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十一 多分、だいたい吉田のせい
「ったく、マジで吉田のヤツ、うざい……」
鞄をベッドの上に放り投げ、げんなりしながらそう吐き出す。あれから毎日のように吉田に「合コンをセッティングしろ」と言われ続けている。もうアイツの口、縫っちゃおうかな。
「大体、合コンすれば彼女が出来ると思ってるのが厚かましいんだよ。そんなに簡単に出来るなら、既に彼女持ちだろって」
しかも、最初っからヤリモクなんだよな。アイツの場合。彼女を作ってデートして、大切にして、将来を考えて……なんてこたぁ思っていないのだ。彼女が居ればヤれる! 風俗に行かなくてもヤれる! くらいしか思っていないのである。マジで最低。
「はあ……」
つい、ため息が出てしまう。今日は仕事で疲弊しすぎて食欲がなく、食堂に直行する気分になれなかった。何をするでもなくパソコンを起動し、ネットのニュースを流し見する。
「お」
目に飛び込んできた記事に、思わずクリックする。男性アイドルグループ『ユムノス』の記事だ。いわゆる『ナマモノ』のBLジャンルも平気な俺だけど、アイドルに嵌ったことは一度もない。それでも、栗原の兄が所属していると知ってからは、なんとなく意識的に見てしまうことが多かった。
「ライブの話だ。やっぱ栗原亜嵐、カッコイイな。うちの栗原の方がカッコいいけどね」
身内びいきなので、俺的には栗原(風馬)のほうがカッコいい。双子とは聞いたが、やはり微妙に違う。栗原の方がやや涼やかで、栗原亜嵐の方がやや甘やかだ。特集記事にはインタビューも掲載されているようで、今回のライブのコンセプトや、本人が嵌っているもの、意気込みなどが書かれていた。
「今回のライブのために体力づくりしました……音楽以外の仕事もこれからばんばんありますので、そちらも応援してください……休みの日には色々なフレーバーティーで癒されてます……なるほど。音楽活動以外にも、色々やってるんだな」
補足を見ると、栗原亜嵐は役者もやっているようで、ドラマなどでも活躍しているようだ。アイドルと演技というと、どうしても良いイメージがわかないが、栗原の兄だから応援はしたい。
(機会があったら、観てみようかな)
棒演技でも笑ったりしないぞ。いや、アイドルが棒演技ってのは偏見か。
見るようなニュースも他になく、感覚に馴染んだままにお気に入りに追加されている小説投稿サイトのアイコンをクリックする。俺が日常の萌えを還元している、創作の場である。ちなみにペンネームは「いち」。
「記憶が新しいうちに、パンケーキデートネタにしたいよなあ」
パンケーキ可愛かったし、シェアするとか良かったし、栗原はイケメンだったし。
そう思ったところで、ふと手を止める。
(俺、めっちゃ栗原とデートっぽいことしたな!?)
記憶がフラッシュバックして、カァと顔が熱くなる。いや、デートではないんだけどさ。後輩相手にこんなこと思ったりしたら悪いんだけど。でもまるでデートみたいじゃん。なんなら栗原だったら「先輩とデートしました」って平然と言いそうではあるけれど。
「あー、ダメだわ。モブの癖に分をわきまえないでデートとか」
いかんいかん。呼び捨てで名前を呼んでも良いと言われたりして、最近調子に乗っていたからな。あまり調子に乗ったら、本当に嫌われちゃうよ。
「ふぅ、これだもの、合コンなんて余計にナシだよな」
こんなに調子に乗っているあげく、合コンに誘うなんて絶対にあり得ないもんね。
そう呟き、ため息を吐いた時だった。
「合コン? 先輩、合コンするの?」
「ひゃうあっ!?」
耳元に突然囁かれ、驚いてビクッと肩を揺らす。椅子から転げ落ちそうになるのを、栗原が抱き留めた。
「驚かすなっ!?」
「そんなに驚かなくても」
「もう、いきなり入って来るなって。ノックしろ」
「で、合コンって?」
「――」
話を聞かない奴め。思わずジトっと見上げると、栗原はにこっと笑い返した。お前、笑顔を見せておけばいいと思ってるだろ。イケメンだから許すけど。
「別に何でもない」
実際、合コンの話は存在しないのだ。吉田がただ言っているだけだし。
「俺には内緒ですか? 酷いな……」
「別に内緒なことなんてないんだって。吉田がふざけてるだけで……」
「吉田先輩?」
栗原が小首を傾げる。皆まで説明すると、気を遣わせてしまいそうだ。吉田のためにそんなことしたくないのに。
「……吉田が騒いでるだけ。合コンしたいって。でも俺ら三人は反対してるから成立してないの。以上」
「ああ――。なるほど」
吉田がどんなやつなのかは、栗原も把握しているはずだ。栗原は机の横にある俺のベッドに腰を掛けた。俺の部屋に来るときの、栗原の定位置だ。
「鈴木先輩、恋人欲しいの?」
「あー、どうだろ。おひとり様極めちゃってるからなー。寮生活楽だし」
「解ります」
ニコッと、栗原が笑う。お前にも解っちゃうのか。
現実問題、一人って楽なんだよな。そりゃ、恋人が居れば楽しいのも解るけどさ。わずらわしさとか義務感も出てくるじゃんか。寮生活だと独り身の気楽さの上に、集団生活のおかげで寂しくないんだ。寮内にはイジメとかもないし、過干渉もないし、マジで楽なんだよな。
(まあ、吉田の言い分も理解しないわけじゃないけど……)
多分、一番のネックは性欲の方。俺は一人で発散できるタイプだけど、吉田はそうではないのだろう。結局のところ、そういうことなのだ。
「まあ、そんなわけでおひとり様は良いけどさ、お前もあんまり気楽さになれちゃうと、一生独り身もあり得るから気をつけろよ?」
「それは先輩も同じでしょ?」
「俺はどうせ独り身よ」
「そんな訳ないじゃない」
お前はそう言ってくれるんだな。俺は多分、万が一は起こらないと思うけどね?
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