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四十四 いつか

 喉の渇きを感じて目を覚ました俺は、胸に乗っかった腕の重さに肩越しに振り返った。抱き枕みたいに俺に抱き着いた風馬が、すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。 (寝てた……)  どうやら二人そろって寝落ちしてしまったらしい。シャワーを浴びたい気持ちと、億劫な気持ちが湧きあがり、ついでに眠っている風馬を起こすのは忍びなくてそのままにする。 (寝顔もイケメン……)  薄く開いた唇と、長いまつ毛。いつもは決まっている前髪が、今は少し崩れている。  腕の重さに身じろぎすると、起こしてしまったのか風馬が小さく呻いた。 「う……、ん……?」 「あ、ゴメン」  起こしたついでに寝がえりを打って、風馬の方を向く。風馬はとろんとした顔をこちらに向けて、俺の身体を引き寄せた。 「んー……」  すり、と額に顎を擦られ、思わず目を細める。こんな風に甘える風馬が、愛おしいと思ってしまう。こんな姿、多分、誰も知らない。 「風馬、シャワー行く?」 「……明日の朝で良い……」  心底面倒そうに言う風馬に、クスリと笑う。風馬がぎゅうっと俺を抱きしめて来た。どうやら、目が覚めて来たらしい。 「……先輩、泊って良い?」 「ん? ――ベッド、狭くない?」 「せまくない」  すぐ隣の部屋なのに。そう思うが、野暮なので口に出さないでおく。互いにピタリと寄り添って、絶対に狭いし、身体もいたくなるし、良いことなんかないんだけど。俺は手を重ねて、指を絡ませた。風馬も、俺の手を握り返す。 「寮ちょっと狭いけど、くっついてたら平気ですね」 「俺はもう少し広い部屋のが良いな。本が置けなくて」 「あー、確かに。じゃあ、専用の部屋とか作るのどうですか?」 「良いねー。趣味部屋みたいなのさ。憧れるよね」 「大きいテレビで、映画とか観るのも良いですよね」 「それなら、並んで座れるソファとか欲しいな」 「ベッドはダブルにして、一緒に寝ましょうよ」 「えー。疲れない?」 「疲れないですよ。疲れなんか吹き飛んじゃいますよ」 「風呂も――広い方が良いかな……」 「……そしたら、一緒に入りましょうね」 「……」 「……」  まだ決まっていない未来の話をして、黙り込む。俺は多分、この先もずっと、風馬と居るつもりがあって。風馬も、俺といる未来を想像している。そのことが、たまらなく、嬉しかった。  自然と唇が近づき、触れるだけのキスを繰り返す。 「――先輩、いつか――」 「うん」  風馬は「何を」とは言わなかった。俺も、聴かなかった。

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