夫、任せろって。待たせると悪いだろ、早く行けよ」 「……はい、すみません。お願いします」  礼を言うと、ユイトはササっと手を洗い厨房を出た。  緊張しながらフロアに出て入り口に向かうと、ユイトは顔を見るなり硬直してしまった。足の裏が張り付いたように、動くことができない。

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